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二度目
12 新たなはじまりの日
しおりを挟む私はじっと鏡を見ていた。
そこにはいつもの……《16歳の》私がいた。
突然だった。
突然、寝ていた私の中に《誰か》が入ってきた感じがした。
それは《前回の私》だった。
今から二年後に、国王様の――お父様の命令で、あの小国の王妃となり。
……そして最期は、毒を飲んで死んだ《前回の私》。
それが今の、16歳の私に、すとんと入った。
だから私は知った。
前回、起こったことを。
いいえ。覚えているのだ。
前回の……未来を。
どうしてそうなったのか。
何故そうなったのかは、わからないけれど。
―――戻ったのだ。時が。
震えが止まらなかった。
嬉しさはなかった。
恐ろしいと思うばかりだった。
「いつまで鏡を見ているんですか」とデラに文句を言われた。
ぶつぶつといつも通り小言を言い続けているデラは、昨日までと違って小さく見えた。
私は鏡の前から離れ、居室の椅子に座った。
やがてドアがノックされ、朝食が運ばれてきたことが告げられた。
デラが朝食を受け取るため、ドアを開ける。
そこには護衛としてセオが立っていた。
「セオ!」と名前を叫んでしまいそうになった。涙が溢れてきた。
今すぐ、セオに飛びついて泣きたかったけれど、何とかこらえた。
私たちはまだ何の関係もないのだ。
けれど。
いつもなら私と目が合えば少し笑いかけてくれたセオは、今日は青白く、強張った顔をして私を見ていた。
デラとは違い、セオには私と同じように《前回の記憶》があるのだと気づくには十分だった。
胸が熱くなった。
セオもすぐに、私が昨日までとは違うと気づいたようだ。
目を見開いて、こくりと私に頷いて見せてくれた。
私も頷き返して、デラに気づかれないよう涙を拭った。
暗い心に火が灯ったような気がした。
私は何食わぬ顔で、いつも通りデラが朝食を準備してくれるのを待った。
その後、やはりいつも通りお母様がやってきた。
16年間、毎日変わらない日課だ。
お母様は虚ろな目で「カタリナ」とだけ言って、私の頬を撫でる。
私は「お母様」と言って微笑む。
私は知っていた。
これはあと二年は続く。
二年後、18歳の私が国王様――お父様に命じられて、あの小国に向かうまで。
そして、お母様が、お父様に見限られ、静かに葬られるまで。
それまで……あと。二年も続く。
寒気がした。
どうしてこうなったのか。何が起こったのかはわからない。
わからないけれど――《こうなった》のだ。
時が戻った。
ならもう、あの小国に行かされるのはごめんだ。
今度は行きたくない。絶対に行きたくない。
でも、前回の通りならあの国に行かされるのは二年後だ。
あと二年は、猶予がある。
わかっていた。
二年の間、よく考えて行動した方がいいことくらい。
それでも。
私は、お母様をそっと抱きしめた。
はじめてのことに、お母様が小さく息を呑んだ。
……ごめんね。
空っぽのお腹から私を産んでくれたお母様。
許してね。
もう一秒だって、同じことを繰り返すのは嫌なのよ。
――― 変えさせてもらうわ。未来を ―――
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