329 / 331
終章
8
しおりを挟む「誰にもわからないわエリシア。」
「…?」
キョトンとした顔の娘が可愛くてマリーは微笑む。
「人の気持ちがどうなるかなんて誰にもわからないのよ。」
「それは…シャルル様が誰を好きになるかわからないって事?」
「うーん…ちょっと違うわね。エリシア、シャルル様はあなたの事をとっても大切に思ってくれているわ。それはわかる?」
わかる。家族以外でこんなにも自分に心を砕いてくれるのはシャルル様だけ。そしてシャルル様の腕は生まれた時から私の指定席だ。
「シャルル様はまだお若いわ。お父様だって私と結婚したのは二十歳の頃よ。焦らなくてもゆっくりシャルル様への気持ちを育てて行けば、シャルル様も応えてくれるかもしれないわ。」
「でもそれじゃ…あと五年もすればシャルル様は結婚しちゃうかも…。」
シャルル様だって初代アイビン公として子孫を残していかなきゃならない。きっと今だって山のように縁談が届いているはずだわ。けれど私は五年経ったところでまだ十歳。せいぜい婚約のお話しくらいしか出来ない…。
「エリシア、シャルル様は間違えないわ。」
「どういう事?」
「シャルル様は将来の伴侶となるべき運命の人を決して間違えたりしない。だからエリシア、あなたがシャルル様の運命の相手なら、どんなに年が離れていようが絶対にシャルル様は待っていてくれる。周りにどんなに何を言われようとね。」
マリーはシャルルが自分に捧げてくれた気持ちが間違いだとは思わない。お互いみっともない姿をさらけ出して泣いた時もあった。そしてマリーもシャルルへ少なからず恋をする気持ちがあった。
けれど二人は運命の相手では無かった。
『君はとても綺麗だよ』
幼いあの日、暗闇を抱えた心ごと救い出してくれた愛しい人。私が見つける前に私達の運命を見つけてくれたユーリ。
そしてエリシアも見つけた。さすが親子としか言いようがない。
「あなたはお父様そっくりよエリシア。」
エリシアはまたしてもキョトンとする。
「それ、さっきお父様にも同じ事を言われたわ。私はお母様そっくりだって。」
「ユーリが!?うふふっ。」
確かに見た目はそっくりだがエリシアは自分とは全然違う。この子は自分で見つけて手を伸ばしたんだもの。運命を…愛する人を必死に捕まえるために。
「さぁエリシア、もう音楽が終わる頃よ?勇気を出さなきゃ!ね?」
マリーに背を押されエリシアは歩き出す。
一歩ずつだがその足は確かにシャルルの方を向いていた。
「…複雑すぎる気分だよ…。」
いつの間にか側に来ていたユリシスはこの世の終わりのような表情をしている。
「あら、私だけじゃ駄目なの?」
いたずらっぽく覗き込むマリーにユリシスは苦笑した。
「君だけだよマリー。シャルルめ…不幸にしたら本気で後悔させてやる。」
13
お気に入りに追加
1,279
あなたにおすすめの小説
【完結・7話】召喚命令があったので、ちょっと出て失踪しました。妹に命令される人生は終わり。
BBやっこ
恋愛
タブロッセ伯爵家でユイスティーナは、奥様とお嬢様の言いなり。その通り。姉でありながら母は使用人の仕事をしていたために、「言うことを聞くように」と幼い私に約束させました。
しかしそれは、伯爵家が傾く前のこと。格式も高く矜持もあった家が、機能しなくなっていく様をみていた古参組の使用人は嘆いています。そんな使用人達に教育された私は、別の屋敷で過ごし働いていましたが15歳になりました。そろそろ伯爵家を出ますね。
その矢先に、残念な妹が伯爵様の指示で訪れました。どうしたのでしょうねえ。
お望み通り、別れて差し上げます!
珊瑚
恋愛
「幼なじみと子供が出来たから別れてくれ。」
本当の理解者は幼なじみだったのだと婚約者のリオルから突然婚約破棄を突きつけられたフェリア。彼は自分の家からの支援が無くなれば困るに違いないと思っているようだが……?
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
7年ぶりに私を嫌う婚約者と目が合ったら自分好みで驚いた
小本手だるふ
恋愛
真実の愛に気づいたと、7年間目も合わせない婚約者の国の第二王子ライトに言われた公爵令嬢アリシア。
7年ぶりに目を合わせたライトはアリシアのどストライクなイケメンだったが、真実の愛に憧れを抱くアリシアはライトのためにと自ら婚約解消を提案するがのだが・・・・・・。
ライトとアリシアとその友人たちのほのぼの恋愛話。
※よくある話で設定はゆるいです。
誤字脱字色々突っ込みどころがあるかもしれませんが温かい目でご覧ください。
冷徹義兄の密やかな熱愛
橋本彩里(Ayari)
恋愛
十六歳の時に母が再婚しフローラは侯爵家の一員となったが、ある日、義兄のクリフォードと彼の親友の話を偶然聞いてしまう。
普段から冷徹な義兄に「いい加減我慢の限界だ」と視界に入れるのも疲れるほど嫌われていると知り、これ以上嫌われたくないと家を出ることを決意するのだが、それを知ったクリフォードの態度が急変し……。
※王道ヒーローではありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる