3 / 4
後編
しおりを挟む次の日、ウェイドと私は宿舎から王宮に向かって歩いていた。
二人で王妃様の警護にあたることになっていたのだ。
王宮が目の前となった時、後ろから足音がして振り返るとジャンがやってきた。
ウェイドと私は顔を見合わせた。ジャンは今日、非番だったはずだ。青ざめた顔
のジャンに嫌な予感しかしない。
「エスファニア。隊長と結婚したのか?」
ーーーああ。やっぱりその話しか。うんざりだ。
「したよ」
私はつとめて平然と言った。
ジャンはそれが気に入らなかったらしい。
「どうしてだ!君には僕がいるじゃないか!」
大声で叫んだ。
いや、誰に誰がいるって?
私はすぐに反論しようとしたがウェイドがそれを止め、私とジャンの間に入ると
ジャンに言った。
「ジャン。ここでする話じゃない。お前は今日、非番だろう。宿舎へ帰れ」
「ウェイド!君も知っていたのか?!知っていて僕を笑っていたのか?」
「違う!ジャン、とにかくやめろ。その話は今晩宿舎でーー」
「ーーエスファニア!裏切り者!何故隊長なんかと!」
ーーーどうしてそんな話になるのだ
悲壮感を持って叫ぶジャンと必死で止めるウェイドがまるで絵のように見えた。
王宮の目の前。同じ近衛騎士以外にも侍女達や庭師、多くの人がいる。
何人もの目がこちらを向く。
まずい、と思った。
この騒ぎ。起こしたジャンも止めようとしているウェイドも、そして私も。
このままでは全員が処罰されてしまう。
だが私は見ていることしかできなかった。
近衛騎士同士の諍いで剣を抜くわけにはいかない。
そしていくら同じ騎士でも女の私が力で二人を止められるはずがない。
どうしたらーーーーー
ああ、もう。
うんざりだ。
なぜこんなことになるのだ。
だから嫌なんだ。
恋だの愛だのなんて。
いっときの幻にしかすぎないものに踊らされて。
どうせすぐに消えるものなのに。
何にもならないものなのに。
そんなもののために何故、人はーーー
「ーーやめないか馬鹿どもっ!」
びくりと身体が震え上がった。
それは組み合っていたジャンとウェイドも同じだったらしい。
二人はピクリとも動かなくなった。
「何をやっているのだ、お前たちは」
声はーー隊長だった。
王宮からゆっくりと出て、ジャンとウェイドに近づいて行く。
先に我に返ったのだろうウェイドが、ジャンから手を離し隊長に跪く。
それを見た私も慌てて跪いた。
しかしジャンは。呆然とその場に立ったままだ。
隊長はそんなジャンを睨みつけた。
ジャンは狼狽えたが俯いただけで、そして言った。
「何故、エスファニアを取ったのですか」と。
「エスファニアは僕が!……私が、出会った時からずっと変わらず好きだった
女性です。貴方も知っていたはずだ。それを!」
「ーー彼女はお前の《もの》ではないだろう」
隊長が平然と言った正論はジャンを怒らせたらしい。
ジャンは拳を握り震えている。
「確かに、彼女には恋だの愛だのは一時の幻の様なものだからと断られました。
人の気持ちは変わるもので続くものではないと。
だが私はそんな彼女に知って欲しかった。私はずっと変わらずに彼女を好きなの
だと。そう告げ続けていたというのに貴方はーー」
「ーー人の気持ちは変わるものだ」
「ーーえ?」
「当然だろう。人の心は常に更新されていく。常に新しく変わっていくものだ。
ずっと同じ気持ちが続くわけがないではないか。
もし、お前が彼女を《ずっと変わらず好き》なのなら、それはもう今の気持ちで
はない。止まった想いを手放せず抱えているだけではないのか?」
ジャンは目を見開いたまま動かなくなった。
そして、そのまま近くにいた騎士の一人に付き添われ宿舎へと帰って行った。
残されたウェイドがおずおずと顔を上げる。
「隊長」
「なんだ」
「その……何故、エスファニアを選んだのですか」
ーーーウェイドの奴、何を聞くのだ!
私はウェイドの発言を謝るつもりで慌てて隊長を見た。
しかし彼は平然と。
なんの躊躇いもなく言い放った。
「当然だろう。ーー私は女性といえば彼女しか知らないのだ」
その場にいた全員の息が止まった。
聞いたウェイドは真っ青になっている。
ああ、もう。
今、最低な誤解をうみましたよ。……旦那様。
私は苦笑しながらこの気持ちをなんと呼ぶのか考えていた。
13
お気に入りに追加
104
あなたにおすすめの小説
旦那様の秘密 ~人も羨む溺愛結婚、の筈がその実態は白い結婚!?なのにやっぱり甘々って意味不明です~
夏笆(なつは)
恋愛
溺愛と言われ、自分もそう感じながらハロルドと結婚したシャロンだが、その婚姻式の夜『今日は、疲れただろう。ゆっくり休むといい』と言われ、それ以降も夫婦で寝室を共にしたことは無い。
それでも、休日は一緒に過ごすし、朝も夜も食事は共に摂る。しかも、熱量のある瞳でハロルドはシャロンを見つめている。
浮気をするにしても、そのような時間があると思えず、むしろ誰よりも愛されているのでは、と感じる時間が多く、悩んだシャロンは、ハロルドに直接問うてみることに決めた。
そして知った、ハロルドの秘密とは・・・。
小説家になろうにも掲載しています。
好きな人と友人が付き合い始め、しかも嫌われたのですが
月(ユエ)/久瀬まりか
恋愛
ナターシャは以前から恋の相談をしていた友人が、自分の想い人ディーンと秘かに付き合うようになっていてショックを受ける。しかし諦めて二人の恋を応援しようと決める。だがディーンから「二度と僕達に話しかけないでくれ」とまで言われ、嫌われていたことにまたまたショック。どうしてこんなに嫌われてしまったのか?卒業パーティーのパートナーも決まっていないし、どうしたらいいの?
ハイパー王太子殿下の隣はツライよ! ~突然の婚約解消~
緑谷めい
恋愛
私は公爵令嬢ナタリー・ランシス。17歳。
4歳年上の婚約者アルベルト王太子殿下は、超優秀で超絶イケメン!
一応美人の私だけれど、ハイパー王太子殿下の隣はツライものがある。
あれれ、おかしいぞ? ついに自分がゴミに思えてきましたわ!?
王太子殿下の弟、第2王子のロベルト殿下と私は、仲の良い幼馴染。
そのロベルト様の婚約者である隣国のエリーゼ王女と、私の婚約者のアルベルト王太子殿下が、結婚することになった!? よって、私と王太子殿下は、婚約解消してお別れ!? えっ!? 決定ですか? はっ? 一体どういうこと!?
* ハッピーエンドです。
最悪なお見合いと、執念の再会
当麻月菜
恋愛
伯爵令嬢のリシャーナ・エデュスは学生時代に、隣国の第七王子ガルドシア・フェ・エデュアーレから告白された。
しかし彼は留学期間限定の火遊び相手を求めていただけ。つまり、真剣に悩んだあの頃の自分は黒歴史。抹消したい過去だった。
それから一年後。リシャーナはお見合いをすることになった。
相手はエルディック・アラド。侯爵家の嫡男であり、かつてリシャーナに告白をしたクズ王子のお目付け役で、黒歴史を知るただ一人の人。
最低最悪なお見合い。でも、もう片方は執念の再会ーーの始まり始まり。
旦那様の様子がおかしいのでそろそろ離婚を切り出されるみたいです。
バナナマヨネーズ
恋愛
とある王国の北部を治める公爵夫婦は、すべての領民に愛されていた。
しかし、公爵夫人である、ギネヴィアは、旦那様であるアルトラーディの様子がおかしいことに気が付く。
最近、旦那様の様子がおかしい気がする……。
わたしの顔を見て、何か言いたそうにするけれど、結局何も言わない旦那様。
旦那様と結婚して十年の月日が経過したわ。
当時、十歳になったばかりの幼い旦那様と、見た目十歳くらいのわたし。
とある事情で荒れ果てた北部を治めることとなった旦那様を支える為、結婚と同時に北部へ住処を移した。
それから十年。
なるほど、とうとうその時が来たのね。
大丈夫よ。旦那様。ちゃんと離婚してあげますから、安心してください。
一人の女性を心から愛する旦那様(超絶妻ラブ)と幼い旦那様を立派な紳士へと育て上げた一人の女性(合法ロリ)の二人が紡ぐ、勘違いから始まり、運命的な恋に気が付き、真実の愛に至るまでの物語。
全36話
初夜に前世を思い出した悪役令嬢は復讐方法を探します。
豆狸
恋愛
「すまない、間違えたんだ」
「はあ?」
初夜の床で新妻の名前を元カノ、しかも新妻の異母妹、しかも新妻と婚約破棄をする原因となった略奪者の名前と間違えた?
脳に蛆でも湧いてんじゃないですかぁ?
なろう様でも公開中です。
離婚された夫人は、学生時代を思いだして、結婚をやり直します。
甘い秋空
恋愛
夫婦として何事もなく過ごした15年間だったのに、離婚され、一人娘とも離され、急遽、屋敷を追い出された夫人。
さらに、異世界からの聖女召喚が成功したため、聖女の職も失いました。
これまで誤って召喚されてしまった女性たちを、保護している王弟陛下の隠し部屋で、暮らすことになりましたが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる