確かに俺は文官だが

パチェル

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第4章

忙しいのは変わらない6

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 鉛筆が机の上にコロンと転がった。

 問題がわからなかったところがいくつかあったし、最後の問題は書きかけである。
 まだ、頭の中では先程の解きかけの問題がぐるぐる回っているヒカリは腕を上へ向けて伸ばし、背筋を伸ばした。
 ついでに腰をひねって、首も回す。


 さすがに5時間、ぶっ続けで机に向かっているのは疲れた。
 時々立ち上がって資料を取りに行くのがちょっと助かると思うぐらい。


 肩をぐるぐる回す。
 ぎゅっと瞑った目をパッと開いて目がじんわりするのを感じる。

 思わずあくびが出た。




「じゃあ、休憩ね」
「えっ? 面接は?」


 ケーティがあきれた顔をして時計を指し示す。

 いつの間にか机の上に小さい置時計が置かれていた。
 セイリオスが運んできてくれたお茶も、最初に手を付けただけで冷めてしまっていた。


「今、何時?」
「3時です」
「何だ、時計読めるんだぁ!」


 と少し怒った顔をする。

 何に怒っているのだろうか。わからずビクビクとケーティを窺う。
 そして、何かに気付いたのか目をはっと開いて、奥の方で立ち上がったセイリオスをにらみつけた。



「わかった! これ、セイリオスくんのせいでしょう? ちょっとちょっと! そういうのうちの方針と違うんですけど? 10点減点しようかと思ったけど、セイリオスくんのせいならヒノくんから減点するわけにはいかないなあ。今からきっかり一時間、休憩してきて。そしたらチャラにしてあげる。はい、いってらっしゃーい」


 ケーティが早口で色々言うので、頭を使ったあとのヒカリからしたら理解する前に言葉が飛んでいってしまった。
 そして、よくわからないまま追い出された。


 不安になって、廊下で一緒に追い出されたセイリオスを見上げると困ったように笑っていた。


「最近ブームの働き方改革らしい。ヒカリが休憩を一切取らなかったから気にしてくれたんだよ。頑張りすぎだ。お腹すいてないか? じゃ、昼御飯食べに行くか」


 食堂につくと昼食の時間が終わっており、遅れた人用昼食を選んだ。

 昼食用に用意したが、残ってしまったランチをそう呼ぶのだという。
 お値段もお安くなって一番安いお財布優しい定食の三割引き。
 その代り何が入っているかは来てからのお楽しみというものらしい。


 即決でそれを選んだ。

 出来たらセイリオスが運んできてくれるというので、ヒカリは席を取りに行く。
 と言っても、中途半端なお時間でコーヒーを飲んでいたり、おやつを食べている人がちらほら。


 ヒカリはきょろきょろとあたりを見回し、窓際の席に向かった。

 窓際と言ってもすごく上に窓があって、ぼこぼこしたガラスから光が降り注いでいた。
 こっちからは柔らかい光なのに、首を右に向けるとそっちは大きな窓があって外がよく見えるような席だった。


 よしここにしようと、ランチを食べるために鞄をごそごそ。
 目的のものを取り出して、お行儀が悪いなとは思いつつも。

 ぱちぱちぱちぱち。


 セイリオスがパスタもそれで食べるのかと笑って席について、おいしいねとパスタをあむあむと食べた。
 スープはスプーンで食べる。

 ちぎったバゲットを口に放り込んでさらにモグモグ。

 その一連の流れがおいしかったのでもう一巡。


 食べながらヒカリは先ほど驚いたと感じたことについてよーくよく考えて、セイリオスに話した。


 自分が今まで受けたことのあるテストなんて大体一時間ぐらいで、今回みたいにテスト時間が五時間も提示されたことがなかったのだと。
 しかも、ヒカリが受けたことのあるテストは辞書とか本とか一切見てはいけなくて、席から立つことも禁止されていて、なおかつテスト中にトイレに行けばそこでテストが終了してしまうという話を。



 それを聞いてセイリオスは、すごく驚いた顔をしていた。
 で、カトラリーを置いてこめかみに手を当てて三秒ほど。
 すまんとセイリオスが言った。


「テストの受け方も教えておいたらよかったな……。すまない……」
「え、いや、べつにあやまる、ほどのことじゃない? とおもけど。それにどちみち、時間足りなくて休憩、とかとれなかたし」


 早くご飯食べようと言えば、だめだ、ゆっくり食べてと言う。
 時間余ったら昼寝でもして、時間になったら俺が運ぶからとか真面目な顔して言うものだから、これは意地でも寝られないぞとすごくゆっくりご飯を食べた。
 いつの間にかデザートも追加されていた。


 因みにセイリオスは本当に自分のせいだったと、後で上司に謝りにいったのだとか。




 人には休憩を勧めておいて、当の本人はと言うとヒカリが解き終わった答案を机の上に広げて採点していた。
 ただし書類だらけの机の上なので、それらを押しのけてヒカリの答案を置いたものだから机の端から書類が落ちそうになった。


「あぁ、ちょっと。課長!」
「あ、ごめんね。ダナブくん」

 タウが机の上に乱雑に置かれていた書類の角を揃えて置きなおす。
 ヒカリの答案がちらりと見えた。








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