確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

パーティーの終わりは終わらない1

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 大人たちがお酒を飲んで、酔っぱらって声も大きくなって。


 子どもは酒臭い大人たちから逃げておいしいデザートに舌鼓を打つ。
 そして酔っぱらっていない大人の話を聞いたりする。


 皆、直接的な知り合いでなくてもヒカリを祝いにやってきた人物たちなので基本気が合うようで、あちらこちらで笑い声が上がる。

 もちろんその中にはヒカリも。




 しかし、パーティーはいつか終わるもので。


 フィルとネイトが遅れてやってきた親と帰っていった。



「移民になったら自由が増えるだろう? 今度うちの店にも遊びにおいで、ぜひいろんな話をしよう。君がよかったら住み込みで働いてくれてもいいよ? うちは寮もあるから」

 とフィルの父が社交辞令を述べて帰っていく。次々帰る人の、その背中が見えなくなるまでヒカリは手を振っていた。



 みんな帰っちゃたなーとヒカリはぶらぶら。


 パーティが終わった後の庭を見て回る。頭の上ではクルクル燈玉が回ってほんのり温かい。 


 みんな帰ったと思っていたがそうでもない。



 タウは酔いつぶれて居間のソファで大きな酒瓶を抱っこして寝ていた。


 ヒカリがソファの近くでしゃがんで顔を覗き込んでも起きない。
 タウも今日は一日中走り回っていたというようなことを言っていたのでブランケットをかけて、大きな酒瓶はクッションに変えておく。


 走り回っていたのは急遽本日執り行うことになったお祝いパーティの出席者を募るためだったのだが、ヒカリは仕事だと思っている。
 知ったら、もっと抱き着いて離さなかったに違いないとセイリオスはひそかに思っている。


 ダーナーはいったん仕事に戻ったが再びやってきたカシオと残った料理をさらえるとお酒をちびちびと飲んでいた。
 それにセイリオスとスピカが捕まって、何やら説教されているっぽいのをヒカリはタウのいるところから気配だけ楽しむ。


 何だか説教されている二人は可愛いのだが、見られるのは嫌かなぁと思ったのでここでこっそり楽しんでいる。
 ダーナーは小声が下手だから所々聞こえてしまう。


 ヒカリはこっそりクスクス。三角座りでソファに持たれながらぼんやりそんなことをしていた。

 ケーティは迎えに来た従者に抵抗してダーナーの横で寝入ってしまった。
 従者は起きたらまた運ぶのでと馬車に帰っていく。




 庭の空中に浮かぶ燈玉がそんな5人を照らしている。




 パーティの終わりはさみしくなった食卓といなくなっていく人たちを感じて少し寂しいのに、そこには温かさが残る。
 ヒカリはそれを片付けるのが少し好きだったりする。そこに残った温かさをゆっくりかみしめられるから。




 終わりがあるけど、次がある。次はもっと楽しいかもしれない。そんな気配が残る。



 そろそろお開きかとセイリオスが言ってこそこそ片づけを始めた。
 ヒカリは今気づいたよという風にセイリオスの近くへ行って片づけ始めた。
  

 残ったものがもったいないからこっそり食べていたら、それを見たセイリオスが自分が持っていた皿の上に残っていたタルトをパクリ。
 ヒカリも手前の皿に残っていた小さい果物をペロリ。



 スピカは残っていた料理たちをきれいにひとまとめにしてダーナーたちの方へ持って行った。
 まるで今作ったかのようにきれいに盛り付けるのだからすごいなとその手つきを観察する。
 するとスピカがお皿の上に残っていたチョコレートでできた小さいケーキをヒカリの口に放り込む。



 もぐもぐしていると「まだ食べられるのか? すごいな。ほらこれも」とか言ってフルーツのゼリーを食べさせる。


 残った料理がきれいになくなれば、空いたお皿をせっせと運んでいく。
 いつもの何倍の量なんだというような洗い物を見てセイリオスが腕まくりをする。




 でいつもの配置に何となく並ぶ。

 セイリオスが洗ったお皿をヒカリが拭き、ヒカリが拭いたお皿をスピカが棚に片づける。






 時計を見ると日付が変わるまであと30分。

 楽しかったなぁ。







 そこでヒカリが意を決して話し始めた。
 できるだけそんな大したことないんだという風に。



 何回もどうやって伝えようか悩んだ。言葉をいくら学んでもしっくり来ないあれこれ。

 でも、帰れるよと何故か確信している二人に伝えないといけないこと。
 自分が一番信じたくない事なのに、それを伝えないといけない。






 あのね、二人に話しておきたいことがあるんだ。

 信じられなかったらそれでもいいんだ。
 僕の空想だとでも思ってくれていいんだ。
 病院に連れて行ってくれてもいいよ。僕も僕が間違っていたらいいのにって思うから。



 でも、移民になれたらその日に絶対言おうって。


 決めていたの。
 お祝いが長引いてこんな時間になっちゃったけど。




 ヒカリが下を向いたまま笑う。本当は前を向いて笑ってるつもりだったけど無理だった。



 セイリオスは水を流す量を少し減らして、スピカも片づける皿の量を一枚づつにした。
 ヒカリがお皿をきゅっきゅと拭いている音がやけにはっきりと聞こえるくらい。




 あのね、僕。この世界のどの迷子よりきっと、元の場所に戻れないと思う。
 どうしてかって?



「僕の世界はここじゃないから」



 ヒカリがセイリオスが洗っている器に指で絵を描いた。

 僕の住んでいたところはこの世界にはないんだ。
 そしてぼくの住んでいたところではセイリオスたちのこの世界にはないんだ。



 むずかしい? えっとね、二人は神様の世界を知っている?
 地図に載ってる?

 載ってないよね。どうやって行けばいいかもわからないよね。
 それとおんなじ。



 きっと星と星、もしかしたら世界と世界。それ自体が違うの。


 だから僕が帰ろうと思ったら、とても大変なことなんだと思う。
 歩ける道がないんだ。


 証明はできないけど、ぼくの世界は世界中で戦争をしたことがあるんだ。世界中の情報が一瞬で隅々にまで届くんだ。


 それなのにセイリオスたちの世界のことを知らないなんて変でしょ?
 セイリオスたちがそんなこと知らないなんて変でしょう?

 魔法もないのに。



 僕の世界では世界地図は完成しているの。どこでも手に入れられる。
 ここはそうじゃないでしょ?

 海の端の端に何があるか、空のすごく遠く遠くから見られるんだよ。
 海の端の端はぐるっと回れば同じところなんだよ。






 だから、どんなに迷子になっても、ぐるっと回れば帰れる理論なんだ。




 でもきっとここはぐるっと回ってもここに戻ってくるだけなんだよ。











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