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1000年目
19 高山 ※エリサ
しおりを挟む※※※ エリサ ※※※
早朝にコドリッド伯のお屋敷を出発した。
この辺りの平民が普段使用する、簡素な作りの幌馬車で移動する。
コドリッド伯が用意してくれた物だ。
全員が荷台で布を被り荷物のふりをした。
コドリッド伯がつけてくれた地元の者――御者台に乗る御者だけが動き、幌馬車を操り進む。
移住して家を建てようとか、商売を始めようとか言うのならともかく、単に土地を行き来するだけなのだ。
その土地を管理する貴族の違いなど平民には関係ない。
特別な場所でない限り、行き来は自由だ。
幌馬車は誰に咎められることもなく、すんなりとダザル卿の領地に入った。
目的地の高山の近くには店や宿もある町があるそうだが……滅多に来ないだろう余所者は人目につく。
寄らずにひっそりと高山へと向かう。
そのまま幌馬車で進む。幌馬車はどんどん高山を登って行く。
しかし、しばらく行ったと思ったらいきなり止まった。
顔を出して見れば少し開けた場所で、前にはもう道はなかった。
行き止まりだったのだ。
どういう事だろうかと幌馬車を降りて見れば――脇道があった。
なるほど、幌馬車はここまで。
ここが山道の入り口で、あとは歩きなのだと納得する。
《普段と同じように》山菜を取りに行くと言う御者に幌馬車は任せて、私たちは脇道に入った。
《あの男》が先にたち道を進んでいく。
意外な景色だった。
《高山》だというのだ。
低木が少し生えている程度の、岩肌の見える場所を想像していた。
いや……標高の高い上の方はきっとそうなのだろう。
だが歩いているところは――草木の生い茂る森、だった。
圧倒的な大きさの山だったのだ。
裾野がおそろしく広い。
思ったよりも緩やかではあったが、その分長い時間をかけて登って行く。
チヒロ様と医師二人がいるのでより時間をかける。
それでもチヒロ様は大丈夫だろうか……と心配したが、チヒロ様はあたりを見回す余裕があるようだった。
私もあたりを見る。
―――ここが。《あの男》が大怪我を負った高山。
知らず《男》の背中に目がいく。
だが《男》はただ黙々と、山を登って行った。
途中、少し休憩を入れながら山道を行く。
どのくらい登っただろうか。
何度目かの休憩中にニアハン医師が言った。
「チヒ……いえ、あの……どうですか?《何か》発見はありましたか?」
万が一にでも他の誰かに聞かれぬよう、声をひそめているが期待の隠しきれない声だった。
しかしチヒロ様はふるふると残念そうに首を振る。
ニアハン医師は自らの期待を打ち消すように言った。
「ですよね。まだ来たばかりですし」
「《知り合い》にもまだ会えないね」
チヒロ様がため息混じりに言えば《男》が答えた。
「《あの人たち》は移動して生活していますからね。
ふもとの者でも今いる場所は知りませんよ」
「そっかあ……」
「まあまあ。《この山》にいるのは間違いないですし」
「うん……」
「山道を歩いていればきっとそのうち出くわしますよ」
「山道はどこまで続いているんですか?」
トマスさんが聞けば《男》が笑った。
「それ、聞きたい?」
………先は長そうだった。
結局、その日は何も収穫がなかった。
日が落ちる前にコドリッド伯のお屋敷に帰らなければならない。
仕方なく来た道を戻り、幌馬車に乗った。
次の日も――今度は違う山道の入り口から山を登ったがやはり収穫はなかった。
そして三日目。
最初の日の山道から入った。
だが今度は途中から、初日とは違う方向へと進む。
山道を歩くのも三日目だ。
さすがに医師二人とチヒロ様には疲れが見え、休憩を増やしてゆっくり進んだ。
―――何度目かの休憩中だった。
人の気配にいち早く気付いたセバス様と《あの男》が身構えた。
私は素早くチヒロ様をかばう。
が
「……エリサ。大丈夫そう」
チヒロ様はそう言うと、すっと立ち上がってその人物たちを迎えた。
私たちの誰からも声は出なかった。
三人の男性だった。
全員が髪を後ろでひとつに束ねていた。
全員が裾を紐で結んであるズボンを履いている。
そして
その上に着ているのは前で襟を交差させた服。
ウエストには幅の広い色鮮やかな飾り紐。
袖の形は違う。
だけど―――
その服は……チヒロ様の《キモノ》とそっくりだった。
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