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8章

49 帰還⑤

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    クリストフ様と家出隊の皆さんは、帰路を行くカイデン将軍達に手を振り続けていた。まだ振るの?というくらい。

    「おいクリストフ、もういい加減諦めて帰るぞ。少し帰る時間を引き延ばした所でアルベールの機嫌が直る訳でもない。お前達もとにかくひたすらに平伏だ。アルベールの姿が見えた時点でその場に平伏しろ。」

    「ユ、ユーリったら、レーブン様だってきっとわかって下さってるはずよ?ねぇ皆さん?」

    マリーの問い掛けに筋肉の壁の一員が口を開く。これ以上ないほどに暗い面持ちで。

    「一人の命は皆の命…しかし一人の勝手は全滅に繋がる。これはレーブン様からいつもきつくきつくきつーく言われている言葉なのです…。」

    大の大人から発せられた“きつく”は三回も続いた。これはまずい。相当まずそうだ。

    「勝ったから良かったもののダレンシアに着いてからのクリストフの働きもろくなもんじゃなかったしな。まぁなんとかラシードの首は落としたが。」

     「やめてユーリお願い。クリストフ様の顔見てほんと。」

    実の父親だけにその恐ろしさは嫌と言うほど知っているのだろう。そして兵士の皆さんもこれだけの勝手を働いたのだ。悪ければ全員除隊かもしれない。

    「と、とにかくここにいても仕方ありませんから帰りましょ?レーブン様には私も一緒に謝りますから。ね?」

    「「「マリエル様……」」」   

    こ、怖い。何人分の“マリエル様”だっただろうか。しかも声が野太い。
    しかし何とか帰る気になってくれた皆とついに城へと戻る道を進んだ。
    
    
   ***


    そしてそれは城へと入城しようとした矢先に起こった。

    城へ続くなだらかな坂の上に腕組みをして仁王立ちする超筋肉質な男性とその後ろに控える大勢の兵士。
  【軍神降臨】
まさにそんな言葉が相応しい光景だった。
    
    「ユ、ユーリ?」

    「…まぁ、少し様子を見守ろう。」

    馬車の窓からレーブン公爵を確認したユーリは呑気にそう言った。しかし外にいる皆さんは主の登場に震え上がっている。
    ユーリは見守ろうと言うが“一緒に謝ろう”と言った手前出ない訳にはいかぬ。

    「ユーリ、私出るからね!」

    しかしユーリは私の手を取る。

    「少し待ってなさい。大丈夫だから。」

    「大丈夫……なの?」

    どこからどう見たって皆さん死出の旅路だ。
    
    「物事っていうのは何でも収まるべき場所があるんだ。人だったり場所だったり色々ね。これはその始まりだと思って見ていなさい。」

    どういう事なのだろう。私はこの時ユーリの言葉がわからず困惑するだけだった。



    「ち、父上!ただいま戻りました!!」

    クリストフが膝を付き口を開いた。だが当然のように返事はない。
    父の背後に漂うただならぬ空気に本当は怯んだがしかし負ける訳には行かない。自分の背後だってただならぬ空気なのだ。

    「あまりの敵兵の多さに一時は死を覚悟しましたが、この者達のお陰で九死に一生を得、ダレンシアを救うことができました!!」

    僕達やったんです!と目で訴えるもやはりレーブン様から返事はない。

    「だ、だめよユーリ。私さっき皆と約束したもの。一緒に謝ってくるわ!」

    ユーリの手を振り切って扉を開けた時だった。

    「お前達全員我が軍から除隊とする。」

    除隊!?
    とんでもない事になってしまった。
    クリストフ様の後ろの兵士達は信じられないという顔で狼狽えている。当たり前だ。だってレーブン様の隊は皆家族なのだ。それなのに除隊なんて…!!

    「何言ってるんだよ父上!!皆が来てくれなかったら今頃全滅だったんだ!!あの殿下だって諦めかけたんだぞ!?それなのになんで除隊なんだよ!!」

    クリストフ様の剣幕を後ろに控える皆さんは切なそうに眺めていた。しかしその中の一人がポツリと言ったのだ。

    「仕方ないですよ坊っちゃん。もういいんです…。俺達だって承知の上で飛び出したんだ。坊っちゃんと仲間が無事に帰ってきてくれた。ヴィクトルの弔いだってこれで果たせた。万々歳ですよ。」

    「お前……!」

    クリストフ様の顔が悔し涙で歪む。

    「それなら…それなら僕だってお前達と一緒に行く!!」

    「「「坊っちゃん!?」」」

    「家族だって言っただろ!!こんな事で離れるような家族があるか!?」

    ゼーゼーと息をしながらクリストフは叫び続けた。絶対に見捨てないと。これからも共にあるのだと。


    「…何を勘違いしている。」

    「へっ……!?」

    ずっと黙って聞いていたレーブンがようやくその重い口を開いた。

    「誰が家族を捨てるなどと言ったのだこの大馬鹿者めが。」

    「えっ?だって今除隊って…!」

    「いいかよく聞けお前達!お前達はこれよりクリストフを新たな主とし、王子妃殿下マリエル様付きの隊となる!!次期皇后陛下のための隊だ!これまでと違い一段とその責任は重くなる。覚悟しろ!!」

    「え!?私!?」


    驚いて振り向くとそこにはニヤニヤと意地悪く笑う銀色の悪魔がいた。




    
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