確かに俺は文官だが

パチェル

文字の大きさ
上 下
249 / 421
第4章

忙しいのは変わらない3

しおりを挟む



 何だか焦ってしどろもどろになったセイリオスにスピカはジト目を向けた。
 浮気がばれて言い訳している人のようにとしか言えないほどしどろもどろである。



 ヒカリもセイリオスが何を言いたいのかわからず、こんがらがり始めたので首をひねる。
 確かにヒカリは結婚とかを考えていないので養うのは自分だけで十分なのだが、セイリオスとスピカは違うだろう。

 明日にでも結婚したいと思う人が出てくるかもしれないし、そうじゃなかった場合も、この世界で老人ホームとかなかったらお手伝いさんとか雇わないといけないんじゃないかな。

 とか思うものの、目の前の二人は何だか焦っていて、話が少し通じなさそうだった。



 しかたない。
 ここはヒカリが折れるしかなさそうだとそれはわかった。


 二人の言うことを聞いていて間違ったことは、今のところないし、二人はヒカリに期待していないわけではなく、どんな結果でも移民になれたのならどんなこともできると考えているのだろう。


 それに。




「ぼくも二人とおなじとこに働きに行くの、楽しみにしてるから、言うこと聞いて寝ます。ご」
「ストップ。謝らないで。ヒカリがどうしても徹夜したいならそれを止める権利は俺たちにはない。んだけど、本当にヒカリなら受かると思ってるしすごく期待してる。ただ、現状、ヒカリの睡眠サイクルをしっかり整えるほうが、俺は受かる確率が上がると思っているんだ。試験は体力勝負だから。だから、これはアドバイス。先輩としてのな?」
「主治医としても?……んーじゃあ、寝る!」


 よっしじゃあ、寝るかとほっと胸をなでおろし、スピカは祈った。


 スピカは医務課の試験のことならどんな内容と答えられるのだが、魔道具関連課のことは正直よくわからない。
 あの課長がその時ハマっている魔道具に関して出題傾向が大幅に変わるらしいので、毎年傾向がつかめず過去問が役に立たないので有名なのだ。



 しかも、実技が重視か、専門教科が重視なのかもいまいちわからない。

 だから、本当に心配しても無駄なのだ。
 祈るぐらいしか前日にできることなんてない。






 セイリオスはやはり首をひねる。
 あの課長と話がはずんでいるのならきっと大丈夫なのだと思う。
 要はそこが大事なのだ。



 あの課長と魔道具について話せているのだ。
 だとしたら何の心配がいるのだろうか。

 今ハマっている魔道具に関してはヒカリともきっとよくお話していることだろう。


 やっていることを試験でまたやるだけのことだ。
 それの何が不安なのか。




 やはりわからない。
 ので、うまく説明できなかった。





 だから、布団の中で何度も寝返りを打っているヒカリの不安が伝播してきて、目がさえてしまった。



 別にどうしても一緒に働きたいのなら、臨時職員の試験は年に一回は受けられるし、普通に試験を受けてもいいし。

 そういえばよかったかなと思ってヒカリの瞼を見ていたら、ヒカリがパチリと目を開けた。



「セイリオスも眠れないの?」


 ヒカリが心配そうに聞いてくるものだから、セイリオスも正直に話した。
 理由がわからず謝られることほど腹が立つものはないからだ。


「……ヒカリをもっと上手に励ましたかったなと思って。うまくヒカリの不安をわかってやれなくてごめんな」
「え? そなこと? あやまることじゃないよ。すぴかもいってたしょ」


 それに僕も考えてたんだとヒカリ。


 セイリオスがうまく説明できなかったのはきっと、試験に落ちるって考えられなかったんだろうなって。
 だから、ぼくの不安もよくわからなかったんでしょ。
 それ、同じだよ。


 僕はきっと試験に落ちるって、受かるわけないって考えちゃったからさ。
 セイリオスの信頼がよくわからなかったんだよ。


 でも、よくよく考えたら落ちても、またチャンスはあるよね。


 あとね、励ましたいって気持ちうれしいし。
 励ます言葉がうまく出てこないときは、頑張れって。


「ちゅうしてくれたら、すぐはげまされるよ。よく兄ちゃんに『単純な奴だな』って言われてたからっ、あ」


 こそこそ話していたヒカリの向こう側からスピカが起き上がり、すぐにヒカリの頬にチュウをした。


「はい、今、俺がヒカリの不安吸い取ったのでヒカリは眠れます。オヤスミー」

 とパタリ。
 ヒカリは目をぱちぱち。


 えっと、じゃあ。

 と言って、もそもそとヒカリがセイリオスに近づいて。
 セイリオスの枕に押し付けていた方の頬に近づき、唇をつける。


「はい、セイリオスのフアンモスイトッタから、ねれる、ね? オヤスミー」
「なに!? じゃあ、結局ヒカリに不安がうつっちゃうじゃないか。はいもう一回、おやすみー」


 とちゃっかり二回目のキスを今度は額にして、ヒカリがクスクス笑い、スピカも笑い、セイリオスも笑って。



 本当はしっかり不安だったけど、楽しいうれしい気持ちの方が上回ってしまって、移民二日目の夜もぐっすり眠れたのであった。




 そして、移民三日目にして試験を受けるという鬼のようなスケジュールになってしまったのだった。









 見ていると思われると寝れないかなと思い、スピカは窓の方に顔を向けて背後の気配を探る。
 ゴソゴソと音がして何度も寝返りを打っているようだ。

 スピカはかつてこう言われたことがある。


「どうせ一発で一級で受かったあなたに何かわかるわけないわよ。できない私の気持ちなんてっ。平民って言ったって、もとは貴族のボンボンだったんでしょ! 元が違うんだから、私にも押し付けないでよ。私だって努力してるんだからっ。あなたっていっつもそう。正論ばっかりで、自分が正しいって顔してさ。放っておいてよ!」


 後になって思い返せば、確かに無神経な発言だったなとわかる。

 でも、なかなか試験に通らず悩んでいる相手のためを思って勉強を手伝っただけであって。
 そう言われるともう何もできやしない。


 正しいなんて思っていない。
 いつも悩んで悩んで、これが正しいのか、悪くないのか考えている。
 それなのに判断を迫られるときは時間なんていつもほんの一握りしかなくて。


 そしてその時も結局言い返さずに、わかる大人のふりをして何も感じていないようにふるまった。

 今回も同じ。
 きっとヒカリはどうせできる人にはわからないよって思ったんだろうな。
 そうヒカリに距離を開けられて、少しショックだった。


 祈るくらいはしていてもいいだろうか。おせっかいにはならないだろうか。
 窓からのぞく星に祈っていると後ろで二人が話始めた。


 眠れなかったのは三人とも同じで、ヒカリはそのもやもやをしっかり考えていたようで。
 少し申し訳なさそうに、でも、スピカが言った謝らないでという言葉をしっかり覚えていてくれて。

 その内容が聞いていてすごく嬉しくなった。



 だから、その気持ちを言葉じゃ表せなくって、ボディランゲージで表しただけであって。
 断じてやましい気持ちは一つもない!









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

僕は肉便器 ~皮をめくってなかをさわって~ 【童貞新入社員はこうして開発されました】

ヤミイ
BL
新入社員として、とある企業に就職した僕。希望に胸を膨らませる僕だったが、あろうことか、教育係として目の前に現れたのは、1年前、野外で僕を襲い、官能の淵に引きずり込んだあの男だった。そして始まる、毎日のように夜のオフィスで淫獣に弄ばれる、僕の爛れた日々…。

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

凶悪犯がお気に入り刑事を逆に捕まえて、ふわとろま●こになるまで調教する話

ハヤイもち
BL
連続殺人鬼「赤い道化師」が自分の事件を担当する刑事「桐井」に一目惚れして、 監禁して調教していく話になります。 攻め:赤い道化師(連続殺人鬼)19歳。180センチくらい。美形。プライドが高い。サイコパス。 人を楽しませるのが好き。 受け:刑事:名前 桐井 30過ぎから半ば。170ちょいくらい。仕事一筋で妻に逃げられ、酒におぼれている。顔は普通。目つきは鋭い。 ※●人描写ありますので、苦手な方は閲覧注意になります。 タイトルで嫌な予感した方はブラウザバック。 ※無理やり描写あります。 ※読了後の苦情などは一切受け付けません。ご自衛ください。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

3人の弟に逆らえない

ポメ
BL
優秀な3つ子に調教される兄の話です。 主人公:高校2年生の瑠璃 長男の嵐は活発な性格で運動神経抜群のワイルド男子。 次男の健二は大人しい性格で勉学が得意の清楚系王子。 三男の翔斗は無口だが機械に強く、研究オタクっぽい。黒髪で少し地味だがメガネを取ると意外とかっこいい? 3人とも高身長でルックスが良いと学校ではモテまくっている。 しかし、同時に超がつくブラコンとも言われているとか? そんな3つ子に溺愛される瑠璃の話。 調教・お仕置き・近親相姦が苦手な方はご注意くださいm(_ _)m

刑事は薬漬けにされる

希京
BL
流通経路がわからない謎の薬「シリー」を調査する刑事が販売組織に拉致されて無理やり犯される。 思考は壊れ、快楽だけを求めて狂っていく。

処理中です...