138 / 197
1000年目
30 義兄4 ※空
しおりを挟む※※※ 空 ※※※
「ですが、それも今日で終わりです」
サージアズ卿の声に、ダザル卿はようやく目を開ける。
我にかえったらしい。
ダザル卿はまわりを見まわした。
「私は……何を?」
サージアズ卿は微笑んだ。
「よく打ち明けてくださいました。
では、もうゆっくりお休みになってください。
隣のよしみです。この領地は私が引き受けますので」
「……何を……言っている?貴様、何様だ!この領地は私のものだ!
ふざけるのも大概にしろ!私をいったい誰だと思っている!」
「――誰でしょう。ダザル卿なら、ほら。いらっしゃいましたよ。
御子息と一緒に」
「何……?」
ドアを開けて三人の男性が入ってきた。
二人は貴族、一人は家令のようである。
一番年嵩の、貴族の格好をした男性の顔はダザル卿に瓜二つだ。
ダザル卿の顔色が変わる。
「―――な!なんだこいつらは!変装だろう!偽物だ!私が本物の――」
ソファーに座ったまま大声で叫んだダザル卿に、サージアズ卿が告げた。
「――そう証言する者は。もうこの屋敷にはいませんよ」
「……なん……?」
「まず御子息の奥方様とお子様は、日々暴力を振るう御子息に愛想を尽かしておられまして。
喜んで、《こちら》についてくださいました。
お子様――貴方のお孫さんが成人し、この家を継ぐまであと2年。
それまでもそれからもしっかり保護させていただきますので、ご安心を」
「―――」
「そして時間はかかりましたが。
ようやくこの屋敷の使用人全員を、《こちら》側の者に出来ました。
今更ですが。
使用人を雇い入れる時はもっと慎重になられた方がよろしいですよ?」
「―――」
「そうそう。先祖代々、こちらの家令をつとめられているモルトさんが一番の難関だったのですけれど。
貴方が自ら愛想を尽かされることをして下さいましたので助かりました。
ご協力感謝します」
「愛想を?わ、私が一体何を」
「その様子だと失念されていた様ですね。
モルトさんの家は先祖代々、それは敬虔な『空』の信仰者なんですよ。
貴方は『空の子』様を攫おうとした。自分の欲の為にね。
モルトさんが愛想を尽かすのも当然でしょう?」
「―――――」
「モルトさん。貴方のご主人はどちらに?」
サージアズ卿の問いに先程部屋に入ってきた家令の男性が答える。
「はい。旦那様は若旦那様と共に、私の横におられます」
「モルト!お前っ!」
ダザル卿は怒りで震えている。
サージアズ卿は笑顔のままその顔をのぞきこんだ。
「お分かりでしょう?ダザル卿の偽物さん」
「サージアル卿……あ、貴方は。一体……」
「お忘れですか?私の義弟が何者であるのかを」
「義弟?……《王家の盾》の当主っ!し、しかし!貴方には何の関係も……」
「ああ、やはり貴方も勘違いされていたのですか。
《王家の盾》とは《当主が代々王家に忠誠を誓う、忠義ある家》のことではありません。
我が一族のことではないのです。
―――我が一族を中心にした《ひとつの組織》のことです。
貴方のように王家を危険にさらす存在を秘密裏に裁く、ね」
「なん……」
ダザル卿は目を見開いた。
しかし、次第にその目にまぶたがおりてくる。
「密輸に賄賂……。第3王子殿下に続き『空の子』様まで狙ったこと。
それだけならまだしも。
まさか前王妃様を――ご自分の娘を手にかけていたとは。
残念です。
貴方にも良心があるだろうと、やり直せる道を何年も前から国王陛下や優しい《外孫ご夫妻》様が用意してくださったのに」
「―――」
「《王家の盾》――私の義弟が第3王子殿下についたことで、他の貴族が貴方と距離をおき日和見を始めた時。
第3王子殿下が南の宮の執務室ばかりを使い、手が出せなかった時。
隣国の大使が《何故か》貴方に助けを求めた時。
そして《何故か》この地で捕縛された時。
『空の子』様が現れ、ますます第3王子殿下の存在感が増し、お仲間が貴方から離れていった時。
『空の子』様がこの領地へ《お忍びで》来ると知った時。
どこからでもやり直せたはずなのに。貴方は一向に行いを改めはしなかった。
《外孫ご夫妻》様もお嘆きです」
「……そと……まご……ごふさい……?」
サージアズ卿はダザル卿の耳元で囁いた。
「――どうぞ良い夢を。御子息と一緒です。寂しくはないですよ」
0
お気に入りに追加
110
あなたにおすすめの小説
シャーロック伯爵令嬢は虐げられてもめげませんっ!!だって中身は氷河期アラフィフ負け組女ですからっ!!
ゆきりん(安室 雪)
恋愛
1年に1度の王宮で開催されている舞踏会で、シャーロック伯爵令嬢は周りからの悪意に耐えていた。その中の1人の令嬢から、グラスを投げつけられ運悪く頭に当たり倒れてしまう。
翌日シャーロックが目を覚ますと、前世の記憶が走馬灯状態で脳内を駆け巡った。
シャーロックの前世は、氷河期アラフィフ負け組女だった⁈
そして、舞踏会に付けて行ったはずの婚約者からの指輪が無くなった事で、シャーロックは婚約者から責められ婚約破棄される
時を同じくして、王都内では猟奇的殺人事件が起こる。その犯人にシャーロックは仕立上げられてしまう。
でも、そんな事に屈するシャーロックでは無かった。
どうやら私は竜騎士様の運命の番みたいです!!
ハルン
恋愛
私、月宮真琴は小さい頃に児童養護施設の前に捨てられていた所を拾われた。それ以来、施設の皆んなと助け合いながら暮らしていた。
だが、18歳の誕生日を迎えたら不思議な声が聞こえて突然異世界にやって来てしまった!
「…此処どこ?」
どうやら私は元々、この世界の住人だったらしい。原因は分からないが、地球に飛ばされた私は18歳になり再び元の世界に戻って来たようだ。
「ようやく会えた。俺の番」
何より、この世界には私の運命の相手がいたのだ。
誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら
Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!?
政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。
十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。
さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。
(───よくも、やってくれたわね?)
親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、
パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。
そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、
(邪魔よっ!)
目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。
しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────……
★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~
『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』
こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。
愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました
海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」
「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」
「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」
貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・?
何故、私を愛するふりをするのですか?
[登場人物]
セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。
×
ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。
リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。
アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?
裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜
AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜
私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。
だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。
そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを…
____________________________________________________
ゆるふわ(?)設定です。
浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです!
2つのエンドがあります。
本格的なざまぁは他視点からです。
*別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます!
*別視点はざまぁ専用です!
小説家になろうにも掲載しています。
HOT14位 (2020.09.16)
HOT1位 (2020.09.17-18)
恋愛1位(2020.09.17 - 20)
王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?
木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。
これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。
しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。
それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。
事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。
妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。
故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。
愛しの令嬢の時巡り
紫月
恋愛
乙女ゲームの世界で婚約破棄をされてしまう令嬢リュシエンヌ。シナリオを知りつつも彼を心から愛していた。そんな彼女が時を巡り真相に辿り着く。
※※※
初回から残酷な描写が入ります。
苦手な方はご注意ください。
定番の婚約破棄の話で、新しい切り口はないかと模索しました。
名前を少々変更しました。訂正します。
お付き合いいただけたら嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる