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8章

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    城の方角から何度も凄まじい轟音が聞こえる。ユーリは大丈夫だろうか。
    イアンと名乗る兵士に連れられて着いたのは、今まで過ごしていた屋敷からそう遠くない場所にあるこぢんまりとした家だった。聞くとここはイアン達が隠密行動をする時などに使用する家なのだそう。なるほどと言うべきか。私は今一般的な家屋には決して有り得ない隠し扉の先にある部屋に匿われていた。

    「戦いが終わり次第ユリシス殿下の元へお連れ致します。」

    無事に勝利を収めたら知らせが来る事になっているらしい。では負けた時は…?怖くてとても聞くことができなかった。

    轟音は何度も何度も聞こえてきてその度に建物が揺れる。

    「マリエル様、お身体は大丈夫ですか?」

    イアンが心配そうに声をかけてくれる。

    「私は大丈夫です。…ごめんなさいねイアン。あなたも主の元へ駆け付けたいでしょう?」

    きっと私の世話よりも仲間と共に戦いたかったはずだ。
    けれどイアンは私の発言に少し驚いた顔をした後、慌てて表情を戻した。

    「申し訳ありません。そのようにお気遣い頂けるとは思っていなかったもので……。」

    自国のせいでこんな目に遭わせたと責任を感じているのだろうか。しかしそれはこちらの台詞だ。ジョエル様さえこんな事をしなければ……いや、例えジョエル様の事が無くてももしかしたら同じような輩が現れたのかもしれない。この世にはそういう事が得意な人間がどの組織にも必ず存在するものだ。誰にも見付からないようひっそりと隠していたひずみをいとも簡単に見付け出してしまう人間が。
    
    大丈夫…大丈夫よ…お父さんは必ず迎えに来てくれる。ユーリが私に嘘をついた事はない。だから絶対に大丈夫。
    私は両腕で自分の身体を抱いた。

    轟音が止んでしばらくすると、今度は人が大勢押し寄せて来るような音がする。

    「おそらくラシード将軍の援軍が到着した音です。王をお救い出来ていれば良いのですが…。」

    しかしこの時私達はまだ事態の深刻さをわかっていなかった。
    鳴り止んだはずの轟音が先ほどよりも大きく何度も響き渡る。
    イアンは何も言わないがその表情は険しい。思わしくない事態が起きている事だけは確かだ。

    そしてしばらくしてまたラシード将軍の軍勢だろうか。さっきと同じくらいの人数が城へ向かって押し寄せて行く。

    「まさかラシードの援軍がまだいたのか!?」

    事態がこれほどまでとは想定していなかったのだろう。イアンは血相を変え私に言った。

    「マリエル様。今すぐここを発ちます。どうかご準備を!」

    「発つ?一体どこへ?」

    「ユリシス殿下とのお約束です。不測の事態が起きた時は何があってもあなた様をガーランドへお戻しすると。」

    「何ですって…」







    
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