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外伝 ヤリ捨て姫の勘違いは絶好調編
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しおりを挟むそれからどうやって部屋に戻ったのかよく覚えていない。
ただ真夜中にフィランが自分に会いに来てくれた時にこの格好でいる訳にはいかないとドレスを脱いでクローゼットに隠した。
ニナが綺麗に結ってくれた髪をほどきながらエリーシャは自嘲気味に笑う。
フィランが今夜この部屋を訪れる事はないだろう。それなのにこんな時でさえも彼の事を真っ先に考えて行動してしまう。
「今からこんなんじゃ彼を失った後どうやって生きて行くつもり……?」
しっかりしなきゃ。
こんな私を見たら優しい彼はきっと私を捨てられなくなってしまう。
同情で側にいられたくはない。
元々たった一度だけの奇跡だと思ってた。それがこんなにも長い時間側にいてくれたのだ。こんな何の取り柄もないつまらない女の側に。
カサンドラ姫は竜の背に乗りどこへでも自由に翔けて行ける人。美しく強く、見識だって広いだろう。彼女以上にフィーの番に相応しい女性などいない。
私なんかじゃ勝負にもならない。
一人のベッドは広く冷たい。
いつも冷たい身体を温めてくれるあの人は、今日は違う人とベッドを共にしているのだろう。
フィランはついに部屋を訪れる事はなく、エリーシャは頭から毛布をかぶるようにして泣きながら眠ったのだった。
**
「おはようございます姫様!ご気分は……最悪そうですね……」
ニナの顔がとんでもなく引きつっている。
泣きながら眠った事だけは覚えているから、おそらく目は腫れて顔は浮腫んで酷い事になっているのだろう。
「と、とにかく冷やしましょう!こういう時は早い対応が大事です!」
そう言って冷たい水に浸けた布を絞って顔に乗せてくれる。
お喋り好きなニナがその間も何も聞いてこないと言う事は、昨夜の事を色々察してくれているのだろう。
「お食事はどうしましょう?」
昨夜の事が身体と心に重くのしかかったままでとても食べられそうにない。
「ごめんねニナ。お茶だけ貰える?」
そう伝えるとニナは心配そうな顔をしたが、何も言わず私のお気に入りの茶葉で淹れてくれた。
お茶を飲んで少し落ち着いた頃だった。
やはりやって来たのはフィランではなく、ニナの兄ルカだった。けれどルカの顔に昨日のような気まずさはない。
「今夜陛下が宴を開かれるそうなんです。」
「お父様が?」
「はい。実はベルーガの竜騎士団の方々は元々いらっしゃる予定じゃなかったんです。」
「ではなぜ?」
「実は珍しい竜をフィラン団長が捕らえられたんです。で、その生態について少し観察したいと言う事で、短期間の滞在を願い出られたようです。」
「フィーが珍しい竜を……」
「えぇ。王族の方もいらしてるので、それならばと陛下が。」
そうか……。お父様もカサンドラ姫が来ていると聞いて慌てて準備をさせているのだろう。そしてルカが私にその知らせを持ってきたと言う事は、私も宴に出席しろという事だ。
断る理由もない。少しずつ健康になってしまった身体もこんな時は恨めしい。いっそ熱でも出てくれたらいいのに。
「わかったわルカ。出席させて頂きますと伝えてくれる?」
「はい!姫様、今夜はきっといい夜になりますよ!」
ルカは満面の笑みでそう言うと、ニナに向かって“またな”と言って帰っていった。
いい夜なんて来る訳ない。
私は愛する二人の間に割って入る邪魔者だ。
「……ニナ、シャローナお姉様にお会いできるか聞いて来てくれるかしら?」
「シャローナ姫様ですか?」
「うん。久し振りにお話したくて。」
「わかりました。ではお聞きして参りますね。」
そしてエリーシャは姉からの返事を待つ事にしたのだ。
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