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7章

37ー2 リュカ

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    マリサが雇われる先は孤児院からほど近い場所に住む貴族のお屋敷だという。

    「良かったねマリサ!それならお休みの日はいつでもここに帰って来れる。みんなも淋しくないね!」

    「ありがとうリュカ。リュカもきっと良い所を紹介して貰えるわ。だってリュカはこんなに優しくて良い子なんだもの。それにとっても綺麗な髪をしてる。将来はきっとすごくハンサムになるわよ。」

    「へへ、そうかなぁ?」

    僕はそう褒められてとっても嬉しかった。
    マリサはそんな僕を見て微笑んでいる。

    「あ、それファーレン伯爵が用意してくれた服?」

    マリサの荷物とは別に、菫色のワンピースが壁に掛けてあった。

    「そうなの。こんな素敵なお洋服着るの初めて。嬉しいわ。」

    ここを出て行く子供達が恥ずかしい思いをしないようにと、ファーレン伯爵はいつもこうやって洋服や日用品を持たせてくれる。

    「本当に素晴らしい人だよね。ファーレン伯爵って。」

    マリサは“うん”と頷いた。




    マリサが孤児院を出て一ヶ月が過ぎた。けれどマリサは一度も顔を見せてはくれなかった。

    「…マリサ…どうしてきてくれないの?」

    チビのコリンは誰よりもマリサに懐いていた。姉のように、ともすれば母親のようにも思っていたのかもしれない。マリサの勤め先が近くだと聞いて誰より喜んだのもコリンだ。

    「コリン…まだマリサは勤め始めたばかりで大変なんだ。覚える事だって山ほどある。慣れない仕事で疲れてるんだよ。いつか必ず会いに来てくれるから、応援して待とう?ね?」

    「…うん。ぼく、マリサをおうえんする。」

    「偉いぞコリン。さすが僕達の弟だ!」


    けれど二ヶ月経ってもマリサが孤児院へ姿を現す事は無かった。







    「い゛って゛ーーーーーー!!!!」

    「大袈裟なんだよジャック。お前の方が僕より身長も体重も大きいんだから、僕の一撃なんて軽いだろ?」

    とはいえ脳天を思いっきり木の棒で叩いてしまったから一応謝る。

    「お前身体は軽いくせに攻撃がやたらと重いんだよ!!どうなってんのホント!?」

    悪態をつきながらジャックは草の上を転がった。


    「なぁリュカ」

    「ん?何?」

    ジャックは頭を押さえたまま草むらに仰向けになって僕に話し掛ける。

    「マリサ、帰ってこないな。」

    「あぁ………」

    もう少し、あと少しとコリンを宥めてもう半年が経った。最近ではコリンも諦めたのかマリサの名を口にする事もなくなった。

    「もう…俺達の事忘れちゃったのかな…。」

    「そんな事ないって!何か事情があるんだよ絶対に。だからマリサの事を悪く言うのは止めよう?信じて待とうよ。」

    ジャックはしばらく何も言わず空を眺めていたが、突然起き上がって叫んだ。

    「そうだリュカ!!」

    「いきなり何!?びっくりさせないでよ!」

    「配達のおじちゃんが言ってたの憶えてるか!?」

    「え?……あぁ、遠征を終えたオットー公爵の隊が近くの町を通るってやつ?確か今日だったよね?」

    「それそれ!気晴らしに見に行こうぜ!」

    「見に行くって…僕達二人だけで町まで?駄目だよ怒られちゃうよ!!」

    「黙ってればわかんないって!また草むらで剣の練習してると思ってるよきっと!ほら、行くぞリュカ!!」

    「ちょ、ちょっとジャック!!!」

    ジャックは僕の手を取って勢いよく走り出した。





    


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