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終章
5
しおりを挟む「エリシア、少し耳を塞いでいてくれる?」
いくら大好きなシャルルからでもそれは無理なお願いである。だってこれはエリシアの人生の一大事なのだ。上目遣いに拗ねた顔で反抗してみるが、シャルルは珍しく譲らない。しかも抱っこから下ろされてしまった。
そしてそれを見逃さなかったユリシスは、エリシアに気付かれないように背後から近寄り抱き上げた。
「お父様!?」
愛しいエリシアを捕獲したユリシスは喜色満面。
「さぁエリシア!お父様とダンスだ!」
「い、いやよお父様!まだエリシアは…!」
エリシアはシャルル様のお答えを聞きたいの!!
しかしユリシスの耳は都合のいい耳なので、エリシアの抵抗虚しく逃げられないフロア中央へと連行されてしまった。
(久しぶりに偉いわユーリ!!)
マリーは心の中でガッツポーズ。
エリシアはというと、周囲からの痛いくらいの視線に晒されビクついていた。
(こ、こういうの私苦手なのにお父様ったら…!!)
青褪めるエリシアを見てユリシスは懐かしそうに笑う。
「お父様?」
「君は本当にお母様に…マリーにそっくりだね…。」
今でも色鮮やかに思い出せる。緊張に押し潰されそうになりながらもしっかりと前を向き、私と共にここで踊ったあの日を。
「エリシア、楽しもう。」
ユリシスがそう言うと広間には二人のために音楽が流れ輪が出来た。
「兄上もすっかり良い父親だね。」
シャルルは踊る二人を見つめながら微笑む。
そしてまたマリーに向き直り、口を開いた。
「…マリーは心配なんでしょう?僕が君に似てるってだけでエリシアを妻にしようとしている事が。」
確かにそうだけど…でも少し違うかもしれない。何故ならシャルル様はそんな理由で人を愛せるような方じゃない。それなのにあの日から…
【お腹の子が女の子でマリーにそっくりだったら僕のお嫁さんにするから、そう言い聞かせて育ててくれると嬉しい。】
初めてその言葉を聞いた日から今日に至るまで、シャルル様は一度たりともその言葉を覆した事がない。それは一体なぜなのか知りたかった。
「…確かにエリシアにマリーの姿を見ているのは認めるよ。だって僕はまだ君の事を愛してるから。」
「シャルル様……。」
マリーは戸惑った。少年だった頃の彼の想いはもう薄れたものだとばかり思っていたから。
「僕も不思議なんだよ。何でこの気持ちは…この心は頑固なんだろうってね。」
困ったような、切ないような笑顔はマリーの胸を締め付ける。でもどんなにシャルルが苦しんでいたとしても、マリーにはどうしてやる事も出来ない。
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