上 下
32 / 197
998年目

02 祈り ※チヒロ

しおりを挟む



 ※※※ チヒロ ※※※



この国で新年を迎えた。

私は初めてみんなと一緒にひとつ歳をとった。

11歳になったのだ。

19歳になったエリサが少し背が伸びましたね、と気付いてくれて嬉しかった。

しかし16歳になって、あの儀式の時よりかなり背が伸びたレオンには逆に縮んだんじゃないかと言われてしまった。

くうううぅー。
レオンだってシンと比べたらまだまだ小さいくせに。

そのシンは24歳に。
レオンの護衛、近衛騎士隊の副隊長、《王家の盾》の当主。

どれだけ仕事してるの?お休みは?と疑問に思って聞いたら、エリサと同じように南の宮の一室を与えられていて、ほぼそこに住んでいるようなものだと言う。
エリサは尊敬してたけど……なんて仕事人間!

テオは私と同じく11歳になった。
背が伸びないのを気にしている。
「お姉さんはそのままのテオがいいよ」と言ったらエリサに口を塞がれた。

その後セバス先生にお歳を聞こうとしたらやはりエリサに口を塞がれた。


ジルはあれから頻繁に王宮にやってくるようになった。
シンに挨拶して、あとは私の部屋で寝ている。賢い子だ。
本当はシンの側にいたいだろうけど、シンはお仕事だもんね。

そんなジルが運動不足にならない様にと、テオにフライング・ディスクを作ってもらった。
なんと木製だ。多分。木だよね?テオもそう言っていたし。
色は木だけど感触は……なんだか前世のと変わりない気がするけど。

でも部屋でジルにキャッチの練習をさせようとして、エリサとセバス先生に慌てて止められた。

そうだった、ジルは犬じゃなかった。
……私には大きいシベリアンハスキーにしか見えないのだ。許してほしい。

せっかく作ってもらったのだから、と庭に出てテオと遊んでいたら休憩中の騎士の皆さんが興味津々にやってきた。
「やってみますか?」と誘ったら、10人くらい集まった。エリサも加わった。

テオの作ったフライング・ディスクはよく飛んだ。そして、さすが騎士。
投げてキャッチして、また投げて……の、遊びはすぐに競技になった。

大興奮で遊ぶ騎士の皆さん。
作ったテオは囲まれ褒められて、頬を染め嬉しそうに笑っていた。

その後、騎士の皆さんは「休憩終了にも気付かず遊んでいるとは何事か」と、シンに叱られていたけど。エリサも。


王太子妃様がよくお茶会に誘ってくれ、私は女子会を楽しんでいる。
初めて会った時は赤ちゃんだった王子様も、今や元気にハイハイを始めている。
なんと靴を脱いであがる絨毯の上で、だ。

私の部屋の一角に靴を脱いであがる絨毯が敷いてあり、私がそこで座ったり寝転んだりしている、と知った王太子妃様が王子様に良いと採用されたのだ。

私としてはちょっと恥ずかしいけど、赤ちゃんは何でも触るし、舐めちゃうし、口に入れちゃうから良いことだよね。

王太子妃様は「それでも目が離せなくて」と困ったふうでいてその実、ものすごく幸せそうに微笑まれた。


王宮の衣装係さんとお針子さん達には着物を作ってもらった。

この国には四季がある。
一年が始まるのが北の季節。そのあと東、南、西の季節と巡ってまた北に戻る。

前世の国の四季に当てはめれば東が春、南が夏、西が秋で、そして今の北の季節は冬だ。

気温は前世の国の冬ほど低くない、と思う。雪は滅多に降らないし。
でも寒いのだ。なんせ暖房器具が暖炉しかないからね。

そのため北の季節には、北の季節専用の温かい服が必要となる。

私は厚い布地でクルタを作ってもらえればそれで十分だったのだけど。
レオンから他に、正装用と普段着用のドレスを作るよう言われてしまった。

それで正装用はともかく普段着用のドレスは着物にしてもらったのだ。

だって今の私は成長期の子どもなんだよ?

サイズぴったりのドレスなんて、すぐに着られなくなっちゃう。
もったいないでしょう!

着物ならサイズ直しが簡単だし、何年でも着られるはずだ。
ボタン穴を開けないからリメイクも簡単。そして重ね着すれば温かい。

でも普通の着物だけだとちょっと寂しいかな、ということで女袴と打掛も作ってもらった。

これは大成功だった。
お針子さんたちはそれは見事に作ってくれたのだ。
特に打掛に入れてもらった刺繍の見事さといったら!

女袴にブーツを履けば明治時代の女学生になった気分だ。
打掛を羽織れば室町時代のお姫様になった気分。

可愛いし、温かいし最高!
アイシャにも着せてあげたいくらいだ。


と、いうのもアイシャはとても寒がりだった。

侍女さんはずっとお仕着せのドレス一枚で、ストールを羽織ることも、ずっと暖炉にあたってもいられないのだから当然かな。

だけどアイシャは15歳で王宮に上がったと言っていたけど。
それから毎年、北の季節をどうやって凌いでいたんだろう?

エリサと同じ騎士なら、騎士服にコートに手袋付きで寒くなかっただろうにね。


私は考えて、アイシャに背中側にも布があるエプロンを作り着てもらった。

防寒の基本は背中だ。
前身ごろしかない普通のエプロンに比べ、私が作ったエプロンは背中にも布があって温かいだろうし、袖がないから仕事の邪魔にもならないはず。

ここは王宮。だから少し飾りはつけた。
けれど基本は長方形の布の真ん中に穴を開け、そこから首を出して着てウエストでくるりと結んだらはい、着れた――という程度の簡単なエプロンだった。

アイシャは喜んでくれた。
温かいし仕事の邪魔にもならず最高です!と笑ってくれて私も嬉しくなった。


けれど数日後、

「アイシャさんのエプロンを、王宮侍女の北の季節の制服にしましょう!」

と言って、王宮の衣装係さんが鼻息荒く飛び込んでくるとは思いもしなかった。
アイシャのエプロンを見た侍女さんたちに欲しいとお願いされたそうだ。

でもそれ、誰か偉い人の許可がいるんじゃないの?

そう聞いたらなんと既に国王様が許可されていると言われて驚いた。
なんならお仕着せのデザインも変えて良いと言われたそうでもっと驚いた。

だけどせっかく許可をいただいたのだ。
ならば実際に着る侍女の皆さんの要望を聞いてより良く改善しなきゃ。

そう言ったらレオンが侍女の皆さんの意見をまとめる窓口になった。

そうだよね。レオンは私の世話係だもの。
うう。ただでさえ忙しそうなのに。お仕事増やしてごめんなさい。

でも。レオンには申し訳なかったけど、私は王宮で働く侍女の皆さんに感謝されて嬉しかった。

ここで私に出来ることを探していこうと思っていたのだ。
だからほんの少しでも、誰かの役に立てたなら嬉しい。


ねえ。わかってもらえるかな。


私は毎日、空を見上げて祈る。

この幸せがあなたに届きますように、と。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

シャーロック伯爵令嬢は虐げられてもめげませんっ!!だって中身は氷河期アラフィフ負け組女ですからっ!!

ゆきりん(安室 雪)
恋愛
 1年に1度の王宮で開催されている舞踏会で、シャーロック伯爵令嬢は周りからの悪意に耐えていた。その中の1人の令嬢から、グラスを投げつけられ運悪く頭に当たり倒れてしまう。  翌日シャーロックが目を覚ますと、前世の記憶が走馬灯状態で脳内を駆け巡った。  シャーロックの前世は、氷河期アラフィフ負け組女だった⁈  そして、舞踏会に付けて行ったはずの婚約者からの指輪が無くなった事で、シャーロックは婚約者から責められ婚約破棄される  時を同じくして、王都内では猟奇的殺人事件が起こる。その犯人にシャーロックは仕立上げられてしまう。  でも、そんな事に屈するシャーロックでは無かった。

どうやら私は竜騎士様の運命の番みたいです!!

ハルン
恋愛
私、月宮真琴は小さい頃に児童養護施設の前に捨てられていた所を拾われた。それ以来、施設の皆んなと助け合いながら暮らしていた。 だが、18歳の誕生日を迎えたら不思議な声が聞こえて突然異世界にやって来てしまった! 「…此処どこ?」 どうやら私は元々、この世界の住人だったらしい。原因は分からないが、地球に飛ばされた私は18歳になり再び元の世界に戻って来たようだ。 「ようやく会えた。俺の番」 何より、この世界には私の運命の相手がいたのだ。

誕生日当日、親友に裏切られて婚約破棄された勢いでヤケ酒をしましたら

Rohdea
恋愛
───酔っ払って人を踏みつけたら……いつしか恋になりました!? 政略結婚で王子を婚約者に持つ侯爵令嬢のガーネット。 十八歳の誕生日、開かれていたパーティーで親友に裏切られて冤罪を着せられてしまう。 さらにその場で王子から婚約破棄をされた挙句、その親友に王子の婚約者の座も奪われることに。 (───よくも、やってくれたわね?) 親友と婚約者に復讐を誓いながらも、嵌められた苛立ちが止まらず、 パーティーで浴びるようにヤケ酒をし続けたガーネット。 そんな中、熱を冷まそうと出た庭先で、 (邪魔よっ!) 目の前に転がっていた“邪魔な何か”を思いっきり踏みつけた。 しかし、その“邪魔な何か”は、物ではなく────…… ★リクエストの多かった、~踏まれて始まる恋~ 『結婚式当日、婚約者と姉に裏切られて惨めに捨てられた花嫁ですが』 こちらの話のヒーローの父と母の馴れ初め話です。

愛されていないはずの婚約者に「貴方に愛されることなど望んでいませんわ」と申し上げたら溺愛されました

海咲雪
恋愛
「セレア、もう一度言う。私はセレアを愛している」 「どうやら、私の愛は伝わっていなかったらしい。これからは思う存分セレアを愛でることにしよう」 「他の男を愛することは婚約者の私が一切認めない。君が愛を注いでいいのも愛を注がれていいのも私だけだ」 貴方が愛しているのはあの男爵令嬢でしょう・・・? 何故、私を愛するふりをするのですか? [登場人物] セレア・シャルロット・・・伯爵令嬢。ノア・ヴィアーズの婚約者。ノアのことを建前ではなく本当に愛している。  × ノア・ヴィアーズ・・・王族。セレア・シャルロットの婚約者。 リア・セルナード・・・男爵令嬢。ノア・ヴィアーズと恋仲であると噂が立っている。 アレン・シールベルト・・・伯爵家の一人息子。セレアとは幼い頃から仲が良い友達。実はセレアのことを・・・?

裏切りのその後 〜現実を目の当たりにした令嬢の行動〜

AliceJoker
恋愛
卒業パーティの夜 私はちょっと外の空気を吸おうとベランダに出た。 だがベランダに出た途端、私は見てはいけない物を見てしまった。 そう、私の婚約者と親友が愛を囁いて抱き合ってるとこを… ____________________________________________________ ゆるふわ(?)設定です。 浮気ものの話を自分なりにアレンジしたものです! 2つのエンドがあります。 本格的なざまぁは他視点からです。 *別視点読まなくても大丈夫です!本編とエンドは繋がってます! *別視点はざまぁ専用です! 小説家になろうにも掲載しています。 HOT14位 (2020.09.16) HOT1位 (2020.09.17-18) 恋愛1位(2020.09.17 - 20)

王太子様には優秀な妹の方がお似合いですから、いつまでも私にこだわる必要なんてありませんよ?

木山楽斗
恋愛
公爵令嬢であるラルリアは、優秀な妹に比べて平凡な人間であった。 これといって秀でた点がない彼女は、いつも妹と比較されて、時には罵倒されていたのである。 しかしそんなラルリアはある時、王太子の婚約者に選ばれた。 それに誰よりも驚いたのは、彼女自身である。仮に公爵家と王家の婚約がなされるとしても、その対象となるのは妹だと思っていたからだ。 事実として、社交界ではその婚約は非難されていた。 妹の方を王家に嫁がせる方が有益であると、有力者達は考えていたのだ。 故にラルリアも、婚約者である王太子アドルヴに婚約を変更するように進言した。しかし彼は、頑なにラルリアとの婚約を望んでいた。どうやらこの婚約自体、彼が提案したものであるようなのだ。

愛しの令嬢の時巡り

紫月
恋愛
乙女ゲームの世界で婚約破棄をされてしまう令嬢リュシエンヌ。シナリオを知りつつも彼を心から愛していた。そんな彼女が時を巡り真相に辿り着く。 ※※※ 初回から残酷な描写が入ります。 苦手な方はご注意ください。 定番の婚約破棄の話で、新しい切り口はないかと模索しました。 名前を少々変更しました。訂正します。 お付き合いいただけたら嬉しいです!

【完結】憧れメガネ【全年齢向け】

藤屯
BL
500字以内のBL小説【全年齢向け】

処理中です...