確かに俺は文官だが

パチェル

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第3章

長すぎた一日2

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 驚いたダーナーが振り返ると「おおきぃ。ぶあついぃ」と呟くヒカリが目に入った。
 まさか、セイリオス達にするみたいに手を掴まれるとは思っていなかったのだ。



 何度かにぎにぎして、掴み心地を確かめるようにダーナーの手を見ていたヒカリが顔を上げるとばっちりと目があう。



「へへっ」


 いや、何のへへっなのかわからないが、はにかまれたダーナーは気が抜けた。


 俺にはこいつのことがよく分からねぇ。
 俺のことが怖いのか、怖くないのか。
 今日はセイリオスもスピカもいないからきっと心細いだろうと気を使ったのだ。


 いらないお世話だったみたいだが。


 掌の中の手は、ダーナーからすればとても頼りないものだった。
 握りつぶそうと思えば握りつぶせるし、離せばすぐに離れていくような気がする。

 でも確実に生き物の温度を感じさせる。
 必死にこちらの手を掴んでいるのがわかるのだ。
 握っていて掴んでいるのに、その温度があることになぜかホッとする。




 セイリオス達がダーナーのもとに来たころには手を繋ぐ年ごろではなく、小さい子どもの手を繋いだことなんか記憶にない。
 そもそもヒカリも小さい子どもというわけではない。
 何の違和感もなく手を繋ぐことの方がおかしいのかも知れない。

 しかし、こちらで人らしい生活を取り戻したころから、手を繋いで人ごみの中を歩いていたので、必要なことだと一度理解したヒカリには、それがなんだというのだ、くらいの感覚だ。

 だから何でもない感じで手を出されたから繋いだだけ。
 それだけだった。



 因みにヒカリは気付いていないが、こういった点もヒカリの危うさだと燈は思っている。

 そしてそれは、ヒカリの家族のせいでもあると反省していた。
 ちょっとばかり、家族とのスキンシップが高校生にしては過剰かもしれないと。

 気を許せば、ヒカリの内に入ってしまえば、ヒカリには躊躇がない。
 手を繋ぐのだって納得して繋いでる。寝るのだって。

 家族にためらいなくチュウをするヒカリに燈はちょっとひやひやしていたぐらいだ。



 なぁ、光は高校生だよな? あれじゃないの? なんかこうべたべたするのっていやになる感じとか来ないの?
 その、反抗期とかさ? まさかあれで反抗期終わったとか? いやいや、そんなはずないよな。
 兄ちゃんいつでも光の反抗期ウェルカムだから。待ってるよ。



 という感じで結局、べたべたするのキモイとか言われたらちょっとショックなのでそれは心の中だけで終わらせたり、父親と話したりして本人には聞いていない。



 そしてダーナーも然り、今ひやひやしている。
 こいつには警戒心とか自衛心とかないけど、何なんだよ、マジで。
 セイリオス。こらお前、ちゃんと常識教えておけよ。


 ため息をついてダーナーはヒカリに問う。


「おい、ヒノ。お前はこうやってだれとでも手を繋ぐ国から来たのか。こうやって何のためらいもなく人に触れる国だったのか?」


 するとヒカリは、その言葉の意味を咀嚼してぽんぽんぽんと三秒ほど考えて首を振った。



「うぅん。いいえ。どちかといえば、あんまりしない。……もしかしてまちがた? 課長さん、いやだた?」


 離そうとした手を何故かダーナーは離さず掴んだままだったので、ヒカリは力を緩めた手を見て首を傾げる。


「俺は別に嫌じゃねぇけど。こうやってだれでも簡単に触れたら勘違いする奴出てくるだろう?」
「勘違……。どんなので、すか?」
「ほら、お前と親しくなれたとか」

 ヒカリは親しくと呟いてまた少し考えて、ぱっと顔をあげた。

「おー、じゃ、まちがてないです!」


 ニコッ。


 いや、ニコッじゃねえ。
 どういう論理なんだ?


 首を捻りなから、考えるのが面倒くさくなったダーナーはしっかり手を繋いで警吏課をあとにした。


 ダーナーは手を繋ぐのは別に嫌じゃないのだ。
 本当は少年のセイリオスやスピカがいいのなら手を繋いだ。


 でも、自分からはできずにそのままだった。頭をよくやったと撫でるぐらいで。
 それも、育つに連れて嫌がられてから、やめた。

 嫌われたくはない。


 あっちがどう思ってるか知らないが、ダーナーにとっては家族と同じ存在だ。
 子どもみたいに思っている。
 言わないけれど。



 だから、図らずも手を繋がれて動揺した。
 ダーナーは子どもに弱い。弱点でもある。


 ヒカリもあいつらみたいにもう、子どもじゃないけどと言うだろうが。


 しかも。

「セイリオスとスピカの家族は、僕にとっても大切だから。親しいと思う。うれしいです」


 歩きながらそんなことを言うから、赤くなった顔をもう片方の手で隠さなくてはいけなくなった。


  このやろう。きっちり落としきるつもりだな? 


「んじゃ、手離すなよ」

 そう言ってしっかり手を繋ぎながら顔面凶器を赤く染めた警吏課長が警吏課の扉を開いた。
 後ろではカシオがぷっと音を漏らした。








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