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997年目

25 ジル ※エリサ

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 ※※※ エリサ ※※※



「チヒロ。ジルは犬じゃないよ」

レオン様が入って来られた。副隊長も一緒だ。

セバス様に続き、慌てて一礼をする。
ジル殿は副隊長を認めて側に行き、副隊長に顎のあたりを撫でてもらうと目を細めた。

「何の騒ぎかと思えば」

「そちらにまで騒ぎが伝わりましたか。申し訳ありません、レオン様」

セバス様が言えばレオン様は首を振られた。

「いや、話を聞いたがチヒロが悪い。――チヒロ。やめてよ、心臓に悪い」

「ごめんなさい」と、チヒロ様は頭を下げる。

レオン様はため息を吐くと、次にジル殿に目を向けて言った。

「それにしても驚いたね。
ジルがシン以外の人に近づき、しかも触れさせるとは」

「はい。私も初めて見ました」

副隊長も同意すると、チヒロ様はきょとんと不思議そうな顔をした。

「この子、そんなに難しい子なの?
でも自分から部屋に入って来てくれたし、すぐに触らせてくれたよ?
あ、確かに尻尾は振ってくれてなかったけど」

―――尻尾

私は固まり、レオン様はたまらず吹き出した。

副隊長が静かに言う。

「……チヒロ様。ジルは犬ではありません」

チヒロ様は首を傾げた。

「違うの?じゃあ狼?さっきエリサが、この子は《副隊長のところに――》って
言ってたからシン、貴方が飼ってるんだよね?」


―――飼ってる


「あはははははは!」

レオン様が大笑いし、他の人間は固まった。

レオン様が笑ったまま説明する。

「チヒロ。ジルは銀狼だよ。主人は持たない。シンに懐いているけどね」

チヒロ様はきょとんとしたままだ。

「銀狼?」

「そう。犬でも、狼でもない。ジルがシンのところに姿を見せるまでは物語の、
架空の生き物だと思われてた銀狼だ。――言わば神獣だよ」

「神獣?」

「そう。不思議な獣なんだよ。
ジルは時々シンの所にふらりと現れていつの間にか消えている。その繰り返し。
シンのいる所にしか現れない。
それは見た目が自分と似ているシンを、仲間だと思っているからではないかと言われている」

「見た目?」

「シンとジルは毛の色、瞳の色が同じだろう?」

チヒロ様は副隊長とジル殿を見た。

揃いの銀色の毛。
透明かと思うほど薄い青い瞳が4つ、並んでチヒロ様を見ている。

「実際のところはわからないけどね」と、レオン様は続ける。

「シンとジルは繋がっているんじゃないか、とも言われている。
だからジルはシンの居場所がわかるし、ジルの賢さはシンの知識によるものだ、なんてね」

「……」

「でも実際は何もわかっていない。
ジルはもう何年もシンの所に現れているけど、普段はどこにいるのかも。
何を食べているのかも。その生態は一切不明なんだ。
シンにもわからないそうだ」

チヒロ様は黙ったままジル殿に近づくとそっと触れた。

ジル殿のほとんど色のない、透明な水の様な目がチヒロ様を見つめる。

「この子以外の銀狼は?」

「誰も見たことがない。言っただろう?
ジルがシンのところに姿を見せるまで、銀狼は物語の、架空の生き物だと思われていたんだよ」

そう、と呟いて。チヒロ様はジル殿の胸に自分の頭をつけた。

「寂しかったね」

かけられた声の意味がわかったのかどうか。

ジル殿はチヒロ様の肩に自分の首をまわした。


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