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終章
9
しおりを挟む曲が終わり名残り惜しそうにシャルルを見つめる女性の姿にエリシアの足はまた止まってしまう。
(シャルル様ととってもお似合いだわ…)
美しい所作。大人の女性の象徴とも言える細く高いヒールの靴。
ぺたんこ靴にレースのフリフリの子供っぽいドレスの自分とはまるで違う。
「エリシア?」
俯くエリシアを見付けたシャルルはすぐに側まで来てくれた。
「どうしたのエリシア?もう機嫌を直してくれた?」
そう言ってまたその腕で抱き上げようとしたシャルルの手をエリシアは首を振って拒んだ。
「エリシア?」
どうしたの? シャルル様の顔がそう言っている。シャルル様の抱っこは大好きだ。その腕の中は私だけの場所。でも今は嫌だった。ただでさえ子供の自分が嫌なのに、抱っこなんてされたらもっと惨めな気持ちになりそうだったから。
「まあ、エリシア殿下の御守りまでされてるわ。シャルル様ったら…本当になんてお優しい方なんでしょう。」
周りからそんな声が聞こえて来た。
(…おもり………。)
その言葉は落ち込んだ気持ちに更に追い打ちをかけた。
子供らしく拗ねて下を向く自分を見て皆がクスクスと笑っている。恥ずかしい…。
エリシアの目にうっすらと涙が溜まり始めたその時
「エリシア殿下。どうか機嫌を直して私と踊って下さいませんか?」
シャルルはエリシアに向かって跪き、その長い手を差し出したのだ。
(…踊る…?抱っこじゃなくて?)
さっきの女性と踊る時だって…ううん、今までだってシャルル様が跪いてまでダンスを誘う姿なんて一度も見た事がない。
「君が特別な人だからだよ。」
私の考えている事が全部バレている。
きっと何で拗ねていたのかも全てお見通しなのだろう。それと…どれだけ私がシャルル様の事を好きなのかも。
「…私も…」
「ん?」
小さな声が聞こえなくて耳を向けると、エリシアは内緒話をするように手で口を隠してシャルルの耳と繋げた。
「…私もシャルル様が特別なの……!」
それを聞いた瞬間シャルルの顔はとろけるようにゆるみ、口元は弧を描く。
「エリシア」
「?」
ふいに名前を呼ばれシャルルの顔を見ると、目の前には碧い瞳。そして柔らかなものが唇にそっと触れた。
「!?!?!?」
何が起こったのかわからなかった。
しかし目の前で少し頬を赤く染めて恥ずかしそうに微笑むシャルルの顔を見て、色々と理解した途端エリシアの顔は火を噴いた。比喩ではない。大噴火だ。
「ごめんね…初めてを貰っちゃった。」
「!!!!!!!」
唇を両手で押さえながらアワアワするエリシア。それを遠くから見ていたユリシスは雷に打たれたような衝撃を受けていた。
「ユ、ユーリ!!落ち着いて!!」
落ち着いてなどいられるか。あの弟め…!!マリーの初めてだって奪いやがって今度は大事な娘の初めてまで……!!
「アランお願い!!」
未だ夢見心地のエリシアには、自分の背後で父がアランに羽交い締めにされている事など知る由もなかった…。
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