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11 襲撃 ※戦闘表現あり

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あいつがいなくなっても俺は兵士だ。
魔物から皆を守るという大切な任務がある。

俺は休むことなく砦に立ち続けた。
魔物を見張り、魔物を発見すれば鐘を打ち、村に知らせてから待機中の仲間と撃って出た。
そしてへとへとになって帰る。
その繰り返し。

そうして気がつけば、あいつを見送ってから、二月ふたつきが過ぎていた。
雪の季節の終わりが近づいていた。


「今年は大きい魔物が少ないね」

その日。
砦で待機中にカールが言って、タニアと俺、他に一緒にいた兵士たちも同意した。

「そうだな。おかげで少しは楽ができた」

「助かるよな」

「ああ。おかげで今のところ死者は出ていないし、怪我した奴も少ない」

「何よりだ」

皆でほうっと息を吐いた。


獣がそうであるように、魔物の大きさも様々だ。
馬くらいの魔物もいれば、家くらいの魔物もいる。
そして、それ以上にでかい魔物もいる。

討つのが大変なのはどれも変わらない。
どれも人間よりはでかいし、素早い。

そして厄介なのが火で燃えるところだ。

魔物は、それはよく燃える。
が、火をつけたらすぐに絶命するわけじゃない。

まるで蝋燭のように、息絶えるまでに長い時間がかかるのだ。
苦しいのかその間、狂ったように暴れ回る。

おかげで大砲は使えない。

魔物に大砲を使えば
ものすごい速さで暴れ回る、巨大な火の玉を生み出してしまう。

投石器くらいなら使える。
だが素早い魔物に確実に当てるのは難しい。

どうしても弓か槍か斧か。
もしくは剣で討伐することになる。

だから大きい魔物ほど、倒すのは難しくなる。

近づいて攻撃することができないからだ。
近づけば人間など、容易く仕留められてしまう。


「このまま、早く雪の季節が終わって欲しいよ」

とタニアが言い、みんなが頷いた。

大きい魔物が現れることは少ない年だったが、
雪の多い年ではあった。

暦の上ではもうじきに雪の季節は終わるはずなのに、
砦の周りはまだ一面の銀世界だ。

「また降ってきたな」

誰かの声に、皆が空を見上げ顔を顰めた。


見張り台の上から叫び声が聞こえたのはそれと同時だった。

「―――魔物だっ!大きい!―――それも五匹いるっ!」


―――たちの悪い冗談かと思った。


魔物は群れたりしない。
群れで現れたことなどない。

一度、三匹――それも小さいヤツがばらばらと現れたことがあるくらいだ。

大きい魔物が複数同時に現れたことはない。

だが、
見張りの顔は―――――


魔物が現れたことを知らせる鐘がけたたましく鳴らされた。

それだけでは足りないと村に事態を知らせる伝令が走った。
任務明けで寝ている奴だろうが、村にいる兵士全員を呼ぶ必要がある。

そこからはもう夢中だった。

とにかく魔物の足を止めること。
それだけを考えた。

まず一番最初に向かって来た魔物からだ。
足を集中して狙う。
一匹ごとに息の根を止めている場合じゃない。

とにかく五匹全ての魔物を動けなくしなくては。
村へ行かせるわけにはいかない。
ここで止めなくては。

きっと全員が、ただその為だけに動いていた。

だが……数が多すぎる!


最初に向かって来た魔物は足を射て動けなくした。

だがそいつが盾となって邪魔をした。
矢を放っても後から来た魔物の足には届かない。

後から来た魔物は、動けなくなっていた魔物を踏みつけてこちらへ向かってきた。

足を射て止める前に、五匹のうちの二匹が砦の下まで来た。
石垣などものともしない大きさだ。
二匹の魔物は石垣を砕くと、すぐに砦の上に向かって登りだした。

そのまた後ろから、残るもう二匹も砦へ向かってきている。


「リアン!ダメだ!数が多すぎる!もたないよ!
もう無理だ!」

横にいたタニアが堪らず叫んだ。

引き続けた弓の弦が切れてあたったのだろう。
頬には血が滲んでいた。

俺はタニアを引っ張った。

「駄目だ!絶対にここで止める!
今は昼だ!村では火を使っている家が多い。
魔物が行けば大変なことになる!
わかるだろう?
タニア、予備の弓と矢を貸せ!
お前は待機室に行け!
武器が置いてあるだろう?取ってこい!
なんでもいい!持って来てくれ!」

後ろに向かって走り出したタニアを見送って、横のカールに声をかける。

「―――カール!斧は?!なければ剣を貸す!」

「いい!斧は刃がもうボロボロで使えないが剣はある!
くそう……なんだよ。まとまって来ることないだろう!」

カールは剣を抜き構えた。

俺も弓を構えた。


―――ここで止めるんだ。

ここを越えられれば村がある。
そこにはデボラ婆さんから受け継いだ家がある。

―――来るなよ。

また俺から奪うのか?
両親を。生まれた家を、村を奪っただけじゃ足りないのかよ。

降り積もっていた一面の白銀を泥に変えて魔物たちは進んできた。
それが無性に許せなかった。

どうして来るんだよ。
お前らの世界はあの森だろうが。

一年の四分の一。
雪の降る季節にだけ現れる。

つまり一年の四分の三は、あの森の中で生きていられるんだ。
なら、こっちに出てこなくても生きていられるんじゃないのか?

何故、雪の季節にだけ出てきて人を襲うんだ?

来るなよ。

壊させるものか。
村を。家を。

来るなよ。

襲わせるものか。
家畜を。
そして人を―――

地は続いている。

この先には他の地があって
そして……王宮がある。

王宮にはあいつがいる。

行かせるものか。
あいつに指一本触れさせるものか。


―――あいつは。俺が、守るんだ。


魔物に向かって射れるだけ弓を射た。

矢がなくなったら槍を
槍が使えなくなったら剣を。
そして剣が使えなくなったらタニアが取って来てくれた槍を構えた。

けれど
それでもまだ魔物たちは動いていた。
何十本もの矢や槍が刺さり、そこら中を斬られているというのに。

そのうちの一匹が、何かに気づいたように横に動き出したのが見えた。

村を目指す気だとわかった。
砦の上にいる俺たちは他の魔物に任せて、村へ―――。


「行かせるか!」

咄嗟に俺はその魔物を追おうと飛び出した。
気づいた時には遅かった。

目の前にいた魔物にあっけなく弾き飛ばされ、
俺は砦の壁にぶつかり背中から落ちた。

「―――――リアン!!」

俺を呼ぶタニアの叫び声を聞いた。

そして

空を何かが飛んでいくのを見た。


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