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第1章
自己紹介しよう11
しおりを挟むそうか月は『月』っていうのか。
瞳を見ながら、落ち着く色合いがとても好ましいと思っていたことを伝えると、セイリオスはガタタタと立ち上がって先ほどの電気のスイッチを元の位置に戻しに行ってしまった。
あれ、そういえば、電気のスイッチの裏、何もコードとかもなかったけど、遠隔操作的なやつだったのかな。
「ありがとうな。面と向かってそんなこと言われたの久々でちょっと照れるな。ヒカリくんの瞳もとても素敵だと思うよ。よいと思います」
勢いよく振り返ったセイリオスは親指をビシーッと立ててそんなことを言った。良いと言った。どうやら褒められているようだ。僕の眼の話かな。
「セイリオス、は、仕事好き?」
「まぁ、好きな方だな。例えば……今はこういうのを分析している」
好きと言ったセイリオスは棚の隅にあったよく分からない置物を取り出した。
「これって光るだろう?」
スイッチを押せば明かりがつく。その丸い球体はランプのようだった。
「で、これを分解すると……。まずはここの合わさったところを外してだなぁ……。で、このねじを外すだろう。これを順番に外すと、こういった回路が記されている。これは因みに魔法で引かれている」
「まほー」
ランプの中から白に近い青い石を取り出した。
「そうだ。で、これの原動力はと言うと魔石だ。山を掘ったりしたら出てくる。山な、お山さん。これをここにはめると明かりがつく。これを外すと明かりはつかない。この魔石は雷の力がこもってるものだから、おそらく雷をこの回路で分解して、灯りに使えるようにしている」
ちょっと待っとけと言ってセイリオスはどこかへ行った。隣の部屋に行ったようでがさごそしているなと思ったら2、3分で戻ってきた。
あっ、頭に埃のってる。のってるよー。お隣はどんな部屋なんだろうか。気付かずセイリオスは持ってきたものを机の上に置いた。
「で、これが昔に使われていた魔道具だ。骨董品な。古ーい、ふるーい。時間がもっと前の奴。これも光る」
ピカーと光った灯りが眩しくて思わず目をかばう。
「おぉう、すまん。久々に出したから。いつもは窓際のガラス棚に置いているんだが。大丈夫か?」
セイリオスは僕の眼をのぞき込んで何度も大丈夫かと聞く。僕は大丈夫だから続きを聞かせてと促した。
「そうか?……、まぁこれも分解するとだな、こうやって、ほら、回路がこれも引かれているだろう? でも不思議なのが、さっきと違うところがある。どこだ?」
違うところは……。
「魔石がない? これ、ない。あ、ちがう。小さい!」
「そうだ、すごく小さいんだ。それなのにあれだけ強い光が出たんだ。しかもこれ、この魔石は雷の魔石じゃない。何の魔石かと言うと山からとれるクズの魔石だ。何の属性も持たないので使えないんだ。しかし古代の魔石や骨とう品を開くと、よく出てくるんだこのクズ魔石が」
ヒカリはとりあえずふむふむと頷く。
「でもこの魔石を現代の道具に入れても使えない。この回路だってよく分からないところがあって解析できてないんだ。そもそも、魔道具が廃れ始めたのだって昔だからな。どこかで技術が途切れてしまったんだ。最近は需要が増えてきたからな。こういった技術を解析してるんだ」
ヒカリはまたもふむふむと頷く。そうしてそのうちセイリオスは色々な魔道具を持ってきては分解し始め、様々なことをヒカリに聞かせた。
音を出す魔道具が作りたいとか、生命力を助けられる魔道具なんかもあればいいなとかなんとかかんとか。ヒカリに話し続けた。
ヒカリはその話の半分も、いや、半分以下かも知れない。話にはついていけなかった。
セイリオスはそれにも気づかず、延々と隣で魔道具を分解しては、ヒカリに詳しく話す。しまいにはヒカリの箱から紙を借りて図解や言葉も書き込んで。
器用に分解をつづけた。
「でなぁ、ここからがまた不思議なんだが、骨董品はやたら草が生えやすくてなぁ……」
と言ういつものスピカが聞き流すところまで来たところでさすがにハッとなった。ちょっと待て、空が赤い……。
「スマン! ヒカリ君。俺、何時間、話、続けてた? うわぁぁ、ごめん」
ヒカリは首を振る。確かに時間が経過して座りっぱなしだったお尻がちょっとしびれている気もする。さらに言うと足も少し。
「うわ、楽しくなかったよなぁ。言ってる意味も分かんないのに、俺って」
「楽しくなかった?」
「いやだったろう? 俺の話」
ヒカリは思い切り首を振った。そんなことない。道具を分解するセイリオスの手を見てるのは楽しかったし、知らない道具が次々隣の部屋から出てくるのも楽しかった。
セイリオスの話す話も分からないところが多かったけど、見せたりしてくれるから何となくわかるものもあったし、何より、楽しげに話すセイリオスの声は心地よくて。
この世界に来て初めて何でもない話をした気がして、なんだか友達とただしゃべっているだけの放課後みたいで楽しかったのだ。
「嫌じゃない。たのしかた、よ? もっと。いいよ。セイリオスの声、すきぃ。だから、もっと、教えて? セイリオス」
ヒカリのその眼はとろんとしていて、腕をベッドの横の棚の上で組んで頭をのせたままそんなことをいう。
疲れなかったわけではないらしい、でも話も聞いていたいのだ。
「……そっか? じゃあ、いつでも話す。いつでも、何でも、聞いてくれ。疲れたら寝て、お腹がすいたらご飯食べて、聞きたかったら聞いて。時間はまだまだあるからな?」
頭をぐりぐりと撫でられて、ヒカリはまた少し微睡みそうになる。ゆるゆる頭を振ってセイリオスの手を取る。
「セイリオス、手、だめ」
手の下から覗き込んだヒカリは目をパチパチする。セイリオスは手を引っ込めようとした。
「あっ、嫌だったか? そうだ……」
「ちがう。手、大きい。あたかい。いい! 寝る。だめ。話、聞きたぃ、よぅ」
引っ込めようとした手を握りながらヒカリは伝える。手が嫌なんじゃなくて、話が聞きたいのに眠くなるのが嫌なんだよ。まだ、聞きたいことたくさんあるのに。
首をゆるゆる振りながら、手を胸に抱き込む。
「わかった! わかったから。ヒカリくん。つまり、眠いんだな? ふふっ、俺の手は怖くないんだな?」
「こわくないよー、手、よい」
よいよいと言いながら、伝わる熱はやっぱりヒカリを眠たくさせる。ある意味恐ろしい手だなとヒカリは思った。
そんなヒカリを覗き込むセイリオスに手を伸ばし頭についてるふわふわの埃を取った。
「セイリオス、頭、いつも、付いてるね。気付かない。ふふっ」
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