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7章

37ー9 リュカ

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    目を覚ますとふかふかのベッドの上。
    いつもの薄暗い部屋じゃなくてここは日が差しこんでいる。

    「リュカ!!」

    「………ニコ……?」

    目の前にはぐしゃぐしゃの顔のニコが。

    「ニコ……どしたの…すごいブサイク…」

    「お前ふざけんなよ!心配したんだぞ!!」

    ニコの話しによると僕は二日間目を覚まさなかったらしい。あのあとファーレン伯爵は領主代行のジョエル様に捕縛され、今は僕たちが監禁されていたあの離れにいるそうだ。

    「ニコ!他の皆は!?トロイとノア、ゴンザロは?」

    「無事だよ。ノアは今隣の部屋で休んでる。ゴンザロは伯爵と一緒に離れにいるよ。」

    そんな…やっぱりゴンザロも罪に問われてしまうのか……。

    「違う違う。伯爵とは別室の、元々ゴンザロの部屋だった所にいるんだ。」

    「…どういう事?」

    「お前憶えてる?俺が以前ゴンザロに連れて行かれて帰ってこなかった奴らがいるって話した事。」

    「あぁ…あの、殺されちゃったんじゃないかって話ね。」

   「取り調べでわかったんだけどさ、ゴンザロは伯爵から用無しになった奴らを始末するよう言われて離れから連れ出したらしいんだけど、結局情けが湧いて自分の給金から少しばかりの路銀を渡して逃がしてやってたらしいんだ。それを聞いたジョエル様はその話が本当ならゴンザロを罰する事は出来ないって言って、話しの裏が取れるまでゴンザロはとりあえずあの部屋にいろって事になったんだ。」

    ジョエル様…僕の話を聞いてくれて信じてくれたあの人がゴンザロを…。

    「そうだトロイは?トロイはどうしたの?」

    一番酷い目に遭っていたのだ。解き放たれてホッとしているだろうに。

    「…トロイは…現実を受け入れてない…。」

    「…え……?」


    あの離れにジョエル様達が踏み込んだ時、ニコとノアは安堵し、トロイは絶望した。
    何故ならトロイにはあの離れの小さな部屋が自分とファーレン伯爵を繋ぐ唯一の場所だったから。愛しい愛しい人に会える場所だったからだ。


    「そんな……トロイは伯爵を……?」

    「……そんな顔すんな。お前は何も間違った事はしちゃいない。……トロイと俺達は愛の形が違っただけだ。ただそれだけの事だ。」

    そうノアは言ってくれたけど、僕の心の中には消えない暗い靄が残った。


    「やぁ。目が覚めたかい?」

    その時、視界に真っ赤な色が映った。

    「…ジョエル…様……。」

    「あぁ良かった。意識はしっかりしているようだね。…すまなかったね。うちの者が君にこんな酷い傷を負わせてしまって……。」

    そう言ってジョエル様は頭を下げる。

    「そんな…そんな、頭を上げて下さい。僕はもうここから生きて出ることはないと思っていたんです。それに比べればこんな傷、なんて事ありません!」   

    ジョエル様は顔を上げ、穏やかに笑う。

    「この子…ニコに聞いたよ。離れの窓も見た。根気強く諦めず良く頑張ったね。君のおかげでたくさんの命が助かるよ。」

    「たくさんの命…?」

    「君のいた孤児院も保護した。院長とシスターは罪を償って貰う事になるが、院の子供達はこれからもあそこで暮らせるように計らうからね。」

    「ジョエル様……!!」

    何て事だ…!何て奇跡なんだ…!!
    これでコリンも安心して暮らせる…。

    「それで、これからの事なんだけど…。」

    これからの事…。
    これから僕達がどうやって生きて行くかと言う事か。

    「君たちの意思を尊重したいと思ってるんだ。戻りたい場所があればそこへ戻れるよう支援するよ。」

    戻りたい場所…。ニコとノアも孤児だ。僕と同じように買われて連れて来られたと言っていた。それに……人身売買という収入源を失くした孤児院に僕のような育ち盛りの男子が戻れば迷惑をかけるかもしれない…。

    「戻れる場所はありません……。」

    「どうして?元いた孤児院には知り合いもたくさんいるだろう?」

    「僕のいた孤児院は人身売買で成り立っていました。いくら領主様の保護下に置いて頂いたとしても、助けを求める幼子は後を絶たない。ゆとりがないのは確かです。だから戻れません……。」

    「………ニコ、君はどうだい?」

    ニコは少し考えて口を開いた。

    「…俺も同じです。戻る場所がない。おそらくノアも。」

    「……そうか。」

    部屋には沈黙が流れる。
    ジョエル様はしばらく何か考えていたようだった。

    「……よし。ニコ、リュカ。君たち子供は好き?」

    「「は?」」

    僕とニコは同時に声を出す。

    「俺の家、小さい弟が二人いるんだけど真ん中が凄いやんちゃで困っててね。相手になれる?」

    相手?何の?

    「遊び相手。あとは…そうだな、うちは敷地が広いから人手が足りないんだ。住み込みで働いてくれると助かるよ。」

    「…えっ……?」

    僕とニコはお互いの顔を見る。

    「ノアも一緒に連れて行こう。……トロイは残念だが少し心の病を患ってる。しかるべき施設に預けるよ。」

    ノアも……?僕達…ジョエル様のお屋敷に雇って貰えるの?しかも住み込みで!?
    僕もニコも目から涙が溢れ出す。こんな奇跡があって良いのだろうか。

神様、神様。僕は一生この人のために生きていきます。たとえどんな事が起こっても僕はジョエル様に付いていく。

    照れ臭そうに笑うジョエル様の前で、僕とニコはいつまでも泣き続けた。









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