年下夫の嘘

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 「……あの時はまた頭に血が上って団長に殴りかかりそうになった。けれど、悔しいがあなたを救うためにはそれしか手がないのも事実だった。……あなたには今までずっと、真実を話せないばかりに苦しい思いをさせてしまって、本当に申し訳なかった」

 「旦那様……ヴァルターは、本当に……本当に自ら喉を……?」

 ユリアンは真っ直ぐにツェツィーリエの瞳を見つめ、頷いた。

 「嘘よ!!ヴァルターが自分で喉を斬り裂くなんて……嘘をつくのもいい加減にしなさいよユリアン!!」

 耳をつんざくような金切り声。
 今にも飛びかからん勢いのアデリーナを騎士たちが壁になって止める。
 ユリアンは腕の中にしっかりとツェツィーリエを抱き、身構えた。

 「彼が死を選ぶわけないじゃない!彼はこの髪を綺麗だと……世界一好きな色だといったのよ!!ねえツェツィーリエ様、あなたベッドの中ではなにもしないんですってね。されるがままで、声を上げたかと思ったらまるで色気がない、つまらないんだって彼が言ってたわ」

 あれほど余裕綽々と自身の関与を否定していたはずのアデリーナだったが、さっきとは打って変わって取り乱している。
 “いい女だといつも言ってくれた”に“あんな女と結婚するんじゃなかったと後悔していた”など、アデリーナの口から紡がれるのは、言葉は違えどどれも“私の方が愛されていた”という主張だった。
 夫が裏切っていたことや、その相手が目の前にいる女性だということに、不思議と腹は立たなかった。ただ自分と同じ亜麻色の髪を振り乱し、錯乱した様子でヴァルターに愛されていたことを主張し続けるアデリーナの姿が、ただただ悲しかった。

 「なぜアンスガーを殺した。奴がお前になにをしたというんだ」

 「アンスガー?……ああ、あの男……あいつ、戦勝の宴で私のこと脅してきたのよ。“ヴァルターが言ってたリナって、殿下のことじゃありませんか?”ってね……あんな男と寝たかったわけじゃないわ。でもどうせ殺すなら、その前にヴァルターの昔話でも聞きたかったのよ……ただそれだけ。でもせめてものご褒美に、お望み通り最後にはたっぷりと薬をあげたわよ?」

 アデリーナは愉快そうに笑いだした。しかしその目は笑っていない。

 「……クラウス、連れて行け」

 「わかった」

 クラウスの返事に続き、騎士団員は大きな布でアデリーナの周りを覆い始める。王族の醜聞を外に漏らさぬためだろう。
 
 「ツェツィーリエ……私たちも帰ろう。そして、帰ったらあなたに話さなければならないことがある」

 「でも……旦那様、よろしいのですか……?」

 本当に大変なのはこれからだろうに。ツェツィーリエとの話なら後でいくらでもできるはず。

 「いえ、今でなければ俺の気が済まない」

 「……はい」

 するとユリアンは自身の着ていた上着をツェツィーリエの頭から被せ、抱き上げた。

 「それで顔を隠していて。あなたを誰の目にも触れさせたくないから」

 
 
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