152 / 413
第3章
長すぎた一日2
しおりを挟む驚いたダーナーが振り返ると「おおきぃ。ぶあついぃ」と呟くヒカリが目に入った。
まさか、セイリオス達にするみたいに手を掴まれるとは思っていなかったのだ。
何度かにぎにぎして、掴み心地を確かめるようにダーナーの手を見ていたヒカリが顔を上げるとばっちりと目があう。
「へへっ」
いや、何のへへっなのかわからないが、はにかまれたダーナーは気が抜けた。
俺にはこいつのことがよく分からねぇ。
俺のことが怖いのか、怖くないのか。
今日はセイリオスもスピカもいないからきっと心細いだろうと気を使ったのだ。
いらないお世話だったみたいだが。
掌の中の手は、ダーナーからすればとても頼りないものだった。
握りつぶそうと思えば握りつぶせるし、離せばすぐに離れていくような気がする。
でも確実に生き物の温度を感じさせる。
必死にこちらの手を掴んでいるのがわかるのだ。
握っていて掴んでいるのに、その温度があることになぜかホッとする。
セイリオス達がダーナーのもとに来たころには手を繋ぐ年ごろではなく、小さい子どもの手を繋いだことなんか記憶にない。
そもそもヒカリも小さい子どもというわけではない。
何の違和感もなく手を繋ぐことの方がおかしいのかも知れない。
しかし、こちらで人らしい生活を取り戻したころから、手を繋いで人ごみの中を歩いていたので、必要なことだと一度理解したヒカリには、それがなんだというのだ、くらいの感覚だ。
だから何でもない感じで手を出されたから繋いだだけ。
それだけだった。
因みにヒカリは気付いていないが、こういった点もヒカリの危うさだと燈は思っている。
そしてそれは、ヒカリの家族のせいでもあると反省していた。
ちょっとばかり、家族とのスキンシップが高校生にしては過剰かもしれないと。
気を許せば、ヒカリの内に入ってしまえば、ヒカリには躊躇がない。
手を繋ぐのだって納得して繋いでる。寝るのだって。
家族にためらいなくチュウをするヒカリに燈はちょっとひやひやしていたぐらいだ。
なぁ、光は高校生だよな? あれじゃないの? なんかこうべたべたするのっていやになる感じとか来ないの?
その、反抗期とかさ? まさかあれで反抗期終わったとか? いやいや、そんなはずないよな。
兄ちゃんいつでも光の反抗期ウェルカムだから。待ってるよ。
という感じで結局、べたべたするのキモイとか言われたらちょっとショックなのでそれは心の中だけで終わらせたり、父親と話したりして本人には聞いていない。
そしてダーナーも然り、今ひやひやしている。
こいつには警戒心とか自衛心とかないけど、何なんだよ、マジで。
セイリオス。こらお前、ちゃんと常識教えておけよ。
ため息をついてダーナーはヒカリに問う。
「おい、ヒノ。お前はこうやってだれとでも手を繋ぐ国から来たのか。こうやって何のためらいもなく人に触れる国だったのか?」
するとヒカリは、その言葉の意味を咀嚼してぽんぽんぽんと三秒ほど考えて首を振った。
「うぅん。いいえ。どちかといえば、あんまりしない。……もしかしてまちがた? 課長さん、いやだた?」
離そうとした手を何故かダーナーは離さず掴んだままだったので、ヒカリは力を緩めた手を見て首を傾げる。
「俺は別に嫌じゃねぇけど。こうやってだれでも簡単に触れたら勘違いする奴出てくるだろう?」
「勘違……。どんなので、すか?」
「ほら、お前と親しくなれたとか」
ヒカリは親しくと呟いてまた少し考えて、ぱっと顔をあげた。
「おー、じゃ、まちがてないです!」
ニコッ。
いや、ニコッじゃねえ。
どういう論理なんだ?
首を捻りなから、考えるのが面倒くさくなったダーナーはしっかり手を繋いで警吏課をあとにした。
ダーナーは手を繋ぐのは別に嫌じゃないのだ。
本当は少年のセイリオスやスピカがいいのなら手を繋いだ。
でも、自分からはできずにそのままだった。頭をよくやったと撫でるぐらいで。
それも、育つに連れて嫌がられてから、やめた。
嫌われたくはない。
あっちがどう思ってるか知らないが、ダーナーにとっては家族と同じ存在だ。
子どもみたいに思っている。
言わないけれど。
だから、図らずも手を繋がれて動揺した。
ダーナーは子どもに弱い。弱点でもある。
ヒカリもあいつらみたいにもう、子どもじゃないけどと言うだろうが。
しかも。
「セイリオスとスピカの家族は、僕にとっても大切だから。親しいと思う。うれしいです」
歩きながらそんなことを言うから、赤くなった顔をもう片方の手で隠さなくてはいけなくなった。
このやろう。きっちり落としきるつもりだな?
「んじゃ、手離すなよ」
そう言ってしっかり手を繋ぎながら顔面凶器を赤く染めた警吏課長が警吏課の扉を開いた。
後ろではカシオがぷっと音を漏らした。
67
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。
慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる