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8章

47 帰還③

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    「……なんで君まで乗ってるの。」

    ユリシスは今最高に不機嫌だ。その理由は目の前に座る人物にある。

    「いいじゃない久しぶりの妹との再会なのよ!?殿下こそ遠慮しなさいよ!」

    以前マリーが誘拐された事で怒鳴り散らされているユリシスは色々ぐっと堪えていた。

    「…馬車の中はせっかく二人きりになれて嬉しいなって思ってたのにあんなことやそんなことしてガーランドまでたくさん啼かせてぐっちゃぐちゃにしてあげようと思ってたのになんでこんな…」

    「ユーリ!色々漏れ出てるから今すぐお口閉じて!!」

    「どうせ戦いが終わった後に一発くらいやってんでしょ!?ケチケチすんじゃないわよ。相変わらず人間が小さいわね!」

    「お姉様も黙って!」

    けれど私の言葉で黙るような二人だったら苦労はしないのだ。
    二人の嫌味の応酬がまるで子守唄のようにマリーを夢の世界へと誘う。
    (妊娠中ってこういう時に便利かも…)
    マリーはユリシスの肩に頭を預け、健やかな寝息を立て始めた。



    「……で?用件はなんなの?」

    ユリシスはぶすーっとした顔でオデットに問い掛けた。

    「あら、わかってたの。」

    「好奇心旺盛な君がダレンシアの観察も忘れて黙って馬車に揺られる訳がない。」

    「随分だわね。“最愛の妹との再会を喜んでいる”とか思わないの?」

    「思わない。君は薄情ではないが難解な感情の持ち主だからね。」

    意外と自分という人間を掴んでいるユリシスに面白くない気分だったが、オデットは馬車に乗り込んだ本当の目的を話す事にした。

    「ギヨームを私に頂戴。」

    ユリシスの眉間は皺…ではないヒビが入ったかと思うほどに形を変えた。
    しかしオデットは怯まず続ける。

    「どうせギヨームの存在は公にしないつもりでしょ?もしも公にすればダレンシアの外聞丸潰れだし、ガーランドも無傷じゃ済まないわ。」

    ギヨームの存在と研究内容を知られれば恐ろしい罪人を生み出した国として非難されるだろう。

    「私はあなた達男と違って自ら剣を持って戦うことが出来ない。けれど女の身でこの先を生き抜くためには武器がいるの。誰にも真似できない、下手すれば己も滅びるくらいの武器がね。だから頂戴。」

    ユリシスはオデットを見る。
    これほど近くでこの女の瞳の奥を覗いたのは初めてだ。優秀なのは知っている。だがシモンには遠く及ばないだろうと高を括っていた。
    しかし…あと数年すれば目の前の憎たらしいこの女はシモンをも超える実力を手にするかもしれない。そして生涯自分の目の上のたんこぶとして存在し続けるに違いない。

    「どう?叶えてくれるならマリーの生理用品の好みも教えてあげるわよ。」

    ユリシスの目が少しだけ泳いだのをオデットは見逃さなかった。

    「…初潮が来た辺りの頃の絵姿もつけてあげようかなー……。」

    そしてユリシスの口元が緩んだのもやっぱりオデットは見逃さなかった。
    (勝った!!)
    オデットは確信した。

    そしてユリシスはオデットに白旗を上げた。約束の品を出来るだけ迅速に納品する事を条件として……。
 


 
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