年下夫の嘘

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 明け方近くまでユリアンを待ち続けたツェツィーリエは、いつの間にか彼がいつも眠る場所に身体を横たえ、重くなった瞼を閉じていた。
 起きていなければと思う気持ちと、抗いがたい眠気がせめぎ合う。揺蕩たゆたう意識の中ツェツィーリエは、寝台に残るユリアンの香りに誘われて過去の夢を見た。


 『ユリアン・ベルクヴァインです』

 初めて顔を合わせるツェツィーリエの二番目の夫となる男性。騎士服に身を包んだユリアンは、まるで男装の麗人かと見間違うほどに中性的で美しい顔をした青年だった。
 緊張で身体が強張り声も出ないツェツィーリエとは違い、彼の流れるような所作は上品で落ち着いていて、五歳も年下だとはとても思えなかった。
 しかし驚いたのはそれだけではない。貴族の結婚、特にユリアンの生家のような大貴族の結婚となると、費用もさることながら準備に時間がかかるものだ。もちろんツェツィーリエもそう思っていた。彼の元に嫁ぐのはおそらく翌年になるだろうと。だがその予想は見事に外れる。

 『結婚式は来月です』

 ツェツィーリエは耳がおかしくなったのかと思った。だってまだ婚約もしていないのに。けれど彼は確かにそういったのだ。
 よほどの事情があったのだろうと思う。式を早めなければならないなにか重大なことが。
 だって彼とはこれまで一度だって会ったことも話したこともないのだ。そして知っているはずなのに前の夫のことも一切聞かなかった。条件さえ満たせばあとのことは気にもならないのだろう。興味のなさの表れだ。
 今後彼から愛を向けられることはないのだろう。かりそめの夫婦なら、夜の訪れもないかもしれない。けれど誰もが結婚を渋るほどの経歴しかない自分には、それに対し文句を言える立場ではない。
 この先たとえどんな理不尽なことが待ち受けていたとしても、せめて彼の妻でいる間は従順でいなければと初夜の寝室へ向かいながら考えていた。

 (そうだ……この時もわけがわからなかった……)
 この時、ツェツィーリエの意識は半分だけ浮上したが、再びゆるゆると夢の中に引き込まれていった。

 戦勝の宴でも挙動不審な夫に驚いたが、この時も彼の態度には驚いて、頭の中は疑問でいっぱいだった。だって、寝室に入ると既にユリアンは寝台に腰掛けて待っていたのだ。
 上質な布地で仕立てられた光沢のある夜着に身を包んだ彼は、物憂げな表情をしていてなんとも色気があった。
 だがツェツィーリエはそれどころじゃなかった。

 『え……?』

 あまりのことに思わず声が出た。来ないと思っていたからじゃない。
 ここに来る前、ツェツィーリエの支度を担当し、送り届けてくれた侍女が『旦那様はまもなくこられると思います』と言っていたからだ。
 主の動きを把握するのは使用人の役目だ。今夜だってユリアンの側仕えと連携を取りながら進めているはず。
 それなのに、侍女も把握できぬ早業で、しかも万全の体制で待機しているって、一体どういうことなのか。
 入室したツェツィーリエに気付いたユリアンは立ち上がり、そばまでやって来ると手を取り寝台まで導いた。


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