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1000年目
63 気づき5 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
サージアズ卿は声を上げて笑った。
「お前は本当にからかい甲斐がある」
「シン!」
チヒロがジルとエリサを連れ走ってやってきた。
シンを見て顔色が変わる。
「シン!――手首!怪我!?」
手を伸ばしたチヒロだったが、その手がシンに触れる前に人にぶつかった。
走ってきた勢いのままぶつかったチヒロを、その人物は支える。
肩で息をしたまま、チヒロは目の前の人物の顔を見上げた。
「……アズ?」
「落ち着いて下さい、我が主人。義弟ならもう診ました。少し痛めただけです。
すぐに治りますよ」
「……本当?」
「はい。剣をふるう騎士にはよくあることです。
義弟が心配をおかけしましたが大丈夫ですよ。安心してください」
微笑むサージアズ卿を見て、チヒロはようやく安堵の息を吐いた。
「――良かった。ジルの様子がおかしくて、不安で……焦ってしまって。
ジル。シンは大丈夫だって。良かったね」
サージアズ卿から離れ、チヒロはジルを撫でなから言った。
「ごめんなさい、バタバタと。でも、シンといたんですね、アズ。
レオンに報告に行って、そのまま帰られたのかと思ってました」
「領地に戻る前に我が主人に挨拶を、と思いまして。
《宮》にいらっしゃらなかったので、ここでお待ちしておりました」
「え、私に?それでここに?何故――ああ、《影》?」
「はい」
「凄い」と感心するように言ってから、チヒロはようやく笑顔になった。
「でも良かったですね、《ここ》で。私の服を引っ張ったジルに感謝しないと」
「さすが我が主人。わかってらっしゃる」
「誰でもわかります」
チヒロは笑うとシンに声をかけた。
「シン。手首、本当に大丈夫?痛くない?」
「ええ。平気です」
「良かった。でもちゃんと手当してね」
「は?」
チヒロはふふん、と胸を張った。
「わかるよ。シンが手当てを済ませていたらジルが心配して私に知らせることはなかったでしょう?
今度からはすぐに、ちゃんと手当てしてね。早く治るように。ジルに心配かけないように」
シンはチヒロに背を向け呟いた。
「……こんな……子どもに」
チヒロがシンを睨む。
「……今、何かものすごい暴言を聞いた気がするんですけど」
「暴言ではありません」
「嘘だ!嘘つき。《こんな子どもに》って言った!」
「言っていません」
「嘘だ!言った!《こんな子どもに》何?なんて言おうとしたの?」
「……」
「何?」
「……本当に。腹立たしい」
チヒロは大きく口を開けた。
「今度は腹立たしいって言った!アズ!エリサ!聞いた?!」
話を振られたサージアズ卿だが口を押さえ身体を折って笑いを堪えている。
エリサは「ええと……」と言って苦笑いを浮かべるだけだ。
「くうううううぅー」
無援となったチヒロはシンに向け叫んだ。
「見てなさいよ!すぐに大人になって貴方を見返してやるんだから!」
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