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第2章
過保護になるのも仕方がない9
しおりを挟むパチリと目が覚めたらさらさらでパリッとしたシーツが頬にあたった。何度か目をぱちぱちして、あれ、ここどこだろうと思った。
「わかった、セイリオスが来るまでは、私もここにいよう」
あ、スピカだ。と思うと同時に安堵が押し寄せた。
という事はここは医務室かな。清潔そうな室内を見てさすがスピカ。埃一つないじゃん。有言実行とはこの事か! と嬉しくなった。
「それにしても、あなたたちは何も聞いていないのですか? なぜ、彼がこうなったか?」
「私たちも着いたらこうでして。うちの隊長が何かしたにしても報告を待っていただきたいのです」
その人の声は聞き覚えがあって、どうしてここにいるのか思い出した。
どうしよう、スピカに合わせる顔がないっ。せっかくのチャンス棒に振っちゃったし、多分信用されてないよ。あの感じ。
開けていた目をぎゅっと瞑る。
そんなヒカリにそっと優しく触れたのはスピカの手だと思う。
消毒液の匂いがする手はヒカリの頭にのせられている。
うぅ、動けない。寝たふりしちゃった。
「ちっ、泣かせやがって。アイツら。マジで許さねぇ」
すごく低くて小さい声が聞こえた。あ、これ、スピカが、めっちゃ怒っているの声だ。泣かせたって何を泣かせたんだろう。
スピカは少しして席を立った。
隣の机の上で何かを書き込んでいるから、仕事中なんだろうと思う。
仕事中なのにヒカリが意識を飛ばしてしまったから呼ばれたんだろう。セイリオスも来るって言ってたし。
先ほどのことを思い出すとふつふつと怒りが込み上げてきた。一人だったら枕にボスボス八つ当たりをしたかもしれない。
仕事の合間に僕の面倒を見ているこの二人になんてこと言うんだ。あの人は!
本当だったみたいって言ってたから、誰かからそんな話を聞いたんだろうか。誰がそんなこと言うんだろう。僕は一歩も家から出てないのに。絶対会ったこともない縁もゆかりもない人だっ。
めっちゃ悔しい!
こんな話あの二人の耳に絶対入れたくない。傷つくに決まってる。
あの課長も二人を傷つけたいんだろうか。それにしてはちょっと雰囲気が違ったなぁ。なんて言ってたっけ。
あれ、何か鍛えるとか傷つけないとか言ってなかったっけ?
……、あ―――!そっか、そうか。僕に対してだけ怒ってたのか。あの人も二人を傷つけたくないって言ってたじゃん。あ、めっちゃ恥ずかしい。
思い返すと話をしっかり聞いてなかったヒカリが一人で暴走したように思えた。
そうじゃん、僕が言葉が分かんないから、わかる言葉であいつらと同じって言っただけで、ひどいことしたとは言ってなかったんだ。
つまり僕がからだをつかっ……。
「」何だこの恥ずかしい勘違いのされ方。僕にそんな、すごいスパイ? 一流の技みたいのあるわけないじゃん。
あの二人だったら僕なんかいなくてもより取り見取りだし、わざわざ、ぼろぼろの子どもと間違われるような男子を相手にする理由が分かんない。
それこそ、あいつらみたいな話の通じないような人たちぐらいじゃないの。
何て言うんだっけ、そういうの。兄ちゃんが言ってたような気がする。しぎゃく趣味だっけ。漢字が難しかったなぁ。僕が泣き叫ぶの楽しんでただけっぽいし。嫌だっていうとすごく笑って。
う、ちょっと忘れよう。だめだめ。あー、ポケットの飴玉何味だろうなー。金色って金粉味かなー。
よしっ、話を戻すとあの課長さんは僕のせいで変な噂が広まってたから僕に怒ってたのか。
僕が、か、体を使って、二人に信用印を押させて、さらに超難関の課長さんとこの印ももらって、最悪この国にスパイとして潜り込もうとしてみたいなことで怒ってたのかなぁ。
……僕の事よく見たのかな。どう見てもそんなハリウッド映画的な人間に見えないと思うんだけど。
いや、でも油断させようとするならこういう意外性ある方が向いてたりするのかなあ。
何にせよ。大変なお仕事だ。うんうん。
つまり、今の僕にできることは何だろう。とりあえずあの噂みたいなの訊かせたくないな。
あの噂を口にしようとする人がいたらまた怒ってしまうこと間違いなしだ。
いくら僕に対する不信感とか嫌悪感からくる噂であっても、二人の人格というか、頑張りみたいなのを貶める話であるのには違いない。
ここであきらめる? 移民にならず、難民施設でいつか帰れるかもと思って暮らす?
でもそれって、二人の噂を払拭できるのかな。
……できないよね?
え、できないじゃん! あっぶない。危ない。
やっぱりねーで終わりだよ。
じゃあ、やっぱり課長さんをどうにかしないといけないわけだ。
どうする? 身元を示すものもないし、僕を知ってるのなんて二人以外にスタンぐらい……。
いや、わかってたことだけど。
……あの課長さんは僕が二人に甘えっぱなしなのを怒ったのかも。鍛えなおすとか言ってたし厳しそうな人だから。
課長さんは二人のことどう思ってるんだろう?
ずっと目を瞑って、難しいことを考えていたら、うとうとしてきてまた寝てしまっていた。
夢の中でセイリオスから貰ったあめ玉を口に含もうとしたときに声が聞こえた。
「何嘘ついてんだよ?」
あっ、課長さんだ。
「彼の様子はどうですか?」
すぐに返事しようと思ったのに体に力が上手く入らなかった。あれ、何か、へんだな。
そうこうしている間にスピカと課長がヒートアップしているのがわかった。
スピカが喧嘩しようとしてる! 止めないと!
なぜか震える体を抑え込むように腕に力を入れる。
そこで、課長が嫌なことを言おうとしていることに気づいた。
「言い方って、他にどう言えばいいんだ? こうか? お前らそろいもそろってそのガキのケ」
途端に力が全身に入って、大きな声を出した。急いで二人の頭を抱え込んで、耳を塞ぐ。
今の絶対、また、酷いこと言おうとしてた!
イヤだ、イヤだ、イヤだ!
お願い、そんな事、聞かせないで!
その後は二人に口を挟ませないように、課長に言わせないようにしていたら、いつの間にか二人が帰ることになっていた。
だから、ヒカリもお別れの挨拶をした。手を振ったけど返してもらえなかった。
ヒカリの体から力が抜け、漸く解放された二人はすぐに振り返る。
ふらついた体を支えた。
「ヒカリ!」
ヒカリはヘラっとした顔をして笑った。
「ごめんなさい。しぱいしたから、印貰えないかも? へへっ。かちょーさん、怖かったねー。顔まかか」
怖かったのは本当なのか支えている二人の手に触れる体が冷たかった。
「ヒカリ、あの野蛮人に無神経なこと言われたのか? それとも、無神経なことされたか?」
ヒカリはふるふると首を振る。
「あー、えとぅ、聴取していたら、思い出して怖くなってしまい、ました。かちょさん、ふくかちょさん、全然怖くなかった」
セイリオスとスピカはそれは嘘だなと思った。怖くないわけがないし、実際、それは体に如実に現れている。
ヒカリは嘘をついた訳ではない、が、本当のことも言っていない。
「俺、やっぱりちょっと聞いてくるわ」
スピカが立ち上がると、ヒカリが慌て始めた。
「えっ、なんで? 何を? どーして? 大丈夫。次あるて、いてた。だから、次頑張るから。スピカ、仕事いそがしー。セイリオス、仕事いそがしー。でしょ? まて、ぼく、できるから!」
あまりにも必死な様子にスピカの胸が苦しくなった。彼は、何を、自分達に見せたくないのだろうか。何を隠しているのだろうか。
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