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18 ユリアンの過去⑤
しおりを挟むヤる?誰をだ。まさかツェツィーリエをお前らのような下衆が好きなようにできるとでも本気で思っているのか。
あんなクズ野郎にすら従順な愛を向ける、あの悲しいほど優しく美しい人に、お前らの薄汚れた手で触れるというのか。
その時、ユリアンはずっと抱いてきた想いの正体を知った。なぜあの日のツェツィーリエの切ない笑顔が頭から離れなかったのか。
それは、彼女がただひたすらに与える人だから。傷つけられても、愛を向けられなくても、ひたむきに相手を想うことのできる人だから。
それはユリアンが母を亡くしてからこれまで、誰からも与えられなかった唯一のもの。折り合いの悪い継母が……あの性根の悪い継母ですら持ち合わせる無償の愛。
それをツェツィーリエの中に感じたからだ。
その笑顔を向けられたい。自分ならヴァルターのように彼女を否定して傷つけたりしない。
────俺は、彼女が欲しいんだ
無意識に剣の柄を握る手に爪が食い込むほど力が入る。どうする。相手は大男三人。中にいる老婆のような声の奴はおそらく出てこないだろう。
しかしここで奴らを叩いたとして本当にすべてが解決するのだろうか。こういう類の商売は奴らのような枝葉を叩いたところでまた違う奴らが無数に湧いてくるだけだ。やるなら根幹を叩かなければ。王族が関わっているとなれば尚のこと。
だがこいつらをこのまま泳がせておいたとしたら、ツェツィーリエはどうなる?
あの白い肌を暴かれ、柔らかな亜麻色の髪をシーツに散らし、奴らを受け入れる姿を想像するだけで身体中の血が逆流する。
(殺るしかない)
ただし、殺るのはギードのみ。
ツェツィーリエのことに言及したあいつは殺す。親玉を失えば、あの手下どもも今すぐ彼女をどうこうしようなんてことはしないはず。
そしてすぐにギードの代わりを見つけて同じ商売に手を染めるだろう。根幹を叩くのはそれからだ。ユリアンは抜き身の剣を構えた。
「じゃあ次に来るときまでに今日約束した分は頼んだぞ」
ギィ、と建付けの悪い扉が音を立てて開かれる。最初に出てきたギード目がけてユリアンは地を蹴った。
喉元を一閃。迷いなく斬られた深い傷から噴き出した鮮血が、辺り一面を真っ赤に染めていく。
ギードは目を見開いた。そして慌てて喉を押さえるが、噴き出す血が止まることはなく、胸元に流れ落ちるだけ。そして出ない声でなにかを言おうと魚のように口をパクパクとさせながら、自分を斬りつけたユリアンに気づき手を伸ばした。
しかしその手がユリアンに届くことはなかった。
ギードは膝から崩れ落ち、手下の二人は叫びながら慌てふためくばかり。
ユリアンは血に濡れた剣を素早くしまい、来た道を振り返り駆け出したのだった。
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