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第2章
同僚は見た
しおりを挟む「あのーセイリオスさんこの後って時間ありますか?うちの上司が聞きたいことあるって言ってるんですけど」
「すまない、今日は午後休だから。帰るんだ。また、明日にしてくれ、じゃあな」
昼休憩のチャイムが鳴ると同時にセイリオスはせっせとカバンに物を詰め込んだ。
この休憩の間に家に帰らないとほかにも捕まる可能性があるし、何よりスピカと交代の時間だからだ。
なるべく声を掛けられないように限界までの早歩きで職場を後にする。
その背中を見送るのは同じ部署の同僚たち。
一週間の有給を使った後、更なる有給の追加を申請しに来た。
直属の上司は「いいよいいよ休みなよ。いつも働いてばっかりで気にしてたんだ。申請もしておくしさ」とルンルンで有給を許可していた。
同僚たちはセイリオスが仕事三昧になっている元凶の一つにため息をついてそれを見守った。
案の定、セイリオスの居ない職場は見るも無残なものだった。
まず、部署が汚くなった。
次に連絡系統がうまく作動せず、ミスが頻発した。
そのミスを補うために部員たちの残業が増えた。
いつか見た、よれよれのセイリオスは今の部員たちとほぼ変わらない。それを見て上司が言ったのは。
「二週間セイリオスくんが居ないからってみんなだらけすぎだよ? そんなんだから、セイリオスくんが休めないんだよ。もう、ほんとだめだなぁ。私が頑張るよ」
部署の外に向かおうとする上司を全員で必死に止めた。
この部署が助っ人部なんて呼ばれているのは主にこの人のせいでもある。
どこからか話を聞きつけてうちでよかったらきくよ、相談乗るよ、手伝うよとどこからともなく仕事を持ってくるのだ。
そのくせそういう話をきちんとしないから、いつも期限ぎりぎりになったりする。
「え、言ってなかったっけ? そっか、ごめんね。でも大丈夫だよ。私一人でやるからみんなは帰ってね?」
とか言う。
その上、抱えている案件が多いせいか、本人のもともとの性格なのか、片づけができない。
出したら出しっぱなし、使ったら使いっぱなし、分解して満足したら分解したまんま、報告書も書かない。
本人は散らかっていることなんか気付かないので、大切な書類なども容易に埋もれていく。
そこから、化石を発掘するかのように提出するはずの書類を掬い上げ、勝手に引き受けた仕事を見つけ出しをしているうちに小さい仕事などは割り振られるようになった。
セイリオスがおかんと呼ばれているのもそれが原因である。
このへにゃへにゃした上司は怒っているという人の感情に非常に鈍感で、へにゃへにゃ話しているうちに怒るのも馬鹿らしくなってしまい、結局仕事の山となる。
セイリオスがやって来てまず、職場がきれいになった。
書類は全て一度、自主的にセイリオスが確認するので、皆セイリオスの机に書類を置くようになった。
他の部署の者は上司に話した後セイリオスに進捗を聞くようになった。
セイリオスはさりげなく、上司のお散歩を阻止するようになった。
それで仕事はだいぶ落ち着くようになった。
そのうち同じ部署の困りごとや同期の困りごとを処理しているうちにほかの者も困りごとを持ってくるようになった。
更にセイリオスは仕事をこなしていくうえで顔が広くなり、部署の垣根も超えて課の垣根も超えて、同期の中では一番顔が広いのかもしれない。
上司のお守りもして同期のお守りもして、そもそもどうしてこうなったと説教もしてくれるし、そのうえでしょうがないなと言いながら仕事を引き受けていく。
おかんに違いない。
そのセイリオスが休みをとった。しかも、あのスピカにも協力をしてもらっているらしい。
上司はセイリオスが休みを取って嬉しそうだが。こっちは死にそうだ。
しかし、部員の誰もが休みを取る事には賛成だった。
ので、引きとめはしなかった。
2週間の有給のあと、セイリオスは半日出勤の申請を行った。なるべく家にいたいらしい。保護した少年に言葉を教えているそうだ。
遠い国から攫われてきたんだってね、辛かっただろうと上司が泣きそうな顔で言えば。
絶対零度の声音で。
「それ、どこからですかね?」
と焦り気味のセイリオスが難民部にカチコミに行ってしまうぐらい大切に保護しているようだった。因みに2ヶ月のサポート申請ももぎ取っていた。
保護サポート申請を取得するために出勤したセイリオスは部員たちに。
「すまない、忙しいのはわかってるんだが。家で出来るものがあったら、医務課のスピカに渡しておいてくれ。あと、難民部に関する案件は難民部に戻しておいた。 更に優しい部長さんが出入国管理に関する件と、交通管理課の仕事もしていただけるそうだ」
等と一人一人に説明し回った。
なのでそんなセイリオスを見ている同僚はセイリオスが仕事を半休しようが、突然の休みを取ろうが全然気にしない。気にしたところで、彼に任せられている正規の仕事は、完璧に終わってるから文句の言いようもないのだけれど。
しかも家の空き時間でも仕事をしているようだったので、あいつの万年隈は消える気配はない。
前より忙しくなくなったかどうかと言えば同僚としてはそうでもないと言いたいところだが、あいつの帰路に就く足取りは確実に軽くなっていたので、いい傾向ではあるなと言う話である。
それが、セイリオスが休みを取ってから嫌な話をちらほらと聞くようになった。その話の主役はセイリオスではない。
何故なら、王城に勤めている人のなかで人気度でいうとかなり低いだろう魔道具関連課は噂の種にもならない。
が、医務課はそうでもない。
優秀であれば平民とはいえ王族の主治医になることも可能だ。医務課に入る者は技術や能力なども高くないと入れない。
給料も高いし、医務課の鉄の掟などから、婚活相手としても人気だ。
何故か文武両道の掟があり、医師を目指すものは心身ともに清廉であれと言うもので、ここに入るものは身分が高くともひけらかさない。
その人柄重視で信用度のある医務課である噂が持ち上がった。
武道派で有名なスピカがとある男に入れ揚げているらしい。
患者にはとことん優しいが、病や怪我などが関わりがないところでは厳しい医師が、男の子にベタ惚れで早く家に帰ろうと仕事も疎かにしているとか。
どうやら、魔道具関連課の同期と二人で囲っているらしい。
聞けば、その男の子はあのトライバル家で囲われていた男娼でかなり上玉らしい。
トライバルの息子もかなり入れ揚げて、あの時期は領地に籠りっきりだったらしい。
いつも、何人も相手を取っ替え引っ替えしていたトライバルが、それもないほど相手していたらしいぞ。
きっとかなりの技も持っているんだろう。
それが、トライバルの横領で領地も取上で、行くところがなくて保護したらしい。
移民申請をして、正式に囲うつもりらしいぞ。
警吏課の印も貰うらしいぞ。
まさか、コネか?
日に日に酷くなる噂に俺は両手を握り締めて。
「そうか、俺の方はそんなそぶりないな。あのセイリオスが? ないないない。仕事が恋人だぞ?」
と軽く笑い飛ばす。
「でも、2ヶ月も難民部に無理言って休みとったらしいじゃないか。毎日毎日お盛んなことで」
と鼻で笑った奴の顔をセイリオスなら、笑えなくなるぐらいまで殴るか。いや、論破して終わりかな。そのあと報復で。
でも、俺はそうしない。噂が噂なので、俺が何かして話が膨らむ方が怖い。
むしろ情報を集めておいて、実際に目にしてから判断しよう。
あいつのあの背中はそんな欲望は滲み出ていなかった。もっと、こう、何て言うんだろう。
素敵な?
自分で言ってて恥ずかしくなるけど。
そうとしか言えない思いが滲み出てて。
お前の帰る家がやっと、見つかったんだよな? セイリオス。
その子がお前の気持ちを溶かしたんだよな? セイリオス。
ヒョロガリの俺ならどんな子どもも舐めてかかるから早く会わせてくれないかなぁ。
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