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8章
6
しおりを挟む要塞のような城の門扉は敵の突貫や放火に備えて薄い鉄の板が貼られている。おそらく裏側も同じく鉄の閂が差し込まれている事だろう。
「用意はいいか?」
ユリシスの号令で控えていた弓隊が前へと出る。それぞれの持つ矢の先には筒状の火薬が取り付けられている。
「狙うのは門扉。それとその両隣に続く城壁上の回廊だ。上から矢で射られ、煮え油をかけられるのだけは避けたい。」
弓隊が一斉に構え兵士達に緊張が走る。
「皆で生きて帰るぞ。いいな。」
全員が強く武器を握り締めた。
轟音と共に地面が揺れ、赤い閃光が城のあちこちに飛び散った。
「何だ!?何事だ!!」
城内のダレンシア兵は炎と共に崩れ落ちる城壁に慌てふためく。
「アランのために道を作れ!!」
ユリシス達は両側からアラン達実行部隊を守るように進む。
「ユリシス様!どうかご無事で!!」
ユリシスは叫ぶアランを笑顔で送り出した。
「王宮内へ入らせるな!!」
アランの動きに気付いた兵が大声を上げる。
その時、ユリシスは深く被っていたフードを取った。
突如現れた煌めく銀色の髪にダレンシア兵は言葉を失う。
「私はガーランドの第一王子ユリシスだ!この首、取れるものなら取ってみろ!!」
まるで時が止まったかのような一瞬の沈黙の後、喚声と共に敵兵が押し寄せて来る。
「さあ来るぞ!クリストフ、惚れた女がすぐ先にいるんだ!良いとこ見せるためにもしっかり守れよ!!」
「殿下!!あんまり大きな声でばらさないで!!まだ何にも伝えてないんだから!!」
「……お前、嘘だろ?」
王都の外れから敵の援軍が来るまで一時間。最初で最後の戦いが始まった。
***********
城門を爆破した轟音はマリーとジョエルのいる屋敷にも届いていた。
「…何……!?」
ベッドで眠りについていたマリーはとなりに眠るジョエルに問い掛けるが、ジョエルはそれには答えず慌てたようにベッドを降りる。
「エル?どうしたの?」
「…城の方角だ。少し様子を見てくる。」
手早く着替えを済ませ、ジョエルはマリーの元へ戻って来る。
「いいかい、決して外に出てはいけないよ?部屋には鍵をかけて俺が戻るのを待つんだ。」
恐ろしいほどに真剣な眼差しだ。
「わかったわ。」
マリーがそう答えるとジョエルは額にキスを落とし
「愛してるよマリー。もう少し寝ていて?君が起きる頃には戻って来る。」
そう言い残し足早に部屋を出て行った。
ジョエルが馬車で出る音がして屋敷に再び静寂が訪れてもマリーは落ち着かなかった。
ガウンを羽織り、カーテンを開けると王城の方角の空が赤い。
まさか…ユーリが遂に王城へ?
あのジョエル様の表情…間違いない。きっとさっきの音は城へ攻めこんだ時の音だ。
心臓がうるさいほどドクドクと音を立てる。
しっかりしろ。ユーリは絶対にやり遂げる。心を揺らすな。誰よりも私が信じなければ。
胸を落ち着かせようと窓の外の景色に目をやると、さっきジョエルが出て言った出入口に人影が見える。
何!?
正確な数はわからないがこの屋敷を襲うには十分な数の人間が正面から押し入って来た。その者達はラシード将軍から派遣された見張りの兵を倒しこちらへと向かってくる。
何者なの!?味方?それとも……
「きゃあぁぁ!!」
階下でミーナの悲鳴が聞こえた。足音はこの部屋へ向かって来る。
ユーリ……!!!
そして足音は止まり、部屋の扉が開かれる。
「マリエル様でございますね?私の名はイアン。ユリシス殿下の命により御身の救出に参りました!!」
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