上 下
4 / 23

四話

しおりを挟む
「『すきすきちゅっちゅ』……? ん~っと……すきすきちゅっちゅ……」

「クッ……! 幼い女の子が『すきすきちゅっちゅ』なんて言葉を連呼してる事実が……俺の体内の何かをイイ感じに刺激してきやがる!」

 熟考するルーナに背を向けて、人知れず気持ちの悪い事を呟くシセル。

「すきとちゅー……すきすきして、ちゅーする……?」

「……マジか」

 ──『すきすきちゅっちゅ』をしっかり『すき』と『ちゅー』の二つに分けて謎を解きやがった! 天才や!

 と、彼は内心……手放しで褒めまくる。

「正ッ解! 仲のいい人同士がやる、日々の疲れが解消されるという噂のモノなんだけど……僕には今までそんな事ができる程、仲のいい子は居なかったんだ」

 ルーナの言う『すきすきして』とは一体どういうモノなのか? シセル自身、それが何か分かってない為……最初から何を言われても正解にするつもりだったのだろう。

「……しせるもそうなんだ」

「だけど今日! 僕にも『すきすきちゅっちゅ』ができるくらい仲のいい友達ができた!」

 ──……誰のことか分かる?

 と、シセルは吐息を混じらせたキショめのイケボカテゴリーボイスでルーナに問いかける。

「……もしかして、わたし?」

「うん、そうだよ。だからさ、仲良しだっていう証明の為に……僕と『すきすきちゅっちゅ』しない?」

「よくわからないけど……うん、いいよ?」

(キタァァァ! ふぅ、落ち着け……俺。あまりがっつくと恐がられてしまう。……ん? 落ち着くだとッ!? いや、俺はそもそも取り乱してなどいないはずだ! 俺はロリコンではないッ! そう、これは世界の為に仕方なくやっている事だ)

 などと自身に言い聞かせて足掻いているが……無駄だ。どのような視点から見ていたとしても、間違いなくロリコンであるという事に変わりは無い。

「でも……わたし、やりかたがわからない」

「大丈夫だよ、僕に任せて? 僕の言う通りにすればできるよ!」

「ほんと?」

「うん! 本当だよ! ……じゃあ早速、ちょっとこっちに来て?」

「わかった」

 シセルに手招きされたルーナは、何故かそのまま木製の椅子に座っている彼の太ももの上・・・・・に跨った。当たり前のように自身の目の前に吸い込まれて来るその様子を見て、シセルは内心……非常に困惑しながらも、気合いでスルーして彼女のサラサラとした髪を触りながら、その耳元で囁く。

「じゃあ……目を閉じて、肩の力を抜いて?」

「……うん」

 ルーナが目を瞑ったのを確認した瞬間、壊れ物を扱うかのように優しくルーナを抱き寄せ、その柔らかい頬に触れるだけのキスをした。

「……んっ」

 頬へのキスに反応したルーナは、口から漏れるはずだった空気を閉じ込め、鼻腔の方から声をあげさせる。

(いきなり唇へのキスじゃ雰囲気が足りん……らしいからな。相手の興奮度を上げる為、しっかりと頬や額に触れるだけのキスとハグを繰り返していこう。決してッ! 唇へのキスは流石にハードルが高いからとかいう理由ワケでは無い)

 シセルには経験が無い。経験が無いので、全てアニメや漫画……小説などの創作物から取り入れた付け焼き刃の知識による、ぶっつけ本番のモノとなる為……頬や額に口付けをするその様子は、相手が恋人である事を想定したというより……本人の精神とは裏腹に、家族の愛情表現のような微笑ましいモノとなっていた。

「んっ……ま、まって? いましせるとわたしがしてるのって『すきすきちゅっちゅ』なの?」

「ソウダヨ」

「ねぇ、しせる……これ、すごいね?」

「でしょ? ルーナと僕がそれだけ仲良くなれたって事だよ」

(一体どれだけ仲良くなれたんだろうか? 適当に言い過ぎて俺自身も何言ってるか分からん。てか、興奮し過ぎないように抑えるのキツイ!! やはりこれは、修行だったのか……)

 自身に宿る性欲がこれ以上・・・・暴走しないよう、必死に抑えるシセル。お互いが子供ではある為、絵面的にはセーフに見えるが……このような幼女に興奮している時点で、ロリコンである事は言い逃れできない事実と化してしまった。しかし……彼が過ごした二度の人生において、一度も経験したことが無かったコトだ……こうなってしまうのも無理はないのかもしれない。──まぁ、だからと言って実行に移してしまうのは流石にアウトなので、弁解の余地など微塵も存在しないが。一段落したのか、一度ルーナを膝上から降ろそうとするシセル。

「……うん、そうだね。わたしとしせるはもう、おかあさんとしらないおとこのひととおなじくらいなかよし!」

 その途中で──おっと? と、何か悪い予感がしたのか……ルーナを膝上に跨らせたまま、身体を硬直させる。

「いえにいるとき、おかあさんとそのひとが『すきすきちゅっちゅ』してるのをみたことがあるの……いつもどうしてあんなことしてるんだろうっておもってたけど、こんなにぽかぽかするならしょうがないよね?」

「う、うん……そうだね」

 かなり気まずくなる話を強制的に聞かされてしまったシセルは、苦笑いを浮かべながら肯定するしかない。

「ねぇ……しせる、もっと……して?」

 何故かたっぷりと溜めて、そう強請ねだるルーナ。 

 ──と、ここでシセルは当初の予定通り……依存させる為の作戦を開始する。

「……っとストップ!」

 彼は……そのままハグを止める気配のないルーナを強引に身体から引き離す。

「……ぁ」

「今日はここまで!」

「え! ……ど、どうして?」

 物欲しそうな表情でシセルに視線を向けるルーナ。

「僕、そろそろ帰らないといけないんだ」

「……そ、そんなぁ」

「……また明日もここに来るから、そしたr」

「わかった、またあしたここでまってる……またいっぱい『すきすきちゅっちゅ』しようね?」

 ルーナは……シセルの声に言葉を被せながら、鼻と鼻が接触する程の距離まで顔を近付ける。

(だ、だいぶ食い気味だなッ! ……ふぅ、びっくりしたぁ、ちびるかとおもったぁ。まぁ、この様子だとかなりハマってくれたみたいで安心安心!)

 どうやら、目的に一歩近付く事が出来たと確信したシセルは……『やる事は終わった』とばかりにルーナを太ももの上から優しく降ろし、立ち上がる。

「じゃあ、また!」

「……うん」

 そんなシセルの態度を見たからか、なにやらルーナが寂しそうに俯いている。その様子に気付いたシセルは……”やっちまった感”を覚えると同時に──これは流石に……伝説のアレを出さざるを得ないかッ! と、予め思い付いていた……このような状況を打開する為の対策を講じる。

(初日で出すつもりは無かったんだが、あんな表情をされてしまったら……もう出し渋る訳にはいかないッッ!!)

「……ルーナ、こっち向いて?」

「え? ……んむぅ!」

 シセルは……何が起こるか分からず、顔を上げたルーナの頭をがっしりとロックする。そして、アニメ漫画小説知識から成せる……渾身の『優しさ全開プレッシャーキス』をお見舞いした後……ゆっくりと顔を離して見つめ合う。

「お別れのキスだよ! 明日から毎日しようね!」

 その発言を聞いたルーナは、先程までの暗い表情が無かったかのように満面の笑みを浮かべた。

「……うん!!」

(──ヨシッ! Missionミッション Completeコンプリート!)



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

乙女ゲーのラスボスに転生して早々、敵が可愛すぎて死にそうです

楢山幕府
ファンタジー
――困った。「僕は、死ななければならない」 前世の記憶を理解したルーファスは、自分がかつてプレイした乙女ゲームのラスボスだと気付く。 世界を救うには、死ぬしかない運命だと。 しかし闇の化身として倒されるつもりが、事態は予期せぬ方向へと向かって……? 「オレだけだぞ。他の奴には、こういうことするなよ!」 無表情で無自覚な主人公は、今日も妹と攻略対象を溺愛する。 ――待っていろ。 今にわたしが、真の恐怖というものを教え込んでやるからな。 けれど不穏な影があった。人の心に、ルーファスは翻弄されていく。 萌え死と戦いながら、ルーファスは闇を乗り越えられるのか!? ヒロインは登場しません。

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

前世の記憶で異世界を発展させます!~のんびり開発で世界最強~

櫻木零
ファンタジー
20XX年。特にこれといった長所もない主人公『朝比奈陽翔』は二人の幼なじみと充実した毎日をおくっていた。しかしある日、朝起きてみるとそこは異世界だった!?異世界アリストタパスでは陽翔はグランと名付けられ、生活をおくっていた。陽翔として住んでいた日本より生活水準が低く、人々は充実した生活をおくっていたが元の日本の暮らしを知っている陽翔は耐えられなかった。「生活水準が低いなら前世の知識で発展させよう!」グランは異世界にはなかったものをチートともいえる能力をつかい世に送り出していく。そんなこの物語はまあまあ地頭のいい少年グランの異世界建国?冒険譚である。小説家になろう様、カクヨム様、ノベマ様、ツギクル様でも掲載させていただいております。そちらもよろしくお願いします。

破滅する悪役五人兄弟の末っ子に転生した俺、無能と見下されるがゲームの知識で最強となり、悪役一家と幸せエンディングを目指します。

大田明
ファンタジー
『サークラルファンタズム』というゲームの、ダンカン・エルグレイヴというキャラクターに転生した主人公。 ダンカンは悪役で性格が悪く、さらに無能という人気が無いキャラクター。 主人公はそんなダンカンに転生するも、家族愛に溢れる兄弟たちのことが大好きであった。 マグヌス、アングス、ニール、イナ。破滅する運命にある兄弟たち。 しかし主人公はゲームの知識があるため、そんな彼らを救うことができると確信していた。 主人公は兄弟たちにゲーム中に辿り着けなかった最高の幸せを与えるため、奮闘することを決意する。 これは無能と呼ばれた悪役が最強となり、兄弟を幸せに導く物語だ。

ゲーム世界の悪役貴族に転生したけど、原作は無視して自由人キャラになります

芽春
ファンタジー
苦しい人生のストレス発散の深酒が原因で海に落ちて死んだ青年がいた。 その後とある異世界でアローン・ハウンドという貴族に生まれ変わり、13歳の時に前世の記憶を取り戻す。 彼はこの世界が前世で流行っていたゲーム、「エターナル・ブレイド」と同じ世界で有る事に気づく。 しかし、自分が最悪な運命を背負っていることは覚えているものの、知識不足から上手いこと原作をなぞりながら自分は生き残ると言った風な器用な立ち回りは出来ないと察しが着いてしまう。 色々と吹っ切れ、前世で憧れていた自由人キャラになってやろうと、全てを捨てて家を飛び出し冒険者になったのだが、原作の敵キャラや実家からの追っ手などが絡んできて、なかなかどうも自由気ままという訳にはいかないようで…… 何にも踏みにじられない自由を追い求める少年が邪魔者を打ち砕いてく、異世界バトルストーリー

僕が皇子?!~孤児だと思ったら行方不明の皇子で皇帝(兄)が度を超えるブラコンです~

びあ。
ファンタジー
身寄りのない孤児として近境地の領主の家で働いていたロイは、ある日王宮から迎えが来る。 そこへ待っていたのは、自分が兄だと言う皇帝。 なんと自分は7年前行方不明になった皇子だとか…。 だんだんと記憶を思い出すロイと、7年間の思いが積もり極度のブラコン化する兄弟の物語り。

前世で抑圧されてきた俺がドラ息子に転生したので、やりたい放題の生活をしていたらハーレムができました

春野 安芸
ファンタジー
 彼―――神山 慶一郎はとある企業の跡取り息子だった。  神山家たるもの、かくあるべし。  常日頃から厳しく躾けられた彼は、高校入学試験の時に迫ってくる車から女の子を助け、気づいたら見知らぬ世界の見知らぬ人物へと成り代わってしまっていた。  抑圧されてきた彼が命を落として気づいたそこは、名のある貴族の一人息子であるスタン・カミングの身体であった。  転生前のスタンは若干6歳。そして生まれた頃より甘やかされて育ってきたその性格は、わがまま放題のドラ息子でもあった。  そんなスタンが突然変化したことにより戸惑いつつも、次第に周りも受け入れ始める。同時に、神山家から開放されたと実感した彼は新たな生を謳歌しようとドラ息子の立場を利用してわがまま放題すると決めたのであった。  しかし元が御曹司で英才教育を受けてきた彼にとってのわがままは中途半端なものに過ぎず、やることなす事全て周りを助ける結果となってしまう。  彼が動けば良い方向へ。そんな行動を無自覚ながら取り続けた彼の周りには、従者や幼なじみ、果ては王女様まで様々な美少女がついてくることに!?  これは異世界に転生した御曹司のわがまま(自称)生活が、今盛大に始まる!?

田舎で師匠にボコされ続けた結果、気づいたら世界最強になっていました

七星点灯
ファンタジー
俺は屋上から飛び降りた。いつからか始まった、凄惨たるイジメの被害者だったから。 天国でゆっくり休もう。そう思って飛び降りたのだが── 俺は赤子に転生した。そしてとあるお爺さんに拾われるのだった。 ──数年後 自由に動けるようになった俺に対して、お爺さんは『指導』を行うようになる。 それは過酷で、辛くて、もしかしたらイジメられていた頃の方が楽だったかもと思ってしまうくらい。 だけど、俺は強くなりたかった。 イジメられて、それに負けて自殺した自分を変えたかった。 だから死にたくなっても踏ん張った。 俺は次第に、拾ってくれたおじいさんのことを『師匠』と呼ぶようになり、厳しい指導にも喰らいつけるようになってゆく。 ドラゴンとの戦いや、クロコダイルとの戦いは日常茶飯事だった。 ──更に数年後 師匠は死んだ。寿命だった。 結局俺は、師匠が生きているうちに、師匠に勝つことができなかった。 師匠は最後に、こんな言葉を遺した。 「──外の世界には、ワシより強い奴がうじゃうじゃいる。どれ、ワシが居なくなっても、お前はまだまだ強くなれるぞ」 俺はまだ、強くなれる! 外の世界には、師匠よりも強い人がうじゃうじゃいる! ──俺はその言葉を聞いて、外の世界へ出る決意を固めた。 だけど、この時の俺は知らなかった。 まさか師匠が、『かつて最強と呼ばれた冒険者』だったなんて。

処理中です...