確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない28

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 図書部員が選んでくれた書物はヒカリでも読めるような比較的簡単な言葉で書かれていたので、何とか読み進めることができた。

 事前に知りたいことをまとめたメモに知りたいことが出てきたらページ数をメモして、ノートに知りたかったことを書き込む。



 難しい言葉もメモしてついでになんちゃって辞典を作っていく。その隣でチャコはチャコで読みたかった書物を読んでいる。


 そもそも今日は休みのはずで付き合わせるのが申し訳ないと言ったら、図書館に行くついでだからという。日ごろから休みにはよく行っているのだそうだ。

 それに警吏課なら特別な申請書も必要ないし、この間の借りを返せるからと言われた。この間の借りって? と聞けば、にっこり笑って返された。


 たったの二、三冊だが、ヒカリにとってはかなり読むのが疲れるものだった。
 データが全て表形式というのもあるが、慣れない文字を読むのは普段使う部分とは違う脳の領域を使うのだと思う。


 ふと回りを見渡すと、人が結構増えていた。
 制服を着たひとや市民もチラホラ、子どもも少し見かけた。

 そのうちの一人と目がバチっと合った。

 というかこっちを見ていたようでヒカリが顔をあげたから目が合ったのだ。パチパチ瞬きしていると相手が会釈をした。
 えっ、知り合いだった!? という衝撃のままヒカリも頭を下げると相手が立ち上がった。


 パタンッ。


「そろそろ、お昼だね。ご飯に行こうか?」

 隣にいたチャコが読んでいた本を閉じた音に反応して横を向くと、ご飯の話をされてヒカリのテンションは唐突にMAXになった。



 そうだ、セイリオスと食堂でごはんだった! 食堂に行くと聞いて、ヒカリの財布にはあの時騎士から貰った割引券が入っている。
 ヒカリも急いで片付け、本を返却棚に入れて机の上に仕舞忘れがないか確認して、机の周りや下も覗いて、もう一度鞄の中をチェックして。


 あれ、さっきの人は?



 と思い周りを見渡すがそれらしき人は見当たらなかった。


 はて、やっぱり知らない人だったのかな? もしかして、ヒカリの向こうにいる人に会釈したのを、勘違いしてヒカリが会釈したから驚いて外に出てしまったのかも。


 だとしたら恥ずかしいな。

 熱くなる頬を押さえながら、キョロキョロ辺りを見渡しているとチャコがしゃがみこんだ。


「どうかした? 落とし物とか? 何か無いの?」
「ううん、違うよ。お待たせしました! 片付けおわ、ったから」

 そこでお腹がぐうーーーと鳴り響く。ハッとしてお腹を押さえるが周りの人は聞こえなかったようだ。


 しかし、そこでヒカリに本を渡してくれた図書部員と目が合うとにっこり笑って。

「お腹の音が鳴り響いても誰も怒りませんよ?」


 といわれ、自分のお腹が少し恨めしくなったのだった。







 図書館の入り口とは正反対の方に出口が一つあったのでそこから外に出る。
 図書館に王城から出入りできるところは他にも10か所ほどあるという。
 一日では回り切れないくらい広いという事がわかったので最初に図書部員にレファレンスをしたチャコはやっぱり図書館に慣れているのがわかった。
 彼自身もよく来るのだろう。読む本をいつの間にか持っていたのだ。



 どのようなジャンルかと聞けば探偵ものだと少し恥ずかしそうに教えてくれた。

「課長にはそんなもん読まなくても現実にごろごろ事件が転がってるじゃねーかとか言われるんだけど、現実と空想は違うよ」
「そうですね。だって現実に事件が、あったら嫌だけど。空想の世界は、本当には傷つけない、です」
「そうなんだよなー。という事はヒカリくんも小説好きですか?」
「うん、すきぃー」


 ヒカリは難しい本を読むのは時間がかかるが、小説となると別だった。 
 登場人物がかっこいいとなおさら早く読める。
 ドキドキワクワクがいつでも味わえるなんてお得じゃんとすら思っていた。


 そう言えば気になる小説の新刊がもう日本では出ているんだろうな。確か実写化が決定して、誰が役を演じるんだろうかと兄ちゃんと弟とよく話したな。



 図書館から食堂へ行く道を歩くと、綺麗に整えられた王城の敷地がこれでもかと目に入る。
 生垣には季節の花が咲いているし、埋め込まれた石で作られた道もよく見ると継ぎ目がないので引っ掛かりにくい。


 どうやってこんなに大きな石を埋め込むんだろうか。
 しかも、雑草が一本も生えていない。
 雑草抜く仕事があるんだろうか。ヒカリができるならやらせてもらえないだろうか。



 そんなことを考えながら歩いていると、食堂が見えてきた。
 混む時間より1時間ほど早めに来たから、人はまばらだった。だからすぐに食堂の入り口の前で立っている人を見つけることができた。


「セイリオス―!!」

 ピョンピョン飛んで走って行こうとすると気付いたセイリオスが少し笑う。
 そして手を前に出して、こちらに小走りで近づいてきた。


「ヒカリ、今走ろうとしただろう。人がたくさんいるから走っちゃだめって言っただろう」
「ごめんなさいー。でもセイリオスがいたからっ」
「俺は逃げないだろう? 走っていいのは緊急の時だけだ」
「はいっ」


 少し体を曲げて目線を合わせたセイリオスがヒカリに小言を述べる。
 普通ならむくれそうなところだが、実にいい笑顔で返事をするものだからセイリオスもつい笑ってしまう。
 ヒカリに手を差し出すとヒカリも自然と手を繋ぎ、セイリオスに寄り添った。


 安心するんだろう。ヒカリを見ていると本当に16歳かと未だにチャコは思ってしまう。自分の弟妹をつい思い出してしまうのだ。


「チャコさんもありがとう。ヒカリは大人しくしてましたか?」
「はい、熱心に本を読んでいて、わからないところがあったそうで」
「そうだ!! セイリオスに教えてほしい、からー、メモしたの」
「じゃあ、時間が余ったら後で見せてもらおうかな。今はご飯が先だな。混む前に行くぞー」
「おー」

 片手をあげてヒカリはセイリオスが動き始めるのを待っている。
 たかが食堂にこんなにテンションの上がる人は見かけたことがない。先ほど挙げた手でカバンを探り、財布を引っ張り出す。

 最近精霊の歓迎が来ておいていった財布だそうだ。
 気に入ってるのがよく分かる。
 取り出すその手は愛おしそうな手つきだったから。



 食堂に入るとヒカリがメニューの前で動かなくなった。

「きょうの、ひがわりていしょく。いつものていばんていしょく。せれくとていしょく。シェフのきまぐれていしょく。おばちゃんおすすめていしょく。おさいふやさしいていしょく。ぜいたくていしょく……」


 メニューを張り切って読んだのだが、内容の分かるものが一切なかった。すべて何とか定食と書かれていて種類がたくさんあった。お値段もそれぞれ違っている。

 この入口のところで立っている人から食堂のチケットを買って、次のところでそのチケットを見せて器をもらうらしい。器の色によって選んだ定食を次のところで盛ってもらえる仕組みだ。

「ヒカリどれにするか決まったか?」
「わ、まてまて! なやみー、ちゅうで、す」

「5分前もそう言ってたぞ」

 だって、選べる要素が少ない!!そんなに贅沢できないからこれとこれは除外だし……。定番定食はきっといつでも食べられるから、置いておいてー。シェフの気まぐれは気になるけど、もし食べられないようなものが入ってたら嫌だし……。

 こんなの即決できるわけがない。
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