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7章
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しおりを挟む何で…どうして…?
理解出来ない。だってあなたはこんなところにいていい人じゃない。
「どうして…?どうしてこんなところにいるの!?ユーリ……!!」
この人はこの世に生を受けたその瞬間から国のために生きる事を定められ、その通りに生きてきた。自分の気持ちよりも幸せよりも優先すべきもののためだけに。
例え私とガーランドのどちらかを選ばなければならないとしたら、あなたは迷わずガーランドを取るのだと、そして私もそれが当たり前だと思っていた。なのに…それなのになぜ?
しかしユーリは答えるより先に私を胸に抱く。 大きく優しいその手は震えていた。
「マリー…遅くなってすまない…!!」
「…ユーリ……ユーリ……!!もう二度と会えないと思ってた!!」
こんなこと本当は喜んじゃいけないのはわかってる。ここが今どんなに危険な場所なのかも。でもどうしても自制が利かなかった。私は力の限り彼の身体を抱き締め返し、その衣服を強く握り締めて泣いた。
「マリー……身体は大丈夫かい?どこも怪我はしていない?…お腹の子は?」
「…悪阻が少しひどいの…でも大丈夫よ…。」
ユーリの香りを胸一杯に吸い込むと、ずっと力が入っていた心や身体が緩やかにほぐれていく。ここが…ここだけが私の居場所なのだと何よりもこの身体がよくわかっているようだ。
けれど途端に思い出す。ジョエル様に触れられてしまった唇や身体。ほぐれた身体は再び強張り無意識のうちにユーリを拒む。
「マリー?」
ユーリは私の頬に優しく手を添え様子を窺っている。
生きるためとはいえ彼に触れられる事を許してしまった私の事をユーリは軽蔑するだろうか。誰とでも同じ事が出来るのかと…そんな風に思われてしまうのだろうか。
「…ユーリ…ごめんなさい……!!」
怖くて怖くて何も言えない。その胸の中で思い切り甘えたいけどこんな私では彼に触れられない。触れてはいけないともう一人の自分が頭の中で叫ぶのだ。
しかし次の瞬間再び私は彼の腕の中に閉じ込められる。
「君が謝る事なんて何もない!君はこんな環境に置かれても必死に生きてくれた。謝るなら私の方だ…!君がこんな目に遭ったのはすべて私の責任だ!!」
「でも…でもユーリ……!!」
「マリー。気持ちが変わったのか?私は何一つ変わっていない。生涯、君だけだ。君を失ったら私は私でいられなくなる。だからここに来たんだ。そして絶対に君を連れてガーランドに帰る。」
ユーリの目には一分の迷いもない。
きっとこの人は私の身に何があったかなんて全部わかっているはずだ。わかった上で、それでもこんなに真っ直ぐに私を…私という人間を見て、欲してくれるのだ。
「…気持ちが変わるなんて有り得ない!私は生涯あなただけよユーリ…!」
「…マリー…愛してる。わかっていたつもりだったけど全然わかっていなかった。君が私にとってどれだけ大きな存在だったか。この命以上だよ……。」
ユーリの瞳から零れ落ちた涙が頬に筋を作る。彼の顔を包んで引き寄せると碧と翠の瞳は湖面のようにゆらゆらと揺れながら私を映す。
何も言わなくてもわかる。この瞳がすべて語ってくれている。どんなに辛かったか。どんなに苦しかったか。どんなに私が大切なのか。
「…ユーリ……愛してるわ…この命よりも…」
彼の唇は少し冷たかったが、喜びに震えていた。重なったところから溶け合うように熱が伝わって行く。何度も何度も、まるで確かめるように角度を変えながらユーリの唇が触れていく。そして最後は安心したかのように一つにぴったりと重なって、ゆっくりと私の腔内に舌を這わせた。
しかし長い長いキスの終わりは突然やって来た。
(…ちょっと……僕達だっているのに長過ぎじゃない!?)
(クリストフ様!!しぃーー!!今物凄くいいところなのに邪魔しないで下さい!!)
ヒソヒソ声に気付き後ろを振り向くと、そこには興奮して目が血走ったリンシア王女に首元を締め上げられているクリストフ様。そしてアランと数名の兵士と見られる方々が真っ赤な顔で立っていた。
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