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 「あなた……一体何を言っているのかしら?」

 「何って、だってシルフィーラ様は私が羨ましいんでしょう?」

 「なぜ私があなたを羨ましがるのです?」

 羨ましい要素なんて何もない。気は確かか。

 「だって……さっきのお茶会だってフェリクスが私を優先したのが気に入らないのよね?フェリクス、あなたの事追い掛けて行かなかったものね。」

 (!?)
 その時だった。
 瞬きしていたら見逃したかもしれない。
 しかしシルフィーラははっきりと見た。ほんの僅かだが、ローゼリアの口の端がまるでシルフィーラを見下すように上がったのを。
 
 「それに私の暮らすこの家の事や身につける物にまで嫌味を言うなんて……これって明らかに嫉妬でしょう?」

 言い終わるとローゼリアは口元を手で隠すように押さえ、上目遣いでシルフィーラの様子を伺っている。
 (私を嗤ってるのね……病弱な悲劇のヒロインかと思ったら……とんでもない女だわ)
 こんな事言いたくはないがドレスも宝石も自分の持ってる物はローゼリアのそれとは格が違う。
 決してベルクール家の財力を馬鹿にしている訳ではないが、さっきの彼女の話を聞いて不思議に思った事がある。
  “必要な物を揃えるのは構わない”
 そうフェリクスに言われたと彼女は言った。そして……
  “エリオに言えば何とかなるから”
 
 辺境伯のフェリクスの一番とも言える重要な仕事は国境を守る事だ。そのため突発的な任務に追われる事も多いはず。そんな彼が自邸の予算管理までしているとは到底考えられない。
 本来なら辺境伯夫人……つまり自分がなるはずだった地位にいる者が管理を担うがフェリクスは独身。両親は既に他界している。となるとこのベルクール家の予算管理を任されているのは執事のエリオ以外考えられない。
 (さすがにこの人じゃないわよね……)
 シルフィーラはチラリとローゼリアを見る。
 こんな浪費癖のある人間に予算管理なんて任せたら、いくら莫大な資産があったとしても数年……いや、一年そこそこで破産するだろう。
 なんと言ってもこの家のちぐはぐな芸術品の数々。
 あれだけ統一感のない物の買い方をする人間は飽きっぽく、何を手に入れたところで満足しない。欲求を満たすためには買い続けるしかないのだ。
 家を空けることの多い辺境伯。浪費家の恋人兼従姉妹。予算管理を任された執事。
 おそらくエリオが余計な気を回し、ローゼリアの浪費を許して来たのだろう。だからといってエリオも馬鹿じゃないだろうから、ベルクール家の財政を考えてそこそこ良い品を買い与えるのが精一杯。そしてフェリクスもそれを知りながらも愛しい恋人のする事に目を瞑ってきた。
 (て言うか何でそんな面倒くさい事するのかしら……さっさと結婚して予算管理任せればいいのに……)
 それでベルクール家が没落しようが自業自得。それでも愛し合う二人なら貧しくたって何とかなるだろう。
 (本当にバカバカしいわ……)
 庭でちゃんと聞いてるか男性諸君よ。私の弱い頭でも予想がついたのだ。王子に公爵家の長男次男ならもっと凄い正解に辿り着いた事だろう。
 そしてシルフィーラは大きく息を吸い込んだ。この女狐に一泡……いや息の根も止まるような巨大な泡を吹かせるために。
 (いいわローゼリア。見せてあげるわよ。男もドレスも宝石も……あなたの持ち物なんて私にはなんの価値もないガラクタだって事をね!)

 


 
 




 
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