上 下
1 / 15

1 何気ない日

しおりを挟む


その日の朝、フィンリーと言い合いをした。

俺がタニアの部屋に泊まったことが原因だった。


俺は兵士だ。
雪の季節に森から現れ、人や家畜を襲う魔物を討伐する。

村を魔物の森から守るように作られた砦に立ち見張り、
魔物を発見すれば鐘を打ち、村に知らせてから待機中の仲間と撃って出る。

タニアはその同僚だ。


もとからきつい仕事だが、吹雪だった昨日の任務は大変だった。
魔物が現れなかったのは幸いだったが、遠くまで見渡せるように作られた砦の見張り台は想像を絶する寒さだった。

任務時間を終えた時、とっくに日は落ちていた。
一緒に見張りに立った同僚――タニアとカールと俺の三人で、ふらふらになって砦から村に帰ってきた。

給料日だった。

カールは早く眠りたいと言って帰り、俺とタニアは食堂に入った。
少し食べ、自分達へのご褒美のつもりで二人で酒を飲んだ。

一杯だけだったのだが、激務の後の身体には効いた。
店を出た記憶はなかった。

そして

朝起きたら、そこはタニアの部屋だった。

食堂はタニアの家の横だ。
多分、眠ってしまった俺をタニアは泊めてくれたのだろう。

俺はタニアに礼を言い、二日酔いで痛む頭を抱えて家に帰った。

そこには俺の帰りを寝ずに待っていたというフィンリーがいて。
どこに行っていたのか、どこに泊まったのかと聞かれたので、正直に答えた。


「……やっぱりそういう関係なのね。タニアさんと」

フィンリーはそう言って泣きそうな顔で俯いた。
俺はカッとなった。

「何だよ!そういう関係って!」

前々から、フィンリーは俺とタニアの仲を勘繰っていた。
タニアとの仲を疑うようなことを言われるたびに俺が誤解だと返す。

そんなやりとりをもう何度もしてきた。
いい加減、うんざりしていたところだった。


「おかしな想像はよせ!何度も言わせるな!
タニアは同僚だ」

「でもタニアさんは女性よ?部屋に泊まるなんて――」

「――いい加減にしろ」

俺はひと息に言った。

「俺たちの仕事を知っているだろう。兵士だぞ?
砦に立ち魔物を見張る。
常に三人体制で番をし、三時間おきに交代。
日中も底冷えする夜も立って魔物の侵入がないか目を光らせている。
魔物が出れば退治する。
待機中は雑魚寝だ。
それは女のタニアも一緒だ。特別視はしない。
タニアは女である前に兵士なんだよ」

「でも、タニアさんは貴方を――」

「――しつこいぞ!そんなふうにタニアを見るな!」

「―――――」

「いいか?何度も言わせるな。
タニアは兵士だ。
共に砦に立ち、いざと言うときは命を預けられるほど俺が信頼している兵士だ。
性別は関係ない。俺の良い同僚で相棒だ。
もうやめろ。
それは弓の名手で、代々この地を守る兵士の一族の子孫。
兵士タニアを侮辱するのと同じだ」

「……どこの誰ともわからない。
私なんかが何かを言える相手じゃないと言うのね」

「そんなこと言ってないだろう!」

「もう……いい……」

「フィンリー!」

フィンリーはふいと向きを変えると家を出ていった。
追いかけようかと思ったが、もう着替えて砦に向かわなければいけない時間だ。

残された俺はくしゃりと髪を掴んだ。


「くそっ。何だよ、あいつは」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

総攻めなんて私には無理!

能登原あめ
恋愛
* R18コメディ寄りです。タグの確認をお願いします。 「あなたみたいな子を待っていたのよ~! 絶対気にいるから!」  目の前に美しい女神様? 「総攻めイイって言ってたわよね?」  総攻めはイイ。  でもソレは二次元の話で。  それに少女漫画が一番好きだけど。 「すっごく愛されて大事にされて尽くされるわよ? あなたの幸せは約束するから!」  真面目に生きるの疲れたしそれもいいかなー。    「それでもって、ガンガン攻めてあげて♡」  攻めるのは、BLの好みの話で。  25歳、処女の私がどうやって⁇  妄想? BL妄想で? 「それで、リバ可なのよね? うんうん、楽しんじゃって♡」  だんだんおかしな話になってきた。 「夫は5人まで持つのが義務! とりあえず、2人選んでおいたから♡ あと3人は候補者の中から好みで選んで。みんなで仲良く暮らしてね」  え? 5人の夫が義務?  いきなり一緒に暮らすの? 「あなた、普段は恥ずかしがり屋みたいだから、ぐいぐいイケる名前をつけてあげるわ!」    女神様の祝福? 「リオナで決定。この女教師風メガネを装着すれば、ほーら、気分あがるから! うん、似合う似合う♡ 思いっきり攻めちゃって!」  そんなわけで、異世界で一妻多夫の結婚生活することになりました。(真面目)  地味っこ真面目ヒロインが攻めようとして返り討ちにあう話。 * 今回の逆ハーレムは全員と暮らすので、サブタイトルのキャラがメインになりますが、他キャラも話に絡んできます。(おまけ小話にて複数プレイ) * BL要素は多分ありませんが、BL用語と下品な言葉は多少出てくるかと思うので苦手な方は回避をお願いします。 * 地雷確認は人物紹介のところで。 * あっさりとエロへと進む話(ほぼ毎回ぬるいのを含めRっぽい)ため、頭を空っぽにして息抜きに読んでいただけると嬉しいです。 * 全12話+小話 * 一部年齢を引き上げて、ささやかに改稿しました('22.02) * 表紙はCanvaさまで作成した画像を使用しております。

婚約解消は諦めましたが、平穏な生活を諦めるつもりはありません!

風見ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢である、私、リノア・ブルーミングはラルフ・クラーク辺境伯から求婚され、現在、結婚前のお試し期間として彼の屋敷に滞在しています。 滞在当初に色々な問題が起こり、婚約解消したくなりましたが、ラルフ様が承諾して下さらない為、諦める事に決めて、自分なりに楽しい生活を送ろうと考えたのですが、仮の嫁姑バトルや別邸のメイドに嫌がらせをされたり、なんだかんだと心が落ち着きません。 妻になると自分が決めた以上、ラルフ様や周りの手を借りながらも自分自身で平穏を勝ち取ろうと思います! ※拙作の「婚約解消ですか? 頼む相手を間違えていますよ?」の続編となります。 細かい設定が気にならない方は未読でも読めるかと思われます。 ※作者独自の異世界の世界観であり、設定はゆるく、ご都合主義です。クズが多いです。ご注意ください

よくある婚約破棄なので

おのまとぺ
恋愛
ディアモンテ公爵家の令嬢ララが婚約を破棄された。 その噂は風に乗ってすぐにルーベ王国中に広がった。なんといっても相手は美男子と名高いフィルガルド王子。若い二人の結婚の日を国民は今か今かと夢見ていたのだ。 言葉数の少ない公爵令嬢が友人からの慰めに対して放った一言は、社交界に小さな波紋を呼ぶ。「災難だったわね」と声を掛けたアネット嬢にララが返した言葉は短かった。 「よくある婚約破棄なので」 ・すれ違う二人をめぐる短い話 ・前編は各自の証言になります ・後編は◆→ララ、◇→フィルガルド ・全25話完結

【完結】愛されないと知った時、私は

yanako
恋愛
私は聞いてしまった。 彼の本心を。 私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。 父が私の結婚相手を見つけてきた。 隣の領地の次男の彼。 幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。 そう、思っていたのだ。

王女を好きだと思ったら

夏笆(なつは)
恋愛
 「王子より王子らしい」と言われる公爵家嫡男、エヴァリスト・デュルフェを婚約者にもつバルゲリー伯爵家長女のピエレット。  デビュタントの折に突撃するようにダンスを申し込まれ、望まれて婚約をしたピエレットだが、ある日ふと気づく。 「エヴァリスト様って、ルシール王女殿下のお話ししかなさらないのでは?」   エヴァリストとルシールはいとこ同士であり、幼い頃より親交があることはピエレットも知っている。  だがしかし度を越している、と、大事にしているぬいぐるみのぴぃちゃんに語りかけるピエレット。 「でもね、ぴぃちゃん。私、エヴァリスト様に恋をしてしまったの。だから、頑張るわね」  ピエレットは、そう言って、胸の前で小さく拳を握り、決意を込めた。  ルシール王女殿下の好きな場所、好きな物、好みの装い。  と多くの場所へピエレットを連れて行き、食べさせ、贈ってくれるエヴァリスト。 「あのね、ぴぃちゃん!エヴァリスト様がね・・・・・!」  そして、ピエレットは今日も、エヴァリストが贈ってくれた特注のぬいぐるみ、孔雀のぴぃちゃんを相手にエヴァリストへの想いを語る。 小説家になろうにも、掲載しています。  

義兄に告白されて、承諾したらトロ甘な生活が待ってました。

アタナシア
恋愛
母の再婚をきっかけにできたイケメンで完璧な義兄、海斗。ひょんなことから、そんな海斗に告白をされる真名。 捨てられた子犬みたいな目で告白されたら断れないじゃん・・・!! 承諾してしまった真名に 「ーいいの・・・?ー ほんとに?ありがとう真名。大事にするね、ずっと・・・♡」熱い眼差を向けられて、そのままーーーー・・・♡。

捨てられたなら 〜婚約破棄された私に出来ること〜

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
長年の婚約者だった王太子殿下から婚約破棄を言い渡されたクリスティン。 彼女は婚約破棄を受け入れ、周りも処理に動き出します。 さて、どうなりますでしょうか…… 別作品のボツネタ救済です(ヒロインの名前と設定のみ)。 突然のポイント数増加に驚いています。HOTランキングですか? 自分には縁のないものだと思っていたのでびっくりしました。 私の拙い作品をたくさんの方に読んでいただけて嬉しいです。 それに伴い、たくさんの方から感想をいただくようになりました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただけたらと思いますので、中にはいただいたコメントを非公開とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきますし、削除はいたしません。 7/16 最終部がわかりにくいとのご指摘をいただき、訂正しました。 ※この作品は小説家になろうさんでも公開しています。

モブだった私、今日からヒロインです!

まぁ
恋愛
かもなく不可もない人生を歩んで二十八年。周りが次々と結婚していく中、彼氏いない歴が長い陽菜は焦って……はいなかった。 このまま人生静かに流れるならそれでもいいかな。 そう思っていた時、突然目の前に金髪碧眼のイケメン外国人アレンが…… アレンは陽菜を気に入り迫る。 だがイケメンなだけのアレンには金持ち、有名会社CEOなど、とんでもないセレブ様。まるで少女漫画のような付属品がいっぱいのアレン…… モブ人生街道まっしぐらな自分がどうして? ※モブ止まりの私がヒロインになる?の完全R指定付きの姉妹ものですが、単品で全然お召し上がりになれます。 ※印はR部分になります。

処理中です...