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第1章
したいことをしようじゃないか5
しおりを挟むランドリールームではオコジョがせっせと洗濯物をしていた。手でごしごししていて、洗濯機などはやはりなさそうだった。
ウォークインクローゼットの中も埃をかぶった箱が積み重なっていた。どうやら昔の衣服などが眠っているらしい。埃の被っていない箱は季節の違うものや滅多に着ない服とか言っていた。
廊下の突き当りには扉があって裏口だと言っていた。
次の扉を開けると、大きな鏡があった。
『洗面所……。という事は』
ヒカリの歯磨きなどは借りている部屋で、セイリオスが桶を持ってきてくれる。その場でしているので洗面所には初めて来たのだ。
半分は高い台になっているが、半分は少し低めに作られておりヒカリでも使えそうだった。鏡越しに目の合ったセイリオスはヒカリに使えそうかと聞いてきた。
「使える! よい。高さっ」と親指を立てるとホッとしたようだ。
そしてワクワクしながら鏡の横の扉を眺めているとセイリオスが開けてくれた。
中は大理石で作られた床と壁になっている。蛇口がついていてシャワーはなかった。そういえばあのお屋敷でも見なかったな。なかなか広い。壁に結構大きめの鏡がついているのはちょっとぎょっとした。
浴槽は丸くなっていて結構深いし、入るときは足を大きく上げて入らないと難しそうだ。これだけ作られたのを運び込んだのか、大理石じゃないっぽい。ところどころ模様が違っていてそれがおしゃれだ。
「まぁ、ここが風呂場だな。ここはちょっと、ヒカリくんには厳しい気がするから使わないけど……」
「エ……」
え、無理なの? まじで? 本当に? 目の前にあるお風呂に入れないのか。確かに水道代とかかかるものね。居候の身で贅沢は言っちゃいけないよね。あぁ、でもな、あの、浴槽に浸かると体がギューッとしてその後ホンワリするのが味わえないのか。そりゃそうか。そうだよね。でもな……。
というヒカリの数十秒間の考えは全部顔に出ていたので、何も言わずともセイリオスには筒抜けだった。
「……えっと、ヒカリくんはお風呂好きなのか?」
「うぅん、好き、嫌い、ない、よ?」
少し下を見ながら答えるヒカリはいじらしくて、可愛い。
もうこれはほぼおねだりと変わりないんじゃないのか、とスピカがいたら言うのだが伝える相手も今はいない。
「はぁ、どうすっかなぁ……」
ため息をついたセイリオスは組んだ片手を外し頭をガシガシと掻く。困らせる意図はないのでヒカリは次に行こうと提案した。
「次は俺の部屋だな。なんも面白くないけどなぁ。まぁいっか」
お、次はセイリオスの部屋なのか。人の家って緊張するけど、友達の部屋ってちょっと面白いから僕は好きだったりする。そこで生きている人の考えとか思いとか、歴史が空気になって詰まってる気がするから。セイリオスの部屋はどんな感じなんだろう。
ガチャリと部屋を開けてすぐに思ったのは、暗いなという印象だった。
今まで見た部屋は昼という事もあって灯りがなくても全然明るかった。
なのにこの部屋はヒカリの部屋の十分の一くらいの明るさだ。カーテンが閉まっているのも原因かもしれないけれど。
そもそも部屋の中に明るいものが一つもないのだ。ただそこにあるだけのモノ。机のところが唯一灯りがついていて、そこには魔道具が分解途中で置かれていた。
決して汚いわけじゃないのに息が詰まるような苦しさがあった。空気が冷たいのだ。壁には大きな地図が張ってあり、ところどころ印をつけてある。
なんで。
何でこんなに。
寂しい気がするんだろう。
思わず窓に近寄りカーテンを開け、窓も開けてしまった。窓は押して開けるタイプだったので力を外に押し出した勢いで自分もずるッと窓側に引っ張られてしまった。
「あっ」
落ちると思ったら落ちなかった。
すぐ横にセイリオスの耳があった。
ヒカリを全身で包むように掴まえている。
ヒカリの好きな深い緑色の髪がヒカリの頬を擽る。
ヒカリの好きな月の瞳がヒカリを捕らえた。
ヒカリを掴んだまま床に足を下ろすと、ヒカリはセイリオスの腕の中にギュッとくるまった。
「アリガトウ」
「まったく。危ないだろう? この窓は開けるとき、力がいるくせに開いた瞬間、がばっと行くんだ。危険だから開けなくていいぞ」
ヒカリは首を振り、背中に腕を伸ばして精一杯の力で背中を掴んだ。布が滑って指先が外れてもまた伸ばして掴む。
「怖かったのか? もう大丈夫だから、俺も怒ってないしっ」
「開ける……。僕が開ける。セイリオスの部屋、開ける」
僕が開けたかったんだ。したかったんだよ。ねぇ、セイリオス。
その後いくらセイリオスが開けなくていい、自分で開けるからと言おうがヒカリは開けると言って譲らなかった。
こんなに頑固なヒカリに根負けして、セイリオスはお願いすることにした。ただしセイリオスがいるときだけという了承を取って。次は庭を探検することになっているのでおやつを食べに行こうかと、ちょっとだんまり気味のヒカリを連れていくことにした。
おやつはセイリオスが作ったむしパンだ。気に入るだろうか。
部屋を出るときふと振り返ってみた自分の部屋は。
カーテンが揺らめき、日の光を吸い込んでいた。
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