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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むすぐ竜舎に戻ることになったっていい。いつものように、何よりも先に顔を見せてくれるだけでよかった。
浅緋の竜のことは、例えフィランがエリーシャのためを想ってしてくれた行動とはいえ、それに付随して起こったことは到底受け入れられるものではない。
(でも、フィーだけを責めるのも違う)
いつもフィランから愛情を示してくれるのを待つだけの自分だって狡い。
カサンドラもフィランも、そしてエリーシャも、みんながどこかに狡さを抱えていた。
みんな自分の欲求だけを満たそうと、相手の気持ちを考えもせず進み、省みようともしなかった。
(わかってる……わかってる……でも……!)
「あなたが何も言ってくれないから……教えてくれないから……私は寂しくて……裏切られたと思って……だから絶対に、絶対に私が一番つらかったわ!フィーの馬鹿ぁぁ!!」
こんな大きな声を出したのは、生まれて初めてだった。
そこまで言い切ると、堰を切ったように涙が溢れ出した。
エリーシャは幼子のようにわんわんと声を上げて泣いた。
「なによ!“カサンドラ”なんて呼び捨てにして!フィーだってあの人に気があったんじゃないの!?久しぶりにカサンドラ様に会えたのが嬉しくて、本当は私のことなんてどうでもいいと思ってたんじゃないの!?つまらない女だって!!だって、私はずっと塔の中にいるから!!あなたが望めばいつでも何度でも抱けるから!!」
本当はこんなことを伝えたかったわけじゃない。
けれど、一度口にしてしまえばあとはもう次から次へと言葉が出て行った。
言葉だけじゃない。頭にきて、初めて手が出た。
エリーシャは柔らかな白い手をぎゅっと握り締め、フィランの胸板をドコドコと連打した。
しかしそのあまりの硬さに手の方がすぐ負けた。
(何なのよこの鉄みたいな胸は!!)
これまで見惚れてきたフィランの筋肉も、今のエリーシャには憎たらしくてたまらなかった。
「カサンドラ王女のことは本当に違うんだ、リシャ……!すまなかった……本当にごめん……!!」
「許さない……こんな気持ちのまま許せないわよ!!私が納得するだけじゃなくて、この気持ちが収まるまで何度だって説明して、謝ってくれなきゃ絶対に許さないっっ!!」
「わかってる!何度だって言葉にする!一生かけて償うと約束するから……だから、だから私を捨てないでくれ、リシャ……!!」
フィランはエリーシャの身体を強く抱き寄せた。
けれどそれでも気が収まらないエリーシャは、大人しく抱かれはしなかった。
フィランは辛抱強く、エリーシャが身体を預けてくれるまでずっと抱きしめ続けた。
エリーシャの頬は未だじんじんと鈍く重く痛んだが、心の中にあった重石のような感情は薄れていくのを感じていた。
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