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1000年目

15 支え ※エリサ

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 ※※※ エリサ ※※※



今日は橋を見ました。

旅も三日目です。

馬車にも慣れた、と言いたいところだけれど、正直お尻が痛いです。
エリサがクッションを買ってくれて助かりました。
今日は特にでこぼこした道だったもの。

―――で、橋です。

『空の子』が伝えた方法でかけられたものだそうです。知ってました?

石で造られてました。
渡るところは平坦、下がアーチ型。どこの《国》の橋だろう?
よくわからなかったけど。

でもなんと、伝えた『空の子』の先輩の像がありました。
名前は……像のは古くて読めなかったし、覚えている人はもういないのかもしれないけど。

伝えたものはちゃんと、残っているんだ。
そう思ったら胸が熱くなりました。

旅は快適です。

お尻はちょっと痛いけど、目に入るもの全てが面白いし、ご飯も美味しい。
宿も可愛くて最高です。

客室は二人部屋で八畳くらい、と言うのがこの国の普通の宿みたいです。

ベッドふたつでもういっぱい。後は何も入らない客室に、同室のエリサは
「窮屈な思いをさせて申し訳ないのですが」と言ってたけど。
私には馴染みのあるサイズで落ち着きます。

それにしても……驚いています。

ご飯は屋台で買って馬車の中で食べ、泊まるのは山の中で野宿。
そんな旅を想像していたんですけど。
こんなに普通に旅ができるとは思ってもいませんでした。

きっとレオンやシンが頑張って準備してくれたんだよね……。
帰ったらお礼を言わなきゃ。

あと、カツラを作ってくれた衣装係さんやお針子さん達にも、もう一度お礼が言いたい。
けど、言ったら私がこうしてお忍びで旅したことがバレちゃうかな。

……皆さん、私のために自分たちの髪を使って作ってくれたんですよ。
本当に、涙が出るほど嬉しかったです。

あ、もちろんセバス先生とエリサと、そして《人攫い》にも感謝しなきゃ。

三人のおかげで楽しい旅です。
その上、みんな私が《平民の子ども》に見えるようにさりげなく気遣ってくれてもいます。

ふふ。良い《家族》でしょう?

―――テオの故郷の高山まであと道のりは半分です。

どんなところなんだろう。どきどきしています。
無事に役目が果たせるかな。

私が、ちゃんと死病の特効薬の手がかりを見つけられるように。
見守っていてくださいね。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


―――《人攫い》って何ですか?!《あの男》の事ですよね?!


思わずがばっと起きてチヒロ様に詰め寄りそうになった。

ばくばくしている心臓を落ち着かせようと手を握り、何とか引き続き寝たふりを決めこむ。

もぞもぞと音がして、どうやらチヒロ様は眠ることにされたようだ。

旅の疲れもあるのだろう。
少しするとすぐに安らかな寝息が聞こえてきた。


同室で就寝していたわけではない《王宮》にいる時は気付かなかったが、どうやらチヒロ様は毎日、その日あったことを『空』に報告されているようだ。

この旅で、こうして同室で休むようになってはじめて知った。
そして今日、驚きの言葉を聞いた。

―――《人攫い》って、何?

考えられるのは四年前――《あの男》が連れ帰ったというテオのこと。
あいつ、まさか。テオを誘拐して……?いや、それよりも。

チヒロ様も。
副隊長と同じように全てご存知なのか……?


ほとんど繋がりのない《あの男》に宛てた手紙。
あれは単に私を《あの男》と合わせるためにチヒロ様が仕組んだ、ただの方便だと思っていた。

私が届けたチヒロ様からの手紙。

受け取った《あの男》はその場ですぐに封を切り、中に入っていた紙をひと目みただけですぐに笑って再び封筒に戻したから。

何も書かれていなかったのだとばかり……。


きつく目を閉じる。

どうなっている?

《あの男》に副隊長。そして……チヒロ様。

私だけ知らされず……置いていかれたままなのか?



チヒロ様が寝返りをうったらしく、私の後ろ――部屋の奥のベッドがぎしりと音を立てた。

その瞬間にドアの外の気配が変わる。

……………しばらくして。

何事もないと《わかった》のだろう。
ドアの外の気配が平静に戻った。


ドアの向こうで警護をしているのだろう《あの男》の姿を思い浮かべる。

そしてつい先ほど「良い《家族》」だと言ったチヒロ様のことを思う。

涙が溢れた。


待っていよう。

《あの男》が話してくれるまで。

何があったのかは知らない。
何故、私には何も話してくれないのかも。

そしてチヒロ様が《あの男》の何をご存知なのかもわからない。

けれど

チヒロ様は信じているのだ。
私やセバス様と同じように。

《あの男》のことも。


仕方のないことだと思った。

好きになった私の負けなのだ。
《あの男》が話してくれようがくれまいが、私はあいつから離れられない。

諦めるしかない。
どうしようもない。

せいぜい副隊長が言ったように、あいつが話してくれる日を待つしかない。
そう思っていた。

それでもなんの支えもなしにいられるほど私は強くない。
踊らされて、振り回されて、傷つけられて。揺れるだけだった。


けれどそれはもう終わりだ。

待とう。
いつまででも待ってやろう。話してくれるまで。

また何も言わずに消えてもいい。
それでも再び戻ってくるまで待っている。

待てるさ。

チヒロ様がその勇気を私にくれたのだから―――。


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