上 下
80 / 197
999年目

04 確信 ※ セバス

しおりを挟む



 ※※※ セバス ※※※



「びっくりしたよ。
チヒロに《姓》があって、それが母上の愛称と同じだったとは」

「はい。私も驚きました」

「いったい、『空』は何をどう考えてチヒロを僕に降ろしたんだろう。
まさか《姓》と《愛称》をかけての冗談ってことは……ないだろうけど。
本当に『空』の考えはわからないな」

「はい」

「それにしても……エリサのあの傷は何?だんだん増えてるような……」

「訓練を増やしたようです。チヒロ様の盾として精進しているのでしょう」

「そう。……良い心がけだけれど。大丈夫かな。
チヒロの『仁眼』に、もし《己の命と引き換えに人を治す能力》があったら。
チヒロはエリサに能力を使うかも――」

「――平気でしょう。
今までエリサの傷を治されないところを見て確信しました。
チヒロ様に《己の命と引き換えに人を治す能力》があったとしても、それをあの方は《無意識に》は使えない、と」

「……試していたの?」

「はい。ですが確信はしておりました。
《己の命と引き換えに人を治す能力》があるとは知らずに触れても相手を治してしまうなら、テオが死病に罹った時にチヒロ様は《治療》されていたはずです。
――ですがチヒロ様は特効薬を《吐く》手を使った。
しかもテオはチヒロ様がその手で看病しても回復まで数日かかりました。
あの方が無意識に『仁眼』で《治療》したのではない証拠です。
古代の貴人たちと同じように、チヒロ様の『仁眼』に《己の命と引き換えに人を治す能力》があったとしても、おそらく《能力がある》ことを知らなければ使えない。
ならばやはりチヒロ様に《能力があるかもしれない》と告げる方が危険です」

「そうか」

「はい。
《貴女には己の命と引き換えに、人を助ける能力があるかもしれない》などとチヒロ様に告げたら。
あの方は必ず《能力》の有無を知ろうと試します。
――例えばエリサの小さな傷などで」

「そんな馬鹿なこと、と言いたいけれど。チヒロの場合、否定できないな」

「はい。
チヒロ様がご自分で気付かれた時には仕方がないので《能力》を使わないように説得をしますが。
お伝えするにしても、あの方がもっと《大人》になられてからがよろしいかと」

「……そうだね。そうしようか」

「はい」


「セバス?どうかしたの?」

「――は」

名前を呼ばれて我にかえった。
顔を上げ執務机の方を向く。

レオン様と我が主人のお二人が怪訝そうにこちらを見ていた。

私はチヒロ様のお部屋にいた時から今、レオン様に声をかけていただくまで。
考えていたことを口にする覚悟を決めた。

少し頭を下げる。

「レオン様。あり得ないことだと承知で。それでも言わせていただきます。
チヒロ様は。王妃様に似ていらっしゃいます。
―――王妃様の生まれ変わりではないかと思えるほどに」

「は?」

「昨年テオが死病に罹ったことを隠そうとしていた私を、チヒロ様は怒り問い詰められました。
……見覚えのある表情で。威厳を持って。
あの日から時が経てば経つほど、単なる空似とは思えなくなっていたのです。
――そして今日。それが確信に変わりました」

「……セバス。チヒロが母上の生まれ変わりだと、そう言いたいの?」

「はい。その通りです」

「何を馬鹿なことを。
僕は『空』に《母上に幸せを》と言っただけで母上を欲したわけじゃない。
それに。確かに生まれ変わりはあるのかもしれないけれど、それにしても。
母上が亡くなられてまだ17年だよ?
チヒロはこことは違う世界で《天寿を全うして》亡くなり、生まれ変わってこの世界に来た、と言った。
時間が合わない」

「――承知しております。
ですがそれでも。私にはチヒロ様がリュエンシーナ様の生まれ変わりだとしか思えないのです」

「セバス」

頭を深く下げる。

「申し訳ありません。このような荒唐無稽なお話を。それでも――」

「――母上とチヒロは。そんなに似たところがあるの?」

「……いつもではございません。
ですが時折見せられる表情。話し方。
気のせいだと片付けるには……似すぎているのです」

「そう」とレオン様は小さく呟いた。

「けれど。彼女は『チヒロ』だよ。母上じゃあない」

「はい。わかっております」

私は跪き請う。

「レオン様。お願いがございます」

「何?」

「現在、チヒロ様の侍女はいないとうかがっていますが」

「ああ。チヒロが専属は不要だと言ってね。
身の回りのことは自分でするからいらないと。
そういう訳にもいかないから今は数人の侍女を当番制で置いている。
仲良くはしているようだけど。アイシャのようにはいかないかな」

「……私の妻を、侍女に加えていただけないでしょうか」

「―――」

「チヒロ様はチヒロ様。わかっております。
ですが。会わせたいのです。チヒロ様に。……妻を」

レオン様はくすくす笑った。

「セバス。さすがに侍女は無理だよ。申し訳なさすぎる。
話し相手なら許可はするけれど。
だけど良いのかな。
勝手に決めるとまた叱られるよ?
ーーー我が国初の女性騎士であり、《伝説の女性騎士》エスファニアに」


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

憧れのテイマーになれたけど、何で神獣ばっかりなの⁉

陣ノ内猫子
ファンタジー
 神様の使い魔を助けて死んでしまった主人公。  お詫びにと、ずっとなりたいと思っていたテイマーとなって、憧れの異世界へ行けることに。  チートな力と装備を神様からもらって、助けた使い魔を連れ、いざ異世界へGO! ーーーーーーーーー  これはボクっ子女子が織りなす、チートな冒険物語です。  ご都合主義、あるかもしれません。  一話一話が短いです。  週一回を目標に投稿したと思います。  面白い、続きが読みたいと思って頂けたら幸いです。  誤字脱字があれば教えてください。すぐに修正します。  感想を頂けると嬉しいです。(返事ができないこともあるかもしれません)  

悪役令嬢になりましたので、自分好みのイケメン近衛騎士団を作ることにしました

葉月キツネ
ファンタジー
 目が覚めると昔やり込んだ乙女ゲーム「白銀の騎士物語」の悪役令嬢フランソワになっていた!  本来ならメインヒロインの引き立て役になるはずの私…だけどせっかくこんな乙女ゲームのキャラになれたのなら思うがままにしないと勿体ないわ!  推しを含めたイケメン近衛騎士で私を囲ってもらって第二の人生楽しみます

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

絞首刑まっしぐらの『醜い悪役令嬢』が『美しい聖女』と呼ばれるようになるまでの24時間

夕景あき
ファンタジー
ガリガリに痩せて肌も髪もボロボロの『醜い悪役令嬢』と呼ばれたオリビアは、ある日婚約者であるトムス王子と義妹のアイラの会話を聞いてしまう。義妹はオリビアが放火犯だとトムス王子に訴え、トムス王子はそれを信じオリビアを明日の卒業パーティーで断罪して婚約破棄するという。 卒業パーティーまで、残り時間は24時間!! 果たしてオリビアは放火犯の冤罪で断罪され絞首刑となる運命から、逃れることが出来るのか!?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...