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 「私はずっと……旦那様はローゼリア様と愛し合っているのだと思っていました。ローゼリア様から長年そう聞かされてきたからです。お二人の間には目に見えぬ強い絆があるのだと……。だから王都から婚約者を迎えるなどと……養子縁組の話が進まぬローゼリア様を見限るような事をした旦那様に不信感を抱いてしまった……それで……」

 「それで手紙をローゼリアに渡したのか?」

 「はい……ローゼリア様が哀れでとても見ていられませんでした……。」

 シルフィーラは初めて知る事実に驚いて声も出なかった。
 『私とローゼリアはただの従姉妹だ!あなたが思っているような事は私達の間には何もない!』
 エントランスでフェリクスが自分に訴えた事は嘘ではなかったのだ。
 それなのに自分が彼に対して言った事は……
 『もういい加減にして!触らないでよ!!』
 『私がここに来た日あなたは何をしてました?』
 何も知らされていなかった自分に落ち度はない。だが知らなかったとはいえ彼はあの時国を守るために前線にいたのだと思うと少しだけ胸が痛んだ。だって自分は彼が有事の際はいつでもその身を戦場に投じなければならない辺境伯だと知ってここに来たのだから。 
 滞在する部屋も趣味の良い調度品が揃えられていて、用意してくれた人の心遣いを感じられた。まさかあれもフェリクスが手配してくれたのだろうか。

 「指輪の事も説明してくれ。」

 “指輪”
 その単語にエリオの肩がビクッと震えた。
 おそらくそれに関してはローゼリアへの同情心からやった事だとしても到底許されない事だと良心の呵責に苛まれていたのだろう。
 何しろシルフィーラへの婚約指輪だったのだ。指示したのがローゼリアだとしても、持ち出したのが彼なのだとすればそれはただの窃盗に他ならない。

 「……婚約指輪の事は……ローゼリア様が旦那様から直接伺ったと仰ってました……」

 「ああ、確かに。しつこくせがまれてデザインだけは教えた。」

 ローゼリアにシルフィーラとの婚約の事を自分の口から伝えた日だった。
 最初は驚き狼狽えている様子だった。屋敷からすぐさま追い出されるとでも思ったのだろう。だがそのうちに“用意は進んでいるの?”とか“どんな方なの?”などと聞いてきた。
 ルシールから聞かされたバジュー男爵がゲルン民族と接触したという事実の裏には必ずローゼリアがいるとフェリクスは睨んでいた。
 だから今は手中で泳がす必要があると思い、そんな質問にも適当に答えていたのだ。
 するとそんなフェリクスの態度に気を良くしたのか、ローゼリアは今度は婚約指輪の事についても聞いてきた。
 “どんなデザインなの?”“さぞかし豪華で素敵な物なんでしょうね”としつこかった。
 それにどう答えようかと指輪の石を思い浮かべたその瞬間だった。フェリクスの脳内にシルフィーラの姿が浮かんだのだ。思い出すだけで胸が高鳴り熱に浮かされるようだった。
 そして心ここにあらずといった状態でつい口にしてしまったのだ。

 『……彼女は……シルフィーラ嬢の瞳はまるで大粒のサファイアのようにキラキラと輝いているんだ。そして美しく流れる髪は白金で……だから台と石はそれをそのまま表現したような指輪にしたよ。』

 ローゼリアは“そうなの……”と作り笑いを浮かべ、それ以上は何も聞いてこなかった。
 

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