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1 何気ない日
しおりを挟むその日の朝、フィンリーと言い合いをした。
俺がタニアの部屋に泊まったことが原因だった。
俺は兵士だ。
雪の季節に森から現れ、人や家畜を襲う魔物を討伐する。
村を魔物の森から守るように作られた砦に立ち見張り、
魔物を発見すれば鐘を打ち、村に知らせてから待機中の仲間と撃って出る。
タニアはその同僚だ。
もとからきつい仕事だが、吹雪だった昨日の任務は大変だった。
魔物が現れなかったのは幸いだったが、遠くまで見渡せるように作られた砦の見張り台は想像を絶する寒さだった。
任務時間を終えた時、とっくに日は落ちていた。
一緒に見張りに立った同僚――タニアとカールと俺の三人で、ふらふらになって砦から村に帰ってきた。
給料日だった。
カールは早く眠りたいと言って帰り、俺とタニアは食堂に入った。
少し食べ、自分達へのご褒美のつもりで二人で酒を飲んだ。
一杯だけだったのだが、激務の後の身体には効いた。
店を出た記憶はなかった。
そして
朝起きたら、そこはタニアの部屋だった。
食堂はタニアの家の横だ。
多分、眠ってしまった俺をタニアは泊めてくれたのだろう。
俺はタニアに礼を言い、二日酔いで痛む頭を抱えて家に帰った。
そこには俺の帰りを寝ずに待っていたというフィンリーがいて。
どこに行っていたのか、どこに泊まったのかと聞かれたので、正直に答えた。
「……やっぱりそういう関係なのね。タニアさんと」
フィンリーはそう言って泣きそうな顔で俯いた。
俺はカッとなった。
「何だよ!そういう関係って!」
前々から、フィンリーは俺とタニアの仲を勘繰っていた。
タニアとの仲を疑うようなことを言われるたびに俺が誤解だと返す。
そんなやりとりをもう何度もしてきた。
いい加減、うんざりしていたところだった。
「おかしな想像はよせ!何度も言わせるな!
タニアは同僚だ」
「でもタニアさんは女性よ?部屋に泊まるなんて――」
「――いい加減にしろ」
俺はひと息に言った。
「俺たちの仕事を知っているだろう。兵士だぞ?
砦に立ち魔物を見張る。
常に三人体制で番をし、三時間おきに交代。
日中も底冷えする夜も立って魔物の侵入がないか目を光らせている。
魔物が出れば退治する。
待機中は雑魚寝だ。
それは女のタニアも一緒だ。特別視はしない。
タニアは女である前に兵士なんだよ」
「でも、タニアさんは貴方を――」
「――しつこいぞ!そんなふうにタニアを見るな!」
「―――――」
「いいか?何度も言わせるな。
タニアは兵士だ。
共に砦に立ち、いざと言うときは命を預けられるほど俺が信頼している兵士だ。
性別は関係ない。俺の良い同僚で相棒だ。
もうやめろ。
それは弓の名手で、代々この地を守る兵士の一族の子孫。
兵士タニアを侮辱するのと同じだ」
「……どこの誰ともわからない。
私なんかが何かを言える相手じゃないと言うのね」
「そんなこと言ってないだろう!」
「もう……いい……」
「フィンリー!」
フィンリーはふいと向きを変えると家を出ていった。
追いかけようかと思ったが、もう着替えて砦に向かわなければいけない時間だ。
残された俺はくしゃりと髪を掴んだ。
「くそっ。何だよ、あいつは」
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