確かに俺は文官だが

パチェル

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第1章

したいことをしようじゃないか8

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 隣に立っているロボットを見上げる。大きくて顔を見ようとしたら首が痛くなるくらい大きい。

 セイリオスは彼の事を人型と呼んでいた。聞き間違いじゃなければ「人」と『人』は同じ意味だと思うんだけど、人に幾つもの意味があったりするのだろうか。




 一晩寝て起きたとき、机の上に絵本と図鑑が置いてあった。
 パラパラめくると絵の多いものだった。
 あれ、僕これが欲しいって誰かに言ったっけと思ったのが最初。


 次にお手洗いに行ったときに、自分の履いているパンツを見て、そう言えば昨日から普通のパンツだったんだと思ってそこでまた、あれ? と思ったのが二回目。


 そこから、あれあれあれと朝から考え込んでたら、違和感に気付いた。僕、誰かに言ったっけ?
 セイリオスに絵本ありがとうと伝えてみたらスピカと二人で「おー、こんなもの家にあったんだなぁ。どこにあったの」なんて聞かれて、はてなが飛んだ。




 その後、セイリオスと言葉の練習をした。スピカがノートを買ってきてくれてわかる言葉をまとめていく。一日の絵を描いてそれに言葉を書き込んた。

 簡単な言葉しかわからないけれど、前進した気がする。午後は体を動かそうってことでスピカが一緒にトレーニングって言うよりリハビリに付き合ってくれた。



 でも、少しの疑問は考えれば考えるほど不思議で、オコジョにこの絵本はどこにあったのかと聞けば首を捻られ、丸いのに聞けば大きいのを指差された。




 で、次の日大きいのと二人っきりになっている。セイリオスが急な用事でちょっと出掛けたのだ。
 セイリオスは大きいのに僕が怖がっていると思っているようだった。
 怖くないから一人でも大丈夫かなと僕より不安がるセイリオスに気にしないで欲しくていってらっしゃいをした。


「二時間ぐらいで終わるから、もし暇だったら寝ててもいいぞ。おやつは机の上においておいたからな。人が来ても無視しとけばいいからな。トレーニングは無茶したらいけないからな」




 ごめんな。といってセイリオスは出掛けた。
 お母さんみたいだったなーなんて思って、閉まった玄関をしばらく見ていた。
 ポンポンと手の甲に触れるのは大きいの。そのまま手を繋いできた。顔を見るとにこやかに笑ってパクパク口を動かした。

『二時間なんてあっという間だって? 寂しくないよ。大丈夫だよ』
 でハッとした。



 僕、彼と日本語で話してない!?



『えっ、あの、えっ、日本語?』



 フフと笑った大きいのは口パクで話し始めた。

『光さん。挨拶が遅くなりました。私は人型と呼ばれています。ですから、あなたが理解している通りの人型ですよ』

 口パクを声に出して読んだヒカリに頷きかけて、アワアワしているヒカリを楽しげに見つめる。

『久しぶりに日本語を聞いたものですから、思い出すのに時間がかかりましてね。主が人を怖がるかもしれないと思案していたので、影を薄くしておりまして』

 もう怖くないですかな? とウインクまでしてきた。

 姿はただの紳士なのに口調はイケオジだった。もう自分の中で声も吹き替えで聞こえてきた。



『えっ、日本語話せるのセイリオスはしってるの?』


 人型が言うには、話せることも知らないと思うとのことだった。言われたことをするだけの人形だったからと言う。長い間生きていて、長い眠りについて、目覚めたのは最近らしい。
 ヒカリが来る少し前から、何故か朧気に意識が浮上してきて、ヒカリが目覚めてからは日本語の事も少しずつ思い出してきたらしい。


 と言う話がわかるまで結構な時間がかかって、口を読み取るのはすごく疲れてしまった。合ってるか確かめるためにヒカリが声を出しているからだ。

 居間のソファでそんなことを話していたらあっという間に一時間は経過していた。






『私はこの通り声帯がないものですから声は出せないのです。お疲れでしょうが、まだ、体力はございますかな?』

 と聞いてくるのでもちろんと答えた。

『では、今日は私がおもてなししましょうか?』






 ついてきてくださいと手を繋いだままゆっくりと人型は進んでいく。彼の一歩はヒカリにとっての3歩ぐらいだ。

 トテトテ付いていくと、裏口の扉を開けた。そこには本当なら裏口用の門が見えるだけなのだが、何故か小さな部屋になっていた。
 大きいのは床を触って、床を引っ張った。そこには下に降りる階段が延びている。
 引っ張った床の裏には何個かボタンが付いていてそれの1つを押すと灯りがボンヤリついた。

『わぁ、ここ、……降りる感じですか?』

 コクンと頷いた人型は先に降りていく。手すりがないので後ろ向きで、ヒカリと手を繋いで。




 着いた先も人型がスイッチを押すと灯りがついた。円状の部屋の壁には本がぎっしり詰まっていて庭にあった書斎と似たような本がたくさんあった。

 ただしものすごく古い。

 背表紙を手で触れながらゆっくり一冊一冊見ていく。どれも読めない。そんなヒカリの後ろを人型は着いてくる。
 部屋に入って三つ目の本棚に辿り着いた。

『あっ、えっ、これって』

 そこにあったのは辞書。ただし、日本語でかかれている。
 中を開いてパラパラめくると、この国の言語と日本語が書いてある。

『なんで?』

『それは、この家の元の持ち主のものです。主は知らぬもの』

『どうして? 日本語が?』

『あの方は何と仰られていたか、確か、リューガクしに行ったようなものだと』
『なにそれ?』




 ヒカリは突然の日本語に驚きながらも何とか人型の話を聞こうとする。

『私もあの方と暮らすうちに日本の事をお聞きして、言葉も習いました。いつか、日本語を必要とする者が来るかもしれないからと』

 ここに来るのも久しいですねと人型は歩いて、高いところの本を見ていく。ヒカリも同じように先程の辞書に目を通す。
 同じような辞書が四冊ほどあった。

 片手で持つのは少しきついぐらいなので壁に凭れて両手に辞書を持って開く。
 ペラペラと捲って気になる言葉を確認する。
 真ん中らへんのページを捲ったときに中から紙がヒラヒラと落ちてきた。


 床に落ちてしまった紙を拾う。中には文字が書かれている。


『地球の愛し子よ。日本から来たのなら、読めるだろうか? その他の国ならすまない。こちらの神は日本贔屓だから大丈夫だと思うのだが、是非とも我が家でゆっくりしていってくれ。大きめの風呂を作っておいたから楽しむといいよ』



 頭のはてなは増えていくばかりだ。神とか愛し子とかヒカリには関係無さそうなことばかりだった。
 上から覗き込んでいた人型が思い出したと言う顔をする。



『そうです。愛し子です。あぁ、光さん! あなたがその愛し子なのですね?』
と嬉しそうに問うので思わず笑ってしまった。



『はは、そんなわけないよ! そういう人はなんか、そうだよ。特別な能力とか、使命とか、それこそ神様に会ってたり、声が聞こえてたりするもんだよ? ないない、ないよ』



 そうだよ。あるはずないよ。神様がいるのなら、僕がこの世界の誰かに愛しいって思われていたのなら。






 あんな目に合うはずないでしょ?





 それとも、可愛い子には旅をさせよ的なやつ?






 それは、現代っ子には厳しいと思うよ? 神様?



 ないよ、変な事言わないでよと人型に言うと人型は少し寂しそうに笑い返す。

『そうですか? 私は光さんがとても愛らしいですよ。あなたはその名前の通り……』




 そこで上からアラームの音が鳴り響いた。

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