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4 アノヤロウ

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再び食材を机に並べ出したヒューにアイラは聞いた。

「それにしても、ヒュー。なんでそんなに詳しく知ってるの?」

「単純な話。ふた月前ナウリアは俺にエイデンのことを聞いてきたから。
《商会のお嬢さんの婚約者ってどの人?》って」

「それで私の婚約者がエイデンだって教えたの?!」

「そうだよ。いけなかった?
俺が言わなくても、どうせ誰かから聞いてすぐに知ったと思うけど」

「そうだけど!…………って。待って。
え?じゃあナウリアは《私の婚約者》だって知ってからエイデンに会ったの?」

「そういうことになるね」

アイラの口は開いたままになった。

そういえば不思議だった。
エイデンが、どこでナウリアのような美女と知り合ったのか。

エイデンはお父さんと二人、家具を作る仕事をしている。
ほとんど家にいるのに。


「……それってなんだか。まるでナウリアは《私の婚約者だから》エイデンに声をかけたみたいに聞こえるんだけど」

「みたい、じゃないさ。実際そうだよ。
なんせ《君の婚約者》のことを聞く前は彼女、会長に言い寄っていたから」

「―――父さんにっ?!」

「そう。愛人にしてもらおうと思ったようだね。
でも全く見向きもされてなかった。
言い寄ってくる女性の多い会長は、ああいうのをいちいち相手にしない。
それになんと言っても君のお母さん――妻一筋だし」


「待って!」とアイラは叫んだ。

アイラの頭の中はごちゃごちゃだった。
両手で頭を抱え、唸りながらヒューからもたらされた情報を整理していく。

ヒューの方は食材を出し終えた袋を丁寧にたたむと今度は食材を収納し始めた。
机の上に並べられていた沢山の食材が的確にしまわれていく。

半分ほどの食材が机の上からなくなった頃、アイラはようやく口をきいた。

「…………まさかナウリアは。
父さんに相手にされなくて。それで……次はエイデンに言い寄ったの?
ナウリアは完全にうちの商会のお金目当てだってこと?」

「そうだろうね。
だいたい彼女、それが目的でこの街に来たんだと思うよ。
働き口を探してる訳でもなく毎日出歩いているけど……何してるんだろうね?
って宿屋の女将さんが市場で話してたから」

アイラは呆然とするしかなかった。

「……そんな女性なの……?ナウリアって」

「そう。あれは多分、ずっと男に貢がせて生きてきた女性だね。
働きもしないで、ふた月以上も宿屋暮らしができているのがいい証拠だ。
でもそろそろ年だ。
それで金持ち一人に絞って養って貰おうと考えたんじゃないかな」

「年って……まだ若い人だったけど?」

「ああいう女性が売れる期間は短いんだよ。
ナウリアはもう若さを売りにするのは厳しいね」

「詳しい」

「ソルディバ商会は化粧品も扱う。俺が知ってて当然だろう」

「へー……」

軽蔑の色が混ざった目をヒューに向けたアイラ。
ヒューはそれを無視して食材をしまうことに専念し、終わるとふう、と息を吐いた。


「とにかく。ナウリアは会長を狙ったが全く相手にされなかった。
それで君の婚約者エイデンに狙いを変えた。
妻一筋の会長と違ってエイデンはすぐに堕ちた。
二人は付き合ってふた月。今や毎日会ってる。
幼馴染の婚約者という君の存在はエイデンにとってそれは軽かったみたいだね」

「…………アノヤロウ…………」


アイラはドン、と机を思いきり叩いた。

「もういい!あんな奴こっちから願い下げよ!
婚約は破棄してやるわ!!人を馬鹿にして!」

「今すぐエイデンの家に怒鳴り込む?」

「そんなことしないわ。
頭にきた時ほど動いたら駄目だって父さんが言ってたもの」

「じゃあどうするの?」

「言い逃れできないように現場を押さえて婚約破棄を突きつける。
父さんにも証人としてついてきてもらわなくちゃね。
逃がさないわよ。
ソルディバ商会の会長とその娘を敵に回した恐ろしさを知るといいわ。
ヒュー。貴方、宿屋の女将さんに聞いたんでしょう?
ナウリアが毎日何時に宿を出るか。
教えて。
あと、今からこのお金をエイデンの家に届けてきて。
不本意だけど、これ届けないときっと不審に思われるから。
《アイラは急用ができたから俺が代わりに届けにきた》って言ってね」

「いいよ。君は平静を保てないだろうからね」

ふっふっふっ、とアイラは笑った。


「そうよ。今あの家に行ったら私、犯罪者になる自信があるわ」


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