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999年目
31 それぞれの想い ※エリサ
しおりを挟む※※※ エリサ ※※※
「三年前、国境近くで他国の大使が絡んだ揉め事があった。
そして、その大使の顔をよく知る近衛騎士が二人派遣された。
テオはその時に近衛騎士の一人が連れ帰り、その後シンに引き取られたんだよ」
レオン様の言葉に殴られたように感じた。
めまいを覚えたが足に力を入れ手を握りしめることでなんとか堪えた。
心臓の音がばくばくとやかましい。
身体が震える。
息がうまくできない。
苦しい―――。
《三年前》
《国境近くに派遣された、大使の顔をよく知る近衛騎士》
《テオを連れ帰った近衛騎士》
それは――――。
――「テオは恩人なんだ」――
《あの男》が言った言葉がよみがえる。
何故だ。
何故あの時、言わなかった?
何故、いつも何も言わない?
いつも、いつも、いつもだ。
三年前。
副隊長の屋敷に転がり込んだことだってそうだ。
私はアイシャから聞いて知った。
どんな気持ちだったかわかるか?
何故、私には言わない?
それでも三年前はいい。
でも今は。
今は。
いくらでも言う時間があったはずだ。
なのに。
何故、何も言ってはくれない。
私は、そんなことを言う価値がない人間だということか?
私を、どう思っているのだ。
私は一体、お前のなんなのだ。
どうして―――――。
「――エリサ」
びくんと身体が跳ねた。
声の方をおそるおそる向く。
こちらを見ているだろうと思った副隊長は前を向いたままだった。
咄嗟に安堵した。
良かった。
今の顔を見られたくない。
誰にも―――。
私は俯いて歯を食いしばって必死に堪えた。
握りしめていた手を一層強く握り込む。
そうしなければ目から溢れそうになるものを止められなかったから。
「待っていてやってくれ」
声がした。
だけど言われた意味がわからない。
それでも聞き返すことも出来ずにいる。
声は続いた。
「いつか全てを《あの男》が自分の口で言える日まで」
何を、とは聞けない。
「待っていてやってくれ」
返事はできなかった。
少しでも口を開けばもう駄目だとわかっていたから。
私はただ、目をきつく閉じたまま
すがるように手を握り直した。
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