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1000年目
45 幸福 ※エリサ
しおりを挟む※※※ エリサ ※※※
「チヒロ様。まだ《この男》に言っていなかったのですか」
セバス様が笑いをこらえながらそう言った。
―――何のことだ?
そう思って顔を向けるとチヒロ様はえへへ、と笑った。
「―――へ?」
《男》が変な声を出す。
セバス様は呆れたように続けた。
「お前がチヒロ様を攫おうとしたことだ。我が主人の屋敷で。
誰にも知られていないと思っていたのか。おめでたい奴だな」
思わず《男》を見る。
男は目を思いきり見開いていた。
「え。せ……セバス様?まさか……ご存知だったのですか?」
「当然だろう。お前がもし、チヒロ様を連れて部屋を一歩でも出たのならその首を刎ねてやろうと待ち構えていたのだから」
「ええっ?!そんな!気配なんて全く――」
「――舐めるなよ。
かつてはこの国一番と言われたのだ。老いてもお前になど負けはせんわ」
「……ええー……」
「我が主人の屋敷なら《王宮》より警備が手薄だ。
おまけにエリサはチヒロ様が《いる》と見せかける為に《南の宮》にいる。
《絶好の機会だ》とでも思ったか。馬鹿が」
《男》の口は開いたままになった。
「も……もしかして我が主人もご存知で?」
「当たり前だ。我が主人だけでなくレオン様もな。
良かったな、《未遂》で。
そうでなかったならチヒロ様の擁護があってもお前はとっくに墓の下だ」
「お嬢様……?」
《男》がチヒロ様に目を向けると、チヒロ様はふふん、と笑った。
セバス様がため息を吐いた。
「鈍いやつだな。おかしいと思わなかったのか?この旅路、目的地の高山。
一番詳しいのは自分であるはずなのに、レオン様からも我が主人からもこの旅に同行するよう命じられなかったことを」
「あー……。そう言われてみれば……」
《男》が頭をかきながら言い、そして――くしゃりと笑った。
「まいったなあ……」
チヒロ様は口を尖らせ《男》に言った。
「しっかりしてよね。エリサのために」
私はただ、溢れる幸せの中にいた。
滲んだ目の前にアイシャの笑顔が見えた気がした。
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