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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編

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 リシャに一目会ってしまえば、離れられなくなる事はよくわかっていた。そして今浅緋の竜から目を離してはいけない事も。
 だから恋しい想いを手紙にしたためた。今はどうしても会いに行く事ができないが許してくれと。
 そしてその手紙を信頼する部下に預けた。必ず届けるようにと。

 「エレン!」

 「は、はいっ」

 「お前、リシャへの手紙はちゃんと届けてくれたんだろうな!?」

 「えっ!?あ、あの……」

 エレンは気まずそうな視線をカサンドラに向けた。

 「はっきり言わないか!」

 「はいっ!エリーシャ姫様へのお手紙は、カサンドラ姫様が届けて下さいました!……よね?」

 フィランから手紙を受け取ったあの日、エレンはすぐさまエリーシャのいる塔へと向かった。
 姫様は優しい人だ。きっと団長の事を心配して、眠れない二週間だっただろう。早く届けてあげなければ。
 この手紙が届けば姫様はとても喜ぶはず。
 エリーシャの笑顔が見たかったエレンは、疲れた身体に鞭打って急いだ。

 『あらエレン、そんなに急いでどうしたの?』

 道の途中、呼び止められて振り向くと、そこには着替えを済ませたカサンドラの姿が。

 『これはお疲れ様ですカサンドラ姫様。あの、どちらへ?』

 『国王陛下にご挨拶に伺うのよ。急な訪問になってしまったからね。』

 浅緋の竜の生態を知りたいと言うカサンドラの意向で、急遽この王宮へと滞在する事になったベルーガの竜騎士団。
 カサンドラの視線がエレンの持っている封筒に向く。

 『あ、これは団長からエリーシャ姫様への手紙で……』

 『私が届けてあげるわ』

 『えっ?』

 間髪入れずに発せられた言葉に、エレンは一瞬言葉に詰まった。
 届けると言ってもカサンドラはエリーシャと面識は無かったはず。

 『ふふ。そんな顔しなくても大丈夫よ。確か国王陛下はエリーシャ姫を溺愛してるのでしょう?』

 確かに陛下はエリーシャ姫をこの上なく溺愛されている。でもそれと手紙に何の関係が?

 『その手紙を国王陛下にお渡しすれば、陛下には姫の顔を見に行く口実が出来るでしょう?』

 (そういえば……)
 エリーシャがフィランと共に塔で暮らすようになってから、国王陛下はエリーシャの部屋に、今までのように頻繁に訪れるのを遠慮しているのだと聞いた。
 エレンは、手紙を預かったのは自分なのだから、ちゃんとこの手で届けなければと思う反面、最近淋しそうな国王陛下の顔が脳裏に浮かんだ。
 “きっとお喜びになるわよ”
 (確かにそうかもしれない……)
 そしてその言葉を疑いもせず、エレンはフィランから預かった大事な手紙をカサンドラに渡してしまったのだ。

 あの後手紙が届いたのか確認すれば良かったとエレンは後悔したが、それも今さらだ。 
 エレンの答えに、いつの間にかフィラン達の会話に聞き耳を立てていた、会場中の参加者の目がカサンドラへと向く。

 「……っ!」

 カサンドラはその視線に気付き、顔を顰めた。

 「一体どういう事だカサンドラ!?」

 「わ、私は何も……!」

 カサンドラはフィランから視線を逸らす。
 しかしフィランは追及をやめなかった。

 「リシャへの手紙をどうしたんだ!?」

 「やめなさいフィラン。」

 しかし一部始終を黙って聞いていたシャローナが、カサンドラを責めるフィランを止めた。

 「これは誰でもない。フィラン、あなたの責任よ。」

 シャローナの口調は厳しい。

 「愛する者への義理も果たさなかったあなたが、偉そうに他人を責めるなどと……例え竜から目が離せなかったとはいえ、ほんの一瞬でもあなたがエリーシャに顔を見せてやれば良かっただけの話だわ。」

 あのいじらしい妹の姿がシャローナの頭に浮かぶ。
 今回エリーシャは、フィランの近い未来の伴侶として、唯一の番として彼を送り出したのだ。物陰からそっと見ていただけの、幼いあの頃とは違う。
 命を落とす危険だってある遠征に、愛する男を笑顔で送り出すのだ。帰還までの間、待たされる女はどれほど気を揉んで、枕を涙で濡らしながら眠れない夜を過ごすのか。
 そんな事もわかってやれないフィランに、シャローナは心底腹を立てていた。

 「あなたのせいよ。」

 シャローナはもう一度だけそう言うと、両親の待つ王族席へと向かった。

 「リシャ……!!」

 フィランは扉に向かって歩き出す。
 (謝らなければ)
 きっと、彼女はひどい誤解をしている。
 そしてそうさせたのは他でもないフィランだ。

 「待って、フィラン!話を聞いて!」

 しかし顔を歪め叫ぶカサンドラに目もくれず、フィランは広間から出て行った。

 「リシャは…エリーシャ姫はどこへ行った!?」

 広間の外に立っている衛兵が指し示す先へと急ぐがしかし、エリーシャの姿はどこにもない。
 フィランは祈るような気持ちで、今は二人の愛の巣となった塔へ向かった。 
 あの日リシャが手を振ってくれたバルコニー。自分を待ってくれていたリシャに、ベルーガの騎士団の手前、いつものように側を飛ぶ事が出来なかった。
 あの時リシャはどんな気持ちでいたのだろう。 

 「フィラン様!?」

 「ニナ!リシャは、リシャはどこに!?」

 突然現れたフィランに驚いたニナだったが、次の瞬間、唇を噛んでフィランをめつけた。
 そしてフィランは、自分がとんでもない間違いを犯してしまった事に、この時ようやく気づいたのだった。




 
 

 

 
 


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