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 フィランの尋常ではない様子に団員達も気付いた。そしてこのままだと間違いなく死人が出る。そう感じていた。
 止めなきゃ姫様が死ぬ。しかし止めたら俺達が死ぬ絶対。
 どっちも地獄だが一つだけ確かな事がある。
 それは
 “姫様が死ななければ団長は死なない”
 という事だ。
 あんなに姫様に執着してる団長が、自分一人で死ぬなんて有り得ない。道連れに出来ないのなら生きて一生つきまとうはず。
 それなら仕方ない。大好きな姫様と敬愛する団長を死なせるなんてそんな事できやしない。 
 しかもその理由がヤリ捨てされた末の凶行なんて笑えない。
 “よし。やるぞ!”
 団員達は互いに顔を見合わせ頷いた。
 “先日の命をかけたスクラムとタックルを思い出せ。何としてでも団長を止め、姫様を救うんだ!”

 しかし団員達の覚悟が決まったその時だった。
 
 「ちょっといいかしら?」

 涼やかな声で割って入って来たのはエリーシャの姉、レオノールだった。
 何と横にはエルニカの王子イーサンまでいる。 

 「レオノール様!?今はご遠慮願えますでしょうか!」

 イーサンを呼んだのは他の誰でもない自分である。宰相は色々バツが悪かったが今はそれどころではない。

 「エリーシャの事ならもういいじゃない。」

 「もういい?もういいとはどういう事ですかレオノール様?」

 「エリーシャに悪気は無かったのよ。ただちょっと刺激が欲しかっただけよきっと。フィラン様も……子供の悪戯いたずらに引っ掛かったとでも思って許してあげてちょうだい?」

 「……子供の……悪戯……?」

 フィランの目はエリーシャからレオノールに移った。

 「ええ。エリーシャはずっと塔の中で生きてきたから夢見がちで世間知らずなの。恋に恋するとでも言うのかしらね。だから私からも謝るわ。本当にごめんなさいねフィラン様。」

 フィランは何も言わなかったがしかし団員は見逃さなかった。
 フィランの握られた手に更にグイッと力が込められたのだ。
 “……あれは絶対手のひらに爪が刺さってる……これは本当にヤバいやつだ……!”
 団員達の背筋が凍る。

 「皆にも心配をかけたわね。」

 レオノールは団員達にも声を掛けた。
 返事は当然無かったが。

 「でも安心して!こんなエリーシャでもイーサン様が引き受けて下さるって言うのよ!」

 「「「はぁ!?」」」

 王も宰相も、その場に居たエリーシャとフィラン以外の誰もが呆気にとられた。
 一体王女様は何を言い出すのかと。
 しかしレオノールの言葉を受けてイーサンは相変わらずの嫌らしい笑みを浮かべながら前に出た。

 「エリーシャ姫…愛される喜びを知りたかったのならあの日私にそう言って下さればよかったのに。竜に乗って人を殺めるような野蛮な男なんかよりも、私の方がもっとずっと甘い時間を教えて差し上げられますよ?」









 
 
  

 
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