56 / 413
第2章
過保護になるのも仕方がない4
しおりを挟むこの椅子……高いなぁ。
奥まで座ると足がブランブランする。扉を開けて入ってくる人がみんな一度はヒカリを見てくる。
そのたびにヒカリは会釈をした。時々「迷子かぁ?」とか聞かれるので首を振る。
迷子というにはスケールが大きすぎると思うので。
女性と男性の割合は3対7というところか。皆さん、色とりどりの服を着ている。
因みにセイリオスはスーツだ。研究職や医師は白衣を支給される。体が資本の騎士や警吏の人たちは戦闘用の服とマントを、それ以外の人はローブを渡される。
しかしここの人は皆さん私服のようで、いわゆる私服警官のポジションの人たちなんだろう。
何故なら受付の人は制服を着用しているからだ。丸い形でヘルメットぽくなっていて鍔がついている帽子と、少し着丈が長めの上着、ぴっちりと体に沿ったパンツにブーツを履いている。
正直言ってかっこいい。パッと見た瞬間からかっこよすぎてガン見してしまった。黒っぽい色だけれど光沢があって生地も着心地がよさそう。
受付のお兄さんをじぃっと見ていたら目が合った。お兄さんはにこりと笑う。
「たくさん人が通るから気になる? 怖くないかい?」
ヒカリは首を振る。
「怖く、ないです」
「本当に? みんな怖い顔でしょ。仕事終わりだと特に顔が怖くて、何もない日だともうちょっと優しい顔してるんだけど、今日はタイミングが悪かったなぁ」
大捕り物があったらしくて徹夜でてんやわんやしていたらしい。お兄さんは質問をしたけれど、一人で完結してしまった。怖くないのに。
「あの、お父さん、が、いってました。仕事をして、いる、ときは仕事、スイッチ、を入れている。帰ったら、スイッチを、切る。しんどい時は、なかなかスイッチが切れ、なくて、困るって。こんな顔して。……えと、だから、皆の顔、仕事、真面目の証拠です、ね?」
お兄さんはハハハと笑って、さすがセイリオスさんが保護しただけのことはあるなぁと言った。
どういう意味か聞こうと思って息を吸ったらたばこの煙が入ってきて思いっきり咽てしまった。
「あ、けほっけほっ、ん、ごほっ!」
「おい、坊主大丈夫か?」
「おーい窓開けてくれー」
いろんな人がわらわら集まってきて背中などを摩られた。その刺激がよくなかったのかもっと咽てしまう。しまいにはどうした迷子かとまた聞かれてしまった。
一生懸命首を振って。
「っ迷子、違います。お家……あります」
とだけ言った。
ここにいる人たちは背が高いのでヒカリは簡単に埋もれてしまった。怖くはないけど、たくさんの人に咽ただけで囲まれて、甲斐甲斐しくされるとやっぱり子どもと思われているのかと考えて頬が赤くなる。
この後16歳ですって言ったら、皆のリアクションどうなるかな。
耳まで赤くなったところでセイリオスの声が聞こえた。
「なんだ。ヒカリになんかあったのか?」
と足音が近づいてくるからヒカリは慌ててピョコッと立ち上がる。
「セイリオス! ダイジョブ、皆、やさしい。なでなでしてくれただけ、アリガトー。お兄さん、お姉さん」
と椅子を降りて、ぺこりと頭を下げると人の隙間をグイッと押しのけてセイリオスに駆け寄る。勢いあまって抱き着く形になった。
「セイリオス、僕が咳をしたからみんな、心配してくれた」
セイリオスはやはりびくともしないのでそのままの姿勢で背中を摩られる。
「すまん、大丈夫だったか?……そうか、ところで撫でてきた人は誰かわかるか?」
「わかんない。セイリオス、話はどうでしたか?」
ちょっと真顔のセイリオスにそう尋ねれば結果は思わしくなかったようだ。
「ダメだった。例外は認められないと」
受付の人がどうしたものかと頭をひねるので思い切っていってみる。
「セイリオス、あのね。僕は、一人でも大丈夫です。練習一杯したでしょう? すごいっていっぱい言ってくれたでしょう? だから、できると思う」
腕の中で自分の言葉を伝えた。
すると一番奥の扉がバァン!と開いた。
中から髭とか眉毛がまっすぐ垂直に生えているんじゃないかって言うぐらいワイルドさ満点の、頬に大きな傷のある男の人が出てきた。
「セイリオスッ、グッダグダいってねーでお前こそさっさと仕事してこいっ。そんでそいつもさっさと連れて来い。チャコ!!」
体の大きさに比例しているのか、声が大きくてびりびりびりと鼓膜が揺れた。開けた時と同じように扉がバァァァンッと閉まった。
実際ちょっと体が跳ねたと思う。
抱きかかえられている形でセイリオスの胸の中から顔を出し、上を見たままお願いをする。
「セ、セイリオス」
「やっぱり無理だよな? またの……」
「ち、違う。僕、頑張るから」
両手を顔の前で広げる。情けないことに手が震えていた。
「セイリオス、ちょうだい?」
セイリオスは少し止まって、ポケットから包みを一つ出す。今日は金色の包みだった。
「わかった。頑張れ、ヒカリ。ヒカリならきっとできる」
と頭をクシャクシャに撫でてくれた。
本当は頭を撫でてくれるだけでだいぶ嬉しいんだけど、それを口に出すのは恥ずかしいので笑ってごまかしておいた。
54
お気に入りに追加
541
あなたにおすすめの小説
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
聖女として呼ばれた妹の代わりに異世界に召喚されてしまった、古河大矢(こがだいや)。
三ヶ月経たないと元の場所に還れないと言われ、素直に待つことに。
そんな暇してる大矢に興味を持った次期国王となる第一王子が話しかけてきて・・・。
BL。ラブコメ異世界ファンタジー。
転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!
音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに!
え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!!
調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。
断罪フラグを回避したらヒロインの攻略対象者である自分の兄に監禁されました。
慎
BL
あるきっかけで前世の記憶を思い出し、ここが『王宮ラビンス ~冷酷王の熱い眼差しに晒されて』という乙女ゲームの中だと気付く。そのうえ自分がまさかのゲームの中の悪役で、しかも悪役は悪役でもゲームの序盤で死亡予定の超脇役。近いうちに腹違いの兄王に処刑されるという断罪フラグを回避するため兄王の目に入らないよう接触を避け、目立たないようにしてきたのに、断罪フラグを回避できたと思ったら兄王にまさかの監禁されました。
『オーディ… こうして兄を翻弄させるとは、一体どこでそんな技を覚えてきた?』
「ま、待って!待ってください兄上…ッ この鎖は何ですか!?」
ジャラリと音が鳴る足元。どうしてですかね… なんで起きたら足首に鎖が繋いでるんでしょうかッ!?
『ああ、よく似合ってる… 愛しいオーディ…。もう二度と離さない』
すみません。もの凄く別の意味で身の危険を感じるんですが!蕩けるような熱を持った眼差しを向けてくる兄上。…ちょっと待ってください!今の僕、7歳!あなた10歳以上も離れてる兄ですよね…ッ!?しかも同性ですよね!?ショタ?ショタなんですかこの国の王様は!?僕の兄上は!??そもそも、あなたのお相手のヒロインは違うでしょう!?Σちょ、どこ触ってるんですか!?
ゲームの展開と誤差が出始め、やがて国に犯罪の合法化の案を検討し始めた兄王に…。さらにはゲームの裏設定!?なんですか、それ!?国の未来と自分の身の貞操を守るために隙を見て逃げ出した――。
奴の執着から逃れられない件について
B介
BL
幼稚園から中学まで、ずっと同じクラスだった幼馴染。
しかし、全く仲良くなかったし、あまり話したこともない。
なのに、高校まで一緒!?まあ、今回はクラスが違うから、内心ホッとしていたら、放課後まさかの呼び出され...,
途中からTLになるので、どちらに設定にしようか迷いました。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる