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終章

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    ユリシスとマリーに惜しみ無い拍手が贈られる中、シャルルは自分から離れないエリシアを抱いたまま父母である国王夫妻の元へと寄った。

    「まぁまぁ、相変わらずエリシアはシャルルにベッタリね!」

    エリシアがこの世に生を受けた日、男子(しかもかなり個性的な)しか育てたことのない国王ジュリアンと王妃リュシエンヌは、ユリシスとマリーの初めての子が女子と知り、それはそれは喜んだ。出産予定日を指折り数えて待ち、陣痛の始まったマリーに徹夜覚悟で付き添うつもりだったリュシエンヌ。しかし過保護なユリシスに有無を言わさず部屋から追い出され、怒り心頭な状態だったのをジュリアンが朝まで宥めすかした。

    『初めての出産だからね。ユリシスもマリーちゃんに余計な気を遣わせないように守ってるつもりなんだよ。許してあげよう?ね?』

    ジュリアンの奮闘の甲斐あってリュシエンヌは何とか機嫌を直した。
    しかし今度は生まれたと知らせが来て二人で飛んで行くと、“祖父といえど男”というユリシスの嫉妬からジュリアンはエリシアを抱かせて貰えず激怒し、父と息子は城中を震えさせるほどの大喧嘩をする事となった。
    そして月日は流れ、気付いた頃にはエリシアはシャルルにベッタリとくっついて離れなくなり、ジュリアンは孫娘とキャッキャウフフな遊びをする夢を絶たれたのだった。


    「エリシア、さぁおじいちゃまのところへおいで。」

    だがそれでもめげずにこうやって愛しい孫娘に溶けそうなほどの甘い笑みを溢す美貌の祖父。未だ衰えぬその色気に心を奪われる婦女子は多い。しかしエリシアはまったく見向きもしない。

    「うふふ。負けたわねジュリアン。もう諦めなさいな。エリシアはシャルルのお嫁さんになりたいんだものね?」

    リュシエンヌが言った途端エリシアは顔を真っ赤にして慌てた。

    「おばあちゃまっ!!」

    「嬉しいなぁ。エリシア、本当に僕で良いの?」

    「えっ!?」

    シャルル様の碧い瞳の中に私の顔が映っているのが見える。
    初めてお会いしたのはまだ何もわからない赤ちゃんの時だった。でも絶対にその時から好きだった。間違いない。
    シャルル様のお嫁さんになれたらどんなに幸せだろう。
    (…でも…私じゃきっと無理だわ……。)
    シャルル様にどれだけの女性が恋い焦がれているのかくらい子供の私にだってわかる。今だって……。
    エリシアが周りを見渡せば、着飾った年頃の令嬢達の熱のこもった視線が一斉にシャルルへと向いているのが見て取れる。
    臣籍降下したとはいえ現国王、そして第一王子のユリシスに何かあれば、シャルルは再び王族へ戻り王位継承権を得る可能性がある。そうでなくとも王族出身の公爵。そして見目は麗しく性格は柔和。兄のように令嬢達を冷たくあしらったりもしない。周りが目の色を変えて追いかけるのも無理はない。
    十歳も年の離れた自分では、シャルルの周りに咲く大輪の花のような女性達にはとても及ばない…エリシアはいつもその事で小さな胸を痛めていた。
    
    「どうしたのエリシア?人が多くて疲れちゃったか………」

    口数の少ないエリシアを心配したシャルルの言葉が途中で止まった。
    その目線をエリシアが追うと、そこには自分と同じ大きな空色の瞳があった。

    「お久し振りですシャルル様。アイビン領での暮らしはいかがですか?」

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