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1000年目
17 ダザル卿 ※チヒロ
しおりを挟む※※※ チヒロ ※※※
「え、今日はコドリッド伯のお屋敷に泊めてもらうの?」
「そうです。今日から高山の調査を終えるまで、コドリッド伯のお屋敷にお世話になります」
旅に出てから六日目。
ようやく目的地である高山が見えたと思ったら、馬車が向かう方向が変わった。
訳がわからずたずねると、セバス先生が答えてくれたのだけど……。
私は首を傾げる。
「泊めてもらうって。
今回の旅はお忍びでしょう?
何故これまでと同じように平民の宿じゃないの?
貴族の方のお屋敷なんて……大丈夫なの?」
「はい。これまでのように一泊の宿ならともかく、高山の調査の間――数日間、連泊するのに適した宿がこの辺りにはありません。
そしてこの領地を管理するコドリッド伯は、我が主人のお知り合いでレオン様もご存知の方なのです。
協力してもらえるように話がついています」
「……シンの知り合い?」
「はい」
「じゃあ私のこともご存知なの?」
「はい。もちろんです」
なるほど。それならわかる。
シンの知り合いで、この旅の一行に私――『空の子』がいると知っていて協力してくれる方なのだ。
連泊するならコドリッド伯のお屋敷ほど安全なところはない。
でも……。
「でもコドリッド伯のお屋敷に泊めてもらうってことは、高山まで毎日移動することになるってことだよね?
大変じゃない?
私、野宿でも大丈夫だよ?ずっと高山にいた方が――」
「――させられませんよ。チヒロ様にそんなこと。危険です。
どんな獣や害虫が出るかわからないのですから」
「でもテオの一族はそこに住んでいるんでしょう?」
「高山を知り尽くしている彼らと我々は違います」
「そうだろうけど……」
私は顎に手をやり、そして言った。
「……ダザル卿」
高山にあるという、ほのかに黒く光る植物を送ってくれた方の名だ。
「高山があるのはダザル卿のご領地なんだよね?ここからじゃ遠くないの?」
セバス先生は微笑んだ。
「良くご存知でしたね。確かに高山はダザル卿のご領地です。
ですが隣の領地とはいえコドリッド伯のお屋敷からそれほど離れてはいません。
《お屋敷》で比べれば、隣の御領主コドリッド伯のお屋敷の方が高山には近いくらいなのです。
何せダザル卿のご領地は広大ですから」
「そうなんだ」
「はい。それに《高山》といっても何も頂上付近まで行くわけではありません。
《高山》ですから。上の方は人や動植物の生きられる環境ではありませんので。
植物があるのもテオの家族が住まれているのも麓の方なのです。
近くまでは馬車で行けますから移動時間もそうはかかりません」
そうか。
それでもご領地の高山に入るのだ。ダザル卿にご挨拶くらい……と思う。
あの、ほのかに黒く光る植物を送っていただいた時も、私からはお礼をお伝えしてはいないし。
けど、それは無理だよね。
今回はお忍びの旅だ。
《王宮》には《私》と《エリサ》がいる。
高山に――ダザル卿のご領地に入ったことも気づかれてはいけないのだ。
ましてや、ご挨拶なんて―――。
「―――――」
「どうかされましたか?」
セバス先生の問いに私は首を横に振った。
「……ううん。宿か。野宿かな、と思ってたから。
貴族の方のお屋敷に泊まるなんて、ちょっと驚いただけ」
「そうですか」
馬車はコドリッド伯のお屋敷に入り、コドリッド伯ご夫妻と家令さんがわざわざ挨拶に来てくれた。
「屋敷の者には良く言い置いてありますが、何かご不便なことがありましたら何でもおっしゃってください」
そう言ってくれたコドリッド伯は丸顔の、とても人の良さそうな方だった。
《王宮》を思い出す広い部屋へと案内され、侍女さんが荷物を置いて下がった。
「久しぶりですね。こういうお部屋」
エリサが部屋を見まわして言う。
「エリサ」
「はい」
「隣の領地の……ダザル卿のこと知ってる?」
「はい?――もちろんです。貴族筆頭と言っても過言ではない方ですよ。
前王妃様のお父様。王太子殿下とリューク公の外祖父にあたられる方で、国王陛下をずっと支えてこられた方ですから」
「国王様を?」
「ええ。昔の話ですが。
前国王陛下には現在の国王陛下しかお子様がいらっしゃいませんでしたから王家の弱体化が懸念されていたのです。
しかしダザル卿が当時の王太子殿下――現在の国王陛下の後ろ盾になられたので事なきを得たと」
「そうなんだ。……どんな方?」
「……どう、と言われても。
私はずっと《南の宮》配属ですし。他の隊の者ともそう言った話は……。
ただ印象は最上位貴族らしく強い方、と言った感じです」
「そう……」
「何か気になることでもあるんですか?」
「ううん。そういうわけじゃないんだけど……ちょっとね」
前王妃様のお父様で王太子殿下とリューク公のお祖父様だ。
亡き王妃様の子どもであるレオンはあまり親しくはないのかもしれない。
少なくとも、私を任せられる方ではない、と判断したのだ。シンも。
それでコドリッド伯、なの?
そんなことを考えていたらエリサが教えてくれた。
「あの……。実は騎士の中であまり評判の良い方ではありません。
王太子殿下には申し訳ないのですが」
私はエリサに抱きついた。
「ありがとう、エリサ」
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