確かに俺は文官だが

パチェル

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第2章

過保護になるのも仕方がない26

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 警吏課とのやり取りがあってから半月ほどたったある日。
 ヒカリは仕事を休んで、図書館に来ていた。

 国立の図書館はこの国以外にも近隣諸国、それ以外からの書物が集まっているので調べ物と言えばここに来る人は多いらしい。


 本当は図書館にはすぐにでも来たかったのだが、如何せん申請が通らずようやく通ったので早く行きたいと保護者に申し出たのだ。

 保護者は仕事が休みの日に行こうと言ってくれて、それに文句はなかったのだが、時間が惜しいとは感じていた。

 ヒカリの欲しい情報がここにあるかどうかも分からない。
 かといって一人で出歩くこともできないので、うずうずしていたらスピカが渋々、助っ人を呼んでくれたのだ。



「今日はありがとうございます。チャコさん」
「いえいえ、気にしないでください。また会えたらいいなと思っていたのはこちらだったので、体調はどうですか?」
「元気いぱいです。じゃなくて、元気いっぱいです」


 チャコはゆっくり話してくれるし、聞いてくれる時も焦らしてこないので、文法を考えながら話せる相手だ。
 相手によっては、焦ってしまってカタコトになる。早く返事しないと、と思うのだ。


 ではセイリオス達の時はどうかと言うと、結構何も気にせず話せる空間になるので、ついつい思ったことが優先されて、口から出てしまい、結局カタコトになってしまうことが多い。
 これに慣れてはいけないと思いつつも、二人は言ってることを汲んでくれるのでついつい楽しくて言葉の壁なんて気にしていられなくなる。


 だからこういったたくさんの人と話せる機会はヒカリにとってもありがたい。
 習うより慣れろとは言うけれど、それには環境もいるのだ。自分に厳しくあれる場所が。


「チャコさん、今日はここでお昼も取れるので、またお昼ごはんの時に食堂にヒカリを連れてきてもらってもいいですか」
「あぁ、食堂ですね。結構混むので早めに行った方がいいですね。時間が遅くなると……」

「そうですね。じゃあ、早めに行きます。じゃあ、ヒカリ、行ってきます」
「あ、行ってらっしゃい。行ってきます!」
「行ってらっしゃい。またな」

 またなと言って頭をぐりぐりと撫でて踵を返し、人ごみに紛れるセイリオスを見送る。さてヒカリも頑張らねばと図書館の入り口を見上げた。



 図書館の入り口は市民もよく使うので王城の門の近くで外付けにされている。
 この中に入った人は貴族でも市民でも身分は関係ない。
 人として最低限度のマナーさえ守っていればどんなに偉い人がいても気にしないでいいらしい。


 だからヒカリでも来られたのだ。

 これがもし、貴族に対するマナーなどを守らないといけなかった場合、ヒカリはすぐに無礼だと罰を与えられること間違いなしだ。
 そう言ったマナーはまだ習っていない。まぁ、貴族に会う予定もないのだけれど。


 図書館のマナーは日本でもよくあった物だから全然大丈夫だった。
 飲食禁止とか、うるさくしないとか、順番を守るとか、書物は丁寧に扱うとかそういったものだ。利用者よりもここで働いている人よりも何より、本という物の価値が一番上に置かれている場所なのでそれ以外の人は同じ身分だという事らしい。


 図書館の入り口は王城の周りを囲んでいる塀に埋め込まれるようにして存在していた。
 透明度がかなりある全面ガラス張りで両脇に植物の模様が彫ってある石柱がついている。これが開いているという事は開館時間になったという事だろう。

 向こうまで一気に見渡せる作りになっていた。
 入り口には大きなカウンターがあり、たくさんの人が座ったり立ったりしている。群青色のスーツのようなものを着ているからきっと制服なのだろうと思う。ここは男女比率でいうと半々ぐらいだった。


 中に入ると、誰もこちらを気にしない。
 それはもちろん許可のない人が入ればアラームが鳴り響くので、気にする必要がないのだ。ヒカリは先ほど門のところで今日の許可証をもらっているからアラームが鳴らないのだが、入る瞬間は少しドキドキしてしまう。


 中に入れば外から見るよりも天井がかなり高かった。
 五階建てぐらいの高さの天井には丸く硝子窓がついている。上を見上げていると自分が揺れてしまうくるぐらい高い。

 棚がいくつもあり、一つの棚が限りなく高い。踏み台がないと届かないだろう。階段がいくつもあり三層になっているのがわかる。石でできており、棚自体は木でできているようだ。


 窓からは太陽光が入ってきているようだが、外から見たよりもそれほど強い光が入ってきているわけではない。
 後で聞くと太陽の光で本が痛まないように、ガラスは外からよく見えるように、しかし中に入る光の量は少なくなるように設計されているらしい。

 厳密にいうと本を傷めるような光を限定的に排除しているとか。その為中は思っているよりも暗く、少しひんやりとする。
 あまりに暗いと明かりをつけるらしい。今日はそれほど暗くないのでそのままだった。


「涼しいですね」
「そうですね、冬になると寒くなるので火の籠ったガラスを飾るそうですよ」

 その話も気になるけど、時間は有限。今日の目的は、二つある。

 この世界での難民、移民について知ること。
 自分の帰り方があるかどうかについて。


 一つ目の方はセイリオスに聞けば調べてくれるかもしれない。
 しかし、今回の事案に関しては二人の時間を取ることはできればしたくなかった。それを知った課長さんがいい顔をしないと思ったからだ。

 二つ目の方はセイリオスとスピカが時間があれば探していることなどは知らないヒカリは自力で何とか探してみようと考えたのだ。

 来た事例がせめて見つかればいいなというぐらいだ。
 あの物知りの二人が知らないことがあるとは思えないが、実際に異世界から来たと実感のあるヒカリが見れば、ヒントぐらいはあるかもしれないと思ったからだ。



 ヒカリがわからないことが兄ちゃんやセイリオスやスピカがわかるように。
 皆がわからないことはもしかしたらヒカリにはわかるかもしれない。


 だから、世界にはたくさんの人がいて、たくさんの人が同じものを違うように見ていることがあるのだと思うから。



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