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第3章
長すぎた一日34
しおりを挟む雨がポツポツ降ってきた。
これはマズイとカシオは空を見上げる。
雨が降れば、人探しは難航を極める。人は室内に入ってしまうし、眼や耳を使いづらくなる。
それに匂いも。
しかし、動物型は空をじっと見上げ、そのあと地面に這いつくばり始めた。雨でびしょびしょになる地面を一生懸命に嗅ぐ。
「まだ匂いは残ってるか?」
「……ナイ。デモ」
「ここで突然途切れているってことは、こっから先はヒカリは匂いを残せない状況だったんじゃないか?」
セイリオスが雨も構わず、地面や壁を確認していく。
なるほどとカシオも見ていくと確かにある。大きな馬車が通った跡が。
「確か、ここら辺は乗合馬車はあまり通りませんから、馬車の目撃証言を追いましょうか」
「大きな馬車もあまり通らないだろう。道が舗装されていないし。動物型は馬車が通った痕跡がないか見てくれ。地面は雨でぬかるんで無理だから、つぶれた植物やえぐられた木、建物の擦れなどを見てくれ。俺たちは聞き込みをしながら追う。それと動物型、クイ鳥型を呼び出せるか?」
「ウン、おっけー」
雨が降り、暗くなった中、二人と二体で捜索を開始した。
セイリオスは降りてきたクイ鳥型に範囲を指定して上空から見てもらう。
どこかに馬車が止まっていないか。おそらく馬車は大きめだと思われるのでそれを中心に探してもらう。
カシオは魔紙で現状を報告した。
そうすれば散っている捜査員を囲みながら集結させられるだろう。
人の証言と動物型が根気よく痕跡を探したので、それなりに追いかけられていると思いたい。
こちらの道はヒカリには決して教えられない道。いかがわしい店、いかがわしい商売が行われている通りだった。
実際、夜でなくてもそれなりに利用者はいるのでヒカリが見たらあわわ、おわわ、あ、あれ? セイリオス、ちょと、腕借りていい? と言って目をつむって歩くような道だ。
「おい、セイリオス!」
スピカが雨の中、走ってきた。
天気は良くなることはなく、太陽は隠れて一向に出てこない。
「セイリオス、お前、犯人の目星がついているのか」
「……大まかにな。動機もなんとなく。でも、ヒカリをどうするかはわからない。交渉材料か、報復か。どちらにしろ、早く見つけてやらないといいことにはならん」
上空からクイ鳥型が馬車のある場所を知らせてきたため、宿屋がいくつも軒を並べている中で、一番近く、そこそこ大きめの宿屋の前で待機中であった。
そのうちの一つ目にカシオが聞き込みをしている。
店主はその馬車はお客さんのだから、俺がどうこうできるもんでもねぇし、うちは商売がてら過干渉はしないんだよと情報提供に渋られている。
この店は宿屋と言っても、休憩所としても使われているようだ。
スピカがほかの宿屋もちょっと様子見に行ってきた方がいいかなどと話していると動物型がセイリオスの裾を引っ張った。
「ん、なんだ?」
動物型は何も言わずセイリオスを引っ張っていく。その宿屋のすぐ隣は木々が生い茂っており、中はより暗くなる。
しばらく進んだところで動物型が地面を指さし、木の根元を嗅ぎに行く。
「ヒカリの匂い……。アト、イヤナニオイ。そこ」
地面をよく見ると、誰かが転んだようにえぐれており、周囲を見れば靴跡がいくつか見られた。
雨が降っているが元からぬかるんでいるのと、木々が生い茂っているため、雨の影響が少なかったのだろう。きれいに残っている。
セイリオスはすぐに現場保存を捜査員に依頼し、カバンからシダー液で作ったカバーを取り出して渡した。
そして動物型をほめようとしたところで突然、上空が明るくなった。
そして、ふわふわと煙のようになって一瞬だけ、どくろの模様になった。
「え、何?」
スピカや捜査員が驚いている間にセイリオスはもう踵を返していた。
それを見てスピカも追いかける。
「っ、ヒカリだ! あの建物の中にヒカリがいる!」
「は? なんで?」
「あれは俺が作った魔道具だ。ヒカリしかもっていない」
よし、きた! とスピカがぐんと前に出た。
身体強化を使ったのだろう。セイリオスも負けじと一層早く脚を前に出した。
セイリオスが林を抜けると、カシオのもとへスピカが向かっていった。
まだ店主が渋っているのだろう。
謎の発光を確認したカシオが強硬に確認しに行こうとするが、戸惑いながらも店主は押しとどめている。
中から悲鳴が聞こえたならカシオも強行突破できるのだが、発光ごときではそれも無理だ。
そこに息も乱さぬスピカが現れた。
「緊急対応事案です。医師課の任務の為、至急この宿屋を調べさせていただきます」
ローブの中から白衣の胸元につけている課章を見せると店主が渋々といったように道を開けた。
医師課の清廉潔白で日ごろの行いがとても厳しい理由の一つにこの特別な権利が関係している。
人命救助のために道や場所を開けてもらったり、強制的に建物の中に入ることができる。これは王城に勤務している医師だけなのでめったにないのだが、王命と同等と捉えられる。
その権限を持っているがゆえに、とても厳しいのである。
また、その権限の大きさゆえ、なかなか個人での使用はされないものでもあり、使うにはそれ相応の確信があるときだ。
そのころにはセイリオスも追いつき三人で宿屋の中に入った。
開けた途端、中にいた人物が襲い掛かってきた。スピカはそれの顔面に鉄拳を浴びせ、その横で剣を抜こうとした人物にはカシオが氷を浴びせた。
セイリオスはというと一足先に階段へと足をのせていた。
「あの発光の位置は4階付近だ。さらにあの林から見えた位置はこっちだ」
そのセイリオスに追いつくように階段を上っていく。
下からやってくるやつ、上からやってくるやつを始末しながら進んでいく。
四階の階段につくとますますヒカリの気配を感じた 。
階段がカラフルに彩られているのだ。カラーボールを投げたのだろう。至る所に。それを踏んだ靴跡もいくつも見かけた。
上がった先の廊下から血の匂いが漂ってきた。気持ちだけが先を急ぐ。
途端に足がもつれるようになりながら、滑り、その部屋に入った。
「っ、要救助者発見、対応する。ほかにも被害者がいないか確認を頼む」
スピカがなだれ込むように倒れている人物に駆け寄った。
急いで持ち運んでいたバックから鋏を取り出し、倒れている人物の服を切り裂いていった。
肩から大きく刃物で切られており出血量がとてもじゃないが多すぎる。
下半身は服をはぎとられている。
そこからも出血しているからおそらく性的な被害に遭っていると思われた。
服は血にまみれていたが判別できた。顔の横には吐いた後もある。
騎士である。
心臓は動いているが、意識が戻りそうにない。
ひどくゆっくりと脈が動く。おかしなところもあった。
簡単にだが処置がされていたのだ。そこら辺にあったシーツなどで傷口の止血が行われていた。切られてから時間がたってはいるが、なかなかしっかり傷口を止めてあった。
そのシーツを慎重にはがしてみると、傷口には薬が塗り込んである。止血効果のあるものだ。
そしてそれは自分がよく使うもので。
スピカは一瞬だけ目を閉じて、ヒカリを探し回りたい気持ちを飲み込んだ。
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