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27 ローゼリア②
しおりを挟むその日からローゼリアは体調を崩したと言っては度々部屋にこもるようになった。
ここのところずっと調子の良かったローゼリアの突然の不調に、日頃懇意にしていた使用人達は心配し、ささやかな見舞いを持っては彼女の部屋を訪れた。
「大丈夫ですかローゼリア様?最近はお身体の調子も良かったのに……。」
「……ありがとうリタ。嬉しいわ……っ、ごめんなさい!!」
「ローゼリア様!?」
突然顔を歪め涙を流し始めたローゼリアにリタは慌てふためいた。
そんなに具合が悪いのかと思い尋ねると、ローゼリアは何も言わずただ泣くばかり。止まらぬ嗚咽にこれはただ事ではないと勘付いたリタは、思い切ってその理由を尋ねる事にした。
「もしかして……何かあったのですか?」
「……誰にも言わないでくれる……?実はね……レミリア様から他家へ嫁ぐように言われてしまったの。私は……私はここに、フェリクスの側にいたいのに……!」
「まぁ!!」
ローゼリアが涙ながらに語ってくれた内容にリタは驚き、それと同時にやっぱり二人は恋仲であったのだと確信した。
「わ……私はこの家の子じゃないって……私はレミリア様を本当のお母様のように思って来たのに……」
「何かの間違いではありませんか?レミリア様はローゼリア様の事を大切に思っていらっしゃいますわ。」
「いいえリタ。私、聞いてしまったの……レミリア様とポールが私の事を卑しい生まれだって蔑んでいるのを……!!」
「なんて事!本当ですか!?」
「ええ……だからこの事は絶対に内緒よ……リタ、私追い出されたくない!ここにいたいの!!」
侍女である自分に縋って泣くローゼリアの姿はその正義感に火を点けた。
「わかりました。リタはローゼリア様の味方です。一緒に考えましょう。これからどうすればいいのかを。」
「ありがとう……リタ……!」
リタが部屋を出た後ローゼリアは枕に顔を突っ伏して寝台の上で足をばたつかせた。
「ふ……ふふっ……あはははっ!!」
笑いを堪えるのに大変だった。
「……簡単だわ……。」
きっとリタはこの後屋敷中の侍女にこの話をするだろう。“決して奥様とポールの耳に入らないように”と付け加えて。
後は陰ながら皆が応援してくれるはずだ。この可哀想な私に同情して。
落ちぶれ男爵の娘。親の愛は貰えず身体は病弱なのに医者にかかるどころか面倒すら見て貰えない。挙げ句ベルクール家にたかる道具に使われて最後には捨てられた。
それなのに今度は引き取った育ての親が酷い仕打ちを……とね。
……ベルクール家の一員だと思っていたからこそ使用人の皆に……領民に優しくしようと思ってやって来た。
まさかそれがこんな事に役立つなんて本当に皮肉ね……。
ローゼリアはしばらくぼんやりとここではないどこかを眺めていた。
*
ローゼリアはそれからも部屋にこもった。
夜の間中したくもない咳をして、朝方に眠りにつく。
診察に来た医師には書庫で調べて知った肺の病気の症状そのものを伝え、真似してみせた。
診断がつけば後は早い。その様子をリタが皆に伝えてくれるのだ。
あれは下手をすれば命を落とす肺の病だ。絶対に安静にさせなくてはならない。健康になったと思って無理を重ねた結果だと。
それを聞いたレミリアはローゼリアの縁談を一時留め置く事を決めた。
しかしまだ油断は出来ない。ローゼリアはこの先使える材料を模索していた。
*
それはまさに青天の霹靂と言うに相応しい出来事だった。
その日はとても寒い朝で、空は雲一つなく真っ青だったのを今でもよく憶えている。
フェリクスの父アドルフが領内の視察へ向かおうと、厩舎から連れられて来た愛馬の手綱を手にしたその時だった。
いつもならすぐ鐙に足をかけるのに一向に動こうとしない。不思議に思った部下は彼の前に回った。だがその瞬間、アドルフは白目を向き頭から地面へと落ちたのだ。
辺りは大騒ぎとなりすぐにフェリクスも呼ばれたが、彼が再び父の声を聞くことは無かった。
何人もの医師が最善を尽くすもその日の夜彼は帰らぬ人となる。
フェリクス二十一歳の冬の事だった。
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